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澱みを巡る旅は順調だ。
一年近くをかけてほぼ浄化は終わり、残りわずかというところで、記録されている中ではこの国で一番初めに現れたという澱みに着いた。
こういうメインイベントみたいなものって、一番最後にやるものじゃないの?と思ったけど、まぁ着いちゃったものはしょうがない。
いつものように見張り場の騎士達と第二騎士団が魔獣を討伐しだすと、私は祈り始めた。
祈りに集中するけど、戦うみんなをガン見するのもいつもの事だ。
はぁ、カッコいいなぁ。祈る活力になるよ!
この澱みは一番古いとあって、一番頑丈っていうのかな?なかなか浄化されない。
ずいぶん時間が長引いちゃっている。
時間がかかってしまっている分、被害が大きくなってきている。
焦るな。丁寧にしっかり祈れ。
「あ!」
ロイがやられた!
「聖女様!」
「ごめん!大丈夫!」
アルベルトの焦った声が聞こえた。
しっかりしろ!祈りの最中だ。
あぁ、でもロイは立ち上がれない!
このまま魔獣に攻撃されたら死んでしまうかもしれない。
しっかりしろ。集中しろ!
あぁ!魔獣が!!
「ダメーーーーー!!!!!」
叫んだ声が、何か、光の様になって飛んだ。
それは今まさにロイに爪を振り下ろそうとした魔獣にぶつかって、そいつは吹き飛んだ。
そして着地する事なく消えた。
そいつだけじゃない、その場にいた魔獣はすべて、砂が崩れるようにサラサラと消えていった。
澱みに目を移すと、澱みもなくなっていた。
これはいつもの浄化とは違っている。
「……どういう事?」
「……ですか?」
アルベルトたちと首をひねった。
あぁそれよりも!
私は駆け出した。ロイ!!
一番古いと記録されている澱みだけあって、今回は手強かった。負傷者がけっこういる。
死んだ子はいない?動けなくなっている子たちはみんな大丈夫なの?!
「動けるものは負傷者の確認をしろ!
―――聖女様!!」
コンラードの声が聞こえた。
そっちはお任せできると、魔獣のいなくなった戦場をロイの元まで走る。
「ロイ!! 大丈夫なの?!」
「聖女様…。無様な姿をお見せしてしまって…」
「そんな事ない!! それよりケガの具合は?」
「大した事はありません。聖女様、こんなところに来てはいけません。お戻りください」
目に見える大きなケガはなさそうでホッとする。
見えないものはわからないけど。
「本当に本当に大丈夫なのね?
……私がここにいてもジャマになっちゃうから戻るわ。ケガはしっかり治療してね!」
「はい。ありがとうございます。 いらしてくださって、ありがとうございました」
ロイは嬉しそうに笑った。
ちょっと~!
本当に大丈夫なんでしょうね~?!
それから私は立って辺りを見渡す。
すぐ隣にはコンラードが来ていて、アルベルト達もやってきた。
負傷者は多いけど、無事な子たちに安否確認されてみんな大丈夫なようだ。
どうやら大きなケガはないみたいでよかった。
「みんなお疲れ様!今日もありがとう!みんなのおかげで澱みも魔獣も浄化できたからね!ケガ人はしっかり治療して、ケガをしなかった人もしっかり休んでね!!」
「「はいっ!聖女様!! 仰せのままに!!」」
その後、あの時のアレはなんだったんだろうと攻略対象sと話し合った。
結論は出なかったんだけどね。
あれ以降あの感じの浄化もできなかったし。
まぁ何でもいいか。浄化できれば。
その日の夕方。
今日は負傷者が多かったし、私も夕食作りを手伝う。聖女様が側にいるだけでみんな喜んでくれるんだよね。そんなんで元気になれるならお安い御用だよ!
それに、私はケガは治せなかったけど、浄化は出来るので?ケガをした時なんかの化膿止めにはなるみたいなのだ。
今回みんな大きなケガはなかったけど、細かい傷はある。
夕食が終わったら、野営地の中を徘徊しますか☆
澱みを浄化するのも、傷を化膿させないのも(何か規模がだいぶ違うけど)どっちも聖女のお仕事なのだ♪
メインイベント(違)が終わって数日。
明日が最後の澱みという日の事だった。
私とルイーセと女性の騎士さんたちが洗濯から戻ると、野営地が何やら騒がしい。
「何の騒ぎ?」
「聖女様! じつは…」
何でも澱みを浄化し終わった後の祝賀パーティーなどでの聖女のエスコート役の争奪戦をしているとの事。
は? 何それ?
「そんなのあるの?」
「もちろんです!」
そうなんだ。
まぁ澱みがなくなったら、そりゃあおめでたいよね。
でもエスコートってさ、私に選ぶ権利があるんじゃないのかな?
一対一の戦いに目を向ける。
コンラードと、コンラードに挑む雄々しい騎士君がいる。
端には何人か、ガックリとしている騎士君たちがいた。
これは…、すでに負けちゃった子だな。
「始め!」
開始の声が聞こえると、一瞬後には騎士君の剣はなくなっていた。
わっ、一撃か!コンラード容赦ないな!
お、次の相手はロイか。
私はちょっと考えた。
澱みの浄化が全部終わって、王宮に戻って、日本に帰る方法が見つかったと言われたら、もちろん帰る。
この世界で一年ちょっと?ここにいるみんなとは濃すぎる日々を過ごしてきて、そりゃあ絆のようなものを感じる程になっちゃっているけど、帰るか残るかって聞かれたら、帰る。
あの時、ロイが死んでしまうかもしれないって思ったアレがあって、どうやらロイに恋しているらしいと自覚もしたけど、ほら、吊り橋効果とか?この状況のせいとも思えるしね。
だけど、帰ると答える前に、一拍置くくらいにはロイが好きだ。
告白みたいな事はしない。帰るならしてもしょうがないしね。
帰れないかもしれないけどさ。
でも帰れなかったら告白しようとか、なんか卑怯じゃない?
好きな気持ちは純粋でなくちゃと思っている。
アラサーが、何青い事いってんのって感じだけど。
だけどそれはそれ、これはこれだ。
私は歩いて、戦いが終わった両者の元に向かう。
いや、剣を飛ばされて立ち尽くすロイの元に。
「聖女様…!」
通り過ぎざまコンラードに呼び止められるけど、無視して歩く。
コンラードの横を通り過ぎて、ロイの隣に立つ。
それからコンラードを呆れた目で見た。
「明日で終わりといっても、まだ澱みはあるのよ?ケガをして明日に障ったらどうするの?」
「そこのところは大丈夫です!訓練程度にしかやっていません!」
わかってたけど副団長鬼だ…。
ざわつく声が聞こえる。
「あなたの強さは段違いでしょ?まったくもう、容赦ないんだから!」
言って、ロイを見る。
「……またみっともない姿をさらしてしまって」
「みっともなくない! 自分より強いとわかっている相手に挑めるのは勇気があるよ!」
端でガックリしてる騎士君たちにも聞こえるように大声で言う。
言ってロイと腕を組む。
!!!!!
「私のエスコートなら、私が選ぶのが筋でしょう?」
ツンと澄ましてそう言うと、固まっているロイに囁く。
「お願いできる?」
「身命を賭して必ずや!!」
真っ赤になったロイは大声でそう返した。
そんなエスコート聞いた事ないよ!
周りには嗟嘆の声が響き渡ったよ。




