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プロローグ(目撃した父の死)

「はぁはぁ……」時計を見ないで全力疾走。

 信じるものは救われるのだ……きっと。

 

 今日は1、2年生のみで組まれた新チーム初の練習試合の日だ。

 応援に行くため、いつもより早く起きなければならなかったのに、普段通りの時間に起きてしまったことを今更ながら後悔してしまう。

 

 私が通っている女子高のバドミントン部は、地区大会も終わって、3年生はみんな引退。

 弱小チームだったから、良い成績は残せなかったけど、後輩たちには私たちの分まで頑張ってもらいたい。

 

 あなたたちなら、やれば出来る。我々の無念をはらしてくれ!

 ……なんて、根拠もなく、こんな事を言うと、ただの押しつけだよね。ってか、パワハラか……。

 

 刺すような夏の朝日を全身に受けて、変なことを考えながら必死に自転車のペダルを漕いでいると、ようやく国分寺の駅が見えてきた。


 外の熱気と身体の熱の発散で呼吸と心臓の鼓動が一気に速くなる。


 何とか間に合いそう……


 しゅうは、駅の駐輪場にたどり着くや否や自転車から飛び降りて、前カゴに入れていたリュックを慌ただしく抱えると、小走りに駅の中に消えていった。



 リュックを抱えたまま改札を通り抜けたしゅうは、徐々に息が上がってきていたが、それでも足を止めることなく、一心不乱にホームへ続く階段を上り始めた。


 停車中の電車は今にも動き出しそうな気配だ。

 ホームには電車の出発を告げる聞き慣れた軽やかなメロディーが流れ始めた。


 もう少し待って、頼むよ……


 しゅうは、ようやく階段を登り切った時、今の時刻が気になって、向かいのホームの吊り時計に目をやった。


 その瞬間、しゅうの視界の端に見慣れた顔が現れた。


 あっ、パパ?


 肩で息をしていたしゅうは、電車に乗り込むことを一瞬忘れて立ち止まった。

 しゅうは向かいのホームの方へ向き直り、男性の方へ手を上げかけた。


 ……えっ?


 そのまま身体が固まった。抱え込むように持っていたリュックが両腕をすり抜けて足元に落ちたことにも気付かなかった。


 向かいのホームにいたグレーのスーツ姿のその男性は、ホームに滑り込んできた電車に吸い込まれるように消えた。


 電車は車輪を軋ませながら、何とか止まろうとして必死にもがいていた。電車の発する叫び声のような警笛が辺りの熱い空気を切り裂いた。


 ほんの一瞬のことだった。


 でも、しゅうにとっては、その瞬間の光景を切り取って脳裏に焼き付けたかのように、その映像が頭から離れなかった。


 朝の混雑する駅のホームでは、その場に居合わせた人々が電車を大巻きに取り囲み、前の方にいる人の悲鳴や叫び声が次々と響き渡った。


 しゅうも人々の悲鳴を聞いた気がした。遠くのほうで……


 朝から強い夏の日差しを受けながら、しゅうは血の気が引いてフラフラとよろめいた。隣にいた通勤客に支えられて、何とか倒れずに済んでいた。


 駅のホームはみるみるうちに人だかりが出来て、通勤ラッシュの最中の人身事故に混乱を極めた。



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