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5.5




◇◆ロイ◇◆




聖女様の護衛ができると聞いて、俺たちはみんな歓喜に沸き立った。


聖女様の任を務めるのは第二王子殿下で、第二騎士団副団長(コンラード副団長)は第二王子殿下の護衛も兼任しているから、聖女様の護衛も我ら第二になったのだ。


ありがとう!副団長!ありがとう!殿下!




俺は、自然豊かなといえば聞こえはいいが、手つかずの土地ばかり多い、片田舎の男爵家の三男として生まれた。

爵位なんてあってないようなもんだ。

領民と一緒に田畑を耕し、魔獣が出ればそいつを退治する。

魔獣といっても、澱みから生まれるようなものではないけど、森や荒地にはそれなりにいる。


一応貴族としての最低限の教育は受けたけれど、男爵家の三男に婿入りの話なんてある筈もない。

子供の頃から魔獣退治をしてきたおかげで、腕には少々自信がある。


俺は自分の行く末を考えて、王都の貴族が通う学園に行く事にした。

騎士科の学費免除の実技試験に受かる程には剣の腕は通用した。


そのまま実技は成績優秀で卒業する。

学科の方は聞かないでくれ。

まぁ卒業は出来たとだけ言っておこう。


卒業して第二騎士団に配属された。

田舎者だから、どっか地方の第四以降の騎士団に行く事になると思っていたから驚いた。

世界に現れだした澱みが、いつ我が国にも現れるかわからなかったしな。


第二騎士団には学園で親しくなったオッドも一緒だ。

こいつは元々王都育ちでちゃんとした貴族令息だから、俺と違って宮廷に出仕しても堂々としている。


俺が宮廷に慣れた頃、貴人の前に出ても恥ずかしくない言葉遣いや所作を覚えた頃、魔法使団まほうしだんが何年も模索していた召喚が成功した。



聖女様がご降臨された。



それだけで世界の空気が変わった。

少しずつ空気も澱み始めていたんだと、清浄化された空気を吸って初めて気づいた。


何てお力だろう。

男ばかりの兄弟といっても、子供の頃から語り聞く聖女様を素直にすごいと思っていた。

奇跡の物語を聞くたびに、すげー!と憧れていたけれど、直接肌で感じれば更に素晴らしいお方だと感激した。


そんな聖女様の護衛につけるのだ。

そりゃあ俺も含め、第二騎士団みんなは沸き立つさ。


その上、聖女様からお声をかけていただけたのだ!


綺麗な笑顔に、みんな一瞬見惚れ、それから聖女様に剣と命を捧げた。

一糸乱れぬ誓いの声は、恥ずかしながら第二騎士団みんなが初めて揃ったものだった。







◇◆スヴェン◇◆




名をスヴェン・サーシュという。

第二王子殿下の執務補佐官をしている。

父は宰相で、いずれ兄がそれを引き継ぐだろう。侯爵家の次男としてはちょうどいい席といえる。


補佐なので、殿下の行く先々に陪従ばいじゅうする。

聖女様の召喚の場にいられたのは僥倖だった。




二〜三百年に一度、世界に澱みが現れるという。聖女様はその澱みを浄化できるただお一人のお方だ。


それは生まれた時から語り聞かされる、世界中の誰もが知っている言い伝えなのだが…。


そう、言い伝えだったのだ。

そんな何百年も昔の、お伽噺のような事が本当に起こるとは誰も思っていなかったに違いない。かくゆう私もその一人だった。


世界に澱みが現れ始め、初めにそれを聞いた時、皆まさかと思った。

それが我が国にまで広がり、魔獣の脅威が現実となって、繰り返す言い伝えは本当だったと知る。


我が国に澱みが現れて五年、魔法使団(まほうしだん)の努力が実り聖女様がご降臨なされた。


私は特に美醜にはこだわりがなかったが、そういう見方とはまったく別の、神々しい、圧倒的な存在というものを知った。


召喚の間での聖女様は神秘的な美しさを放っておられたが、日の下で拝見する聖女様も、生き生きとしてとてもお美しい。

生命力にあふれ、どんな澱みも掠れて消えてしまうと思われる。


このお方がおられれば大丈夫。

報告書でしか知らない澱みと魔獣の被害だが、我が国は危機を脱したと心から安堵した。




聖女様は独創的というか、個性的というか…。

天上人のお考えは、こんなにも我ら下々の者には遠く及ばないものかと驚いた。


聖女様の神聖なる祈りを仕事と言い、契約書を作る。

高貴なお方ならとても考えられない、屋外でお一人で食事をなさる。

その上お気軽に従者や侍女の澱みを祓い、騎士たちとお言葉を交わす。


天上人であられる聖女様が、日に日に人間に近づいてきているような気がする…。

素晴らしい聖女様なのだが、少し心配だ。


ずっと語り聞いていた聖女様。

言い伝えの中だけの奇跡のお方。

そんなお方に現実にお会いして、お言葉を交わす。

言い伝え通り国の危機をお救いいただいている。


召喚の瞬間からこの目で見ているにもかかわらず、私は未だに信じられないような気持ちでいる。




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