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澱みの場所を巡る浄化の旅は、行く事に決まった。
まぁそうだよね。宮廷内にある礼拝堂で祈るだけでは効果がなくなってきちゃってるんだもん。
だけど聖女を奪われないためにと、そりゃあもう色んな守りが考えられた。
騎士が護衛に就くのはもちろんだけど、私は馬に乗れないから馬車になる。
馬車には何重にも守りの魔法がかけられたそうだ。
その他、私が快適に乗っていられるようにと色々と考えられている。
私用の野営テントも、一般的にイメージできる、あのテントではない。こっちも私が快適に過ごせるようにと、隅々まで心づくしがされている。
同行するみんなが普通のテントや寝袋?なのに申し訳ない。
でもまぁ、こうして澱みを浄化しに行くという旅は、けっこうな時間と労力とお金をかけて準備された。
澱みが発生する場所は都市や町なんか、生活圏の近くばかりではなかった。
山の中や森の中、広大な荒れ地の中なんかにもあって、考えればそりゃそうだよね。
私は昨今のアウトドアブームに乗る事もなく、キャンプなんかした事もない。
都会生まれ都会育ちなのに、いきなり大自然の中で過ごすなんて平常心でいられる訳がなかったよ!
「エミルー!エミルー!助けてー!早く早く!!」
今日も今日とて聖女の悲鳴が響く。
大急ぎでテントの中に入って来たエミルにじゃなくて、一緒にやって来たコンラードに飛び着くと抱き上げてもらう。
足元には虫!
日本では見た事もないようなヤツで、サイズも気絶ものだ。
エミルには魔法でソイツをどうにかしてもらわねばならない。
ジャマにならないように別の誰かに抱き上げてもらう。
テントの外に排除だけならば騎士の誰かでもいいけれど、侵入を防ぐ魔法をかけてもらわなければならないのだ。
隣ではルイーセも騎士の一人に抱き上げてもらっていた。
真っ青な顔でギュッと目をつぶっている。
わかる!わかるよ!!気を抜いたら気絶しそうなくらいだよね!!
ごめんねルイーセ。
私のせいではないけど、こんな目に合わせてしまって。
聖女のお世話係には、侍女が何人かついてきたけれどみんなリタイア。
残りはルイーセだけになってしまった。
あとは女性の騎士さんが数名ついてくれている。
お世話係といっても、私は自分で身の回りの事はできるからいらないんだけど、そういう訳にはいかないらしい。
責任感の強いルイーセは踏ん張ってくれているよ。
責任感だけじゃないかな。
ルイーセとの間には友情が芽生えていると思う。
彼女に言わせると、滅相もありません!となるけれど、私は勝手に友情を感じている♪
話は逸れたけど、大問題は虫だ!
魔獣は大丈夫なんだよね。
祈る時は澱みが見える場所まで行くんだけど、遠目に魔獣が見えても、わっ!と思うくらいで気持ち悪いとかはない。
祈って澱みが消えると、魔獣まで消えてしまうという便利機能☆
初めてそれが分かった時は、戦っていた魔獣がブレるように消えていって、騎士君達は呆然とした。
私と、私を守っていたアルベルト他、みんなも呆然。
何だこれ?礼拝堂で祈ってた時もこうだったのかな?
まぁ、そんなスーパーな聖女様なんだけど、虫は昔から大嫌いなのよ!
魔獣からよりも虫から完璧に守ってください!!
澱みを浄化する旅に出て、少しずつその生活にも慣れてきた。
行動を共にしているみんなとは、何というか、絆?も出来たように思う。
やっぱり苦楽を(楽はないか)共にしていると、そういったものが出来るのかもしれない。
一行は攻略対象sの四人の他、第二騎士団の騎士君達が二十人と(残りは通常業務の宮廷の警備)今はもうたった一人残った侍女のルイーセ。
ロイが同行していたのは密かに嬉しかった♪
オッドがいなかったのは残念だ。
澱みがある場所は町などが近い場所の方が少ない。当然野営が多くなる。
最初のうちは、聖女様だからと何もさせてもらえなかったけど、そこは聖女様の一声。
私もやります!と言えば、みんな拒絶は出来ない。
大学から一人暮らしをしていて、家事は一通りできるからね。野営で家事もないけれど。
でも、ザ・男の料理!よりは、もうちょっと繊細な家庭料理は作れた。
みんなめちゃくちゃ喜んで食べていたから、お世辞ではないと思う。
洗濯は、自分の分くらいやらないとね。
下着なんか男性に洗ってもらえないよ!
もちろん女性にもね!
一番お世話になったのは、というか、これはもうお世話になるしかなかったんだけど、やっぱり天敵、虫だった。
火を囲んでの食事の時は、エミルの両サイドに私とルイーセが座る。ここは誰にも譲れない!
私たちのテントの隣はやっぱりエミルで、反対隣りはアルベルトだったりコンラードだったりスヴェンだったり、そこは誰でもいいけれど(雑)一方は絶対エミル指定だった。
エミルはかなりご満悦だったよ。
まったく慣れる事はなく、テント内に虫が出ると私が悲鳴を上げる。
するとエミルの他、攻略対象sの誰かと騎士が一人二人飛び込んでくる。
たいていは見定める余裕はないんだけど、ロイの時はちゃっかりロイに抱き着いてしまう。
まぁ可愛い女心だと思ってよ。
だって耳元で「まだ目を開けてはいけません」とか「もう大丈夫ですよ」なんてささやかれたら!
めっちゃ好みの声なんだもん、過酷な野営生活にご褒美をください!
そんな騎士君達の澱みでの働きは、半数は私の守り、半数は澱みと魔獣が消えるまでの間、見張り番の騎士さんたちと魔獣討伐をする事だ。
私が安全に、集中して祈れるように、命がけで戦ってくれる。
澱みがなくなるまでの時間は、大きさとか濃さによるからまちまちだ。
不謹慎だけど、祈りながらガン見する。
戦うみんなは本当にカッコいい。
コンラードは群を抜いてカッコいい。
聞くところによると、コンラードはめちゃくちゃ強くて、一騎当千と言われる程だとか。
実際は千人を相手にはできないけど、一個小隊はいけるとの事。
よくわからないけど、なんかすごそう。
「コンラードは強いわね!私は戦いは分からないけど、なんかもう強いだけじゃなくてすごくカッコよく見えるわ!」
何かの時に褒めるともなくそう言うと
「お褒めにあずかり光栄です! ですが私などまだまだです。父や兄の足元にも及びません」
ちょっと照れた後、誇らし気に言った。
「お父様とお兄様もすごいのね」
え、あれ以上なの?と感心すると、嬉しそうに破顔したから、家族仲がいいんだろう。
そういえばアルベルトとスヴェンもお兄さん自慢をしていた。
第二王子と宰相の次男。上を蹴落として自分がその地位に就くとかの悪役じゃなくてよかったよ。
私はほのぼのハッピーエンドが好きなのだ。
戦う騎士君たちが大ケガをすると、澱みの見張り場にいた別の騎士さんと交代する事になる。
第二騎士団は実力派の強者たちの集まりといっても、相手は魔獣だ。これまでも何人か同行できない程の大ケガを負う者が出た。
先を急ぐ私たちは回復を待ってあげる事が出来ない。
私はケガは治せなかった。
なんか中途半端な聖女だよ。癒しの力とかほしかった。
大ケガをして置いて行かれる子たちはみんな黙って耐えている。
誰も、大丈夫です。まだ行けます。とは言わない。
何故か?
「ここまで一緒に来たのに待ってあげられなくてごめんね」
ずっと一緒に戦ってきた仲間を置いていくのは忍びない。
後ろ髪を引かれる思いで、そう言った事があった。
彼らは痛みや悔しさがあるだろうに、ちょっと嬉しそうな顔をしてから泣きそうな顔になって、それからきっぱりと言った。
「戦力の落ちた身で同行して聖女様を危険にさらす事はできません。私の代わりがしっかり聖女様をお守りします。これまで聖女様をお守り出来た事は私の誇りです。この先もどうぞお気をつけて」
聖女を守る事は名誉なのだと聞いた。
そういえばマリウスは結婚を許されたくらいだった。宮廷での護衛でも。
浄化の旅に同行している子たちは、もっと評価されるだろう。
それこそ今後の人生に影響が出るくらい。
だけど個人のそれよりも、聖女の安全を優先してくれる。
欲よりも私を守る事を選んでくれる。
「今までありがとう。しっかり治して、また私を守ってね」
「……はいっ!必ず!!」
澱みを全部浄化して、絶対平和な国を取り戻すからね!
彼らの思いに応えるためにも熱く決意した。




