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これは、たぶん、きっと。



―――――召喚された



出社しようとして部屋のドアを開けたら、いきなりこの場だった。

その手の物語に登場する薄暗い室内に、足元には淡い光を放っている魔法陣。


周りにはローブを着た魔法使いらしき人たちが騒いでいて、驚いたような表情の王子様っぽい男の子と、同じく騎士っぽい男が何人か。


数多のウェブ小説やラノベなんかにあるこれって、実際にあるからお話になっているのだろうか?人の想像力が実現させる力を持ったのだろうか?

なんて考えるだけ無駄ね。


これが現実だとして、あおい、しっかりしなさい!ここからが正念場よ!

ざわついている声は聞き取れるから、きっちり異世界言語補正はされてるね!

私は内心気合を入れた。


ゆっくりと周りを見渡す。


魔法陣がある台座は周りより少し高くなっているから、私は必然的に見下みくだすような視線になる。


「代表者は?」


ゆっくりと、全員に聞き取れるように、意図して低い声を出す。

王子様っぽい子がハッとしたように一歩前に出た。


「聖女様におかれましては、我らの呼びかけにご降臨賜りまして心より感謝を申し上げます。

私はウィリディス王国第二王子のアルベルトと申します」


聖女か! 聖女設定か! 召喚されたからそうかもと思ったけどね!


うわ~。魔王を倒せとか、浄化しろとかってヤツね。

これ、やっぱり元の世界に帰れないのかな~と、ここまで五秒。


勝手に呼び出して、勝手に願いを叶えてくれとか言って、帰せないとか言い出したらどうしてくれよう…。

まだ何も言われてないうちから、フツフツと怒りが沸いてきたのが五秒。


それから五秒で今後の話し合いを整理する。

有利になるように動かねば、どうなるかわからない我が身だ。


合計十五秒。方針を決めた。


「呼び出した訳を聞きましょう」


聖女をどう思っているかわからないけど、王子の言葉遣いで当たりをつけて高位者の空気を醸し出してみる。


聖女様に置かれましては、うんたらかんたら…。

これ長引く?こんなところに立たせたまま話すの?

私の不機嫌オーラを感じたのか、聖女様に置かれましては…、


もういいって! 場所を移す。




案内された先はめちゃくちゃお金がかかっていそうな、映画でしか見た事のないような立派な応接室だった。


高級なソファーに沈み込んで、薫り高いお茶をいただく。

遠慮はしない。だって私聖女らしいしね!

本当にそんな力があるかはわからないけどね!


うんたらかんたらが続く。回りっくどい!

言い訳がましい話を要約すると、浄化系の聖女召喚のようだ。


何でも、世界中によどみが現れ始めて、それが濃くなるとそこから魔獣が生まれると。

聖女には、その澱みを浄化する力があるらしい。


ふ~ん。

ありがちな、何番煎じかわからない設定だ。


これ、帰れるのかな…。

一番の問題はそこだよ。


交渉は慎重に。営業職の経験がここで役に立つとはね。

まずは恩を売る。


「私は私の仕事を忙しくしていたというのに…(ここでちょっと溜める)突然呼び出すとは身勝手でしょう」


聖女様のお仕事!

どんな想像をしているのかわからないけど、周りがざわつく。


「その上、縁も義理もない、そちらのために力を貸してほしい…、と?」


そんな! 聖女様なのに…!

あんたら聖女様にどんなイメージもってるんだ。


「王子、あなたは自分の環境に満足していますか?」

「は? …はい」

「王子として誇りをもって職務を全うしていますか?」

「はい!」

「家族や友人、周りの人たちとは良好な関係ですか?」

「はい」


ゆっくりと周りを見渡す。

従者や騎士の皆さん、肯定の表情で王子を見守っている。


「では…。もしこの場から急に、縁も義理もない、見ず知らずの場所に呼び出されたらどう思いますか?」

「は…?」

「まったく関係のない、初めて会う人に、こちらの事も考えず、自分たちを救ってほしいと言われたらどう思いますか?」

「…… …… ……」


王子絶句。

周りもしーーーんと静まり返っている。


「で、ですが! 聖女様は…。 聖女様にしか…。 お頼みできない…、 事なのです…」

「呼び出された先で、王子にしかできない事なのだと言われたらどう思いますか? 自分にしかできないのだからと頼みをききますか?」


王子はもう言葉を続けられない。

もう一押し。現状を正確に知ってもらおうか。


「無償の奉仕をされますか? 

……王子はとても尊い心をお持ちですね?」


とどめに薄く微笑んだ。




まずは聖女の仕事を含め、今後の事を話し合おうか。

宮廷の筆頭魔法使いという人の話では、やっぱり私は帰れるかわからないようなので。


どうして召喚って片道通行なんだろう?

でもまぁそうはいっても、何がどうなるかわからないファンタジー。もしかしたら帰れるかもしれないと自分を奮い立たせる。

そうでも思わないとやってられないというかね!


とはいえ、帰るまでは食べていかねばならない。幸い?私にしかできない仕事があるというのなら、せいぜい吹っ掛けてやりましょう!

これはれっきとした拉致だしね!当然の権利だよ!


私の待遇的なところで、まずは衣食住の、住。


これは、私が何か言う前にサクッと王宮に住む事が決まった。私の仕事が宮廷内の礼拝堂で祈る事なので、あちらから是非にと頼まれたのだ。

ちなみに王宮と宮廷は同じ敷地内にあって、回廊でつながっている。別棟みたいな感じらしい。


後々わかった事だけど、聖女召喚には宮廷主導のものと教会主導のものがあって、今回は宮廷側が成功。教会側は失敗したんだって。

失敗というか、先に宮廷側が私の呼び出しに成功したから教会側には現れなかったという。

世界には、同時に聖女は二人現れないらしい。

私を教会に奪われてはならないと、王宮住まいになったのというのが本当のところみたい。


教会だけじゃない。澱みは世界中に現れている。

聖女がこの世に現れただけでも、ある程度澱みの発生や澱みが濃くなる(魔獣の発生)早さは抑えられるらしいけど、やっぱりその国で祈ってもらわなくちゃ澱みは消えない。という訳で、聖女は各国からも狙われる。

ダブルの意味で、国で一番守りの強固な王宮住まいになったという訳だ。


部屋は王宮で一番いい部屋だって。

王様や王妃様よりもいい部屋と聞いて、それっていいの?!大丈夫なの?!と思ったけど、大丈夫だった。


この世界の聖女信仰は、生まれた時から語り聞かせや絵本で、しっかり人々の心に根付いているんだとか。

聖女様は王様や王妃様より立場が上らしい。


次に食。


これは王宮(の厨房)から出される。王宮に住むんだから当たり前といえば当たり前か。

まぁね、自炊ができるアパートの部屋とは違うし、食事つきの高級下宿と思えばいいかな…。なんかちょっと違う気がしないでもないけど。


残るは衣。


これも宮廷側に用意してもらう事になった。制服の扱いで宮廷負担にしてもらう。

ちなみに勝手に召喚したのだから、家賃と(王宮住まい)食費も宮廷持ちだ。


聖女はやっぱり白いドレス着用だそうで、その方面でいいけれど動きやすいようにシンプルなワンピースにしてもらった。

仕事着はスーツだったからスカートに否はない。


だけど白いワンピースかぁ…。

アラサーにはちょっとコスプレ感があるよね。いや、聖女の制服!制服!

買い物に行けるようになったら私服を買おう!




身の回りを落ち着けたら、勤務について話し合う。


勤務(祈る)時間は朝八時から夕方五時まで。お昼休憩は一時間。休日は最低でも週一日。

月のお給料は宮廷に勤めている高位貴族と同額。残業と休出は割増料金。


私を元の世界に帰す方法を探し続ける事。

澱みをすべて浄化し終わった時に帰す方法が見つけられていなかったら、田舎でいいので家と土地を退職金として用意する事。

その後も帰す方法を探し続ける事。


大きなところはこんな感じ。

もう少し細かい事も話し合って、同席してもらった筆頭魔法使いに正式な雇用契約書を作ってもらう。


相互に不利な事はないか、お互い確認をしたらサインをする。

その後、記されている契約内容が反故されないように魔法をかけてもらう。


長々と話し合っていたら、すっかり真夜中になっていた。

とりあえず仕事は明日からだ。


私は案内された部屋につくと、さっとお風呂を使わせてもらって(化粧を落とさねば!)さっさとベッドに横になった。


あー、疲れた!








お読みいただきありがとうございます。

続編を投稿するにあたり、設定をひとつ変えました。

内容に変わりはありません。


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