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合わせ鏡の君

作者: 八波草三郎

本作は人気声優・佐倉綾音さんが某番組内で発言した『他人NPC論』を元に着想、作劇した物語です。

「改めまして安倉(あくら)沙耶音(さやね)です」

「改めまして大東(おおひがし)志織(しおり)です」


 声優バラエティ『安倉となりたい大東』の本編がスタートした。声優、安倉沙耶音と大東志織がMCをする人気番組である。


 様々なコーナーが存在するも、いつもトーク部分が伸びてカットされてしまう。逆にいえば彼女たち二人のトークの軽妙さがウケている番組だからこそ存続しているといえよう。


 今日もトークは妙な方向に転がり、少しオタク気質の強い沙耶音が手の届かない相手と思われていた先輩と共演したエピソードへと発展した。


「そういう人間らしさを見るとどきっとしない? 『ああ、この人も人間だったんだ』って思っちゃうのよね」

「何言ってるのよ、沙耶音。人間に決まってるるじゃない?」

 志織は決めつける。

「えー、思わない? 『シュレディンガーの猫』でしょ? この人も切ってみないと血が出るかどうかわからない」

「そこまで考えない」

「でも『他人NPC論』とか考えたことない?」

「あ、ちょっとすいません。なんて?」

 飛躍した沙耶音の発想に志織は気後れしている。


 声優という職業柄、想像力は豊富な二人。しかし、このときばかりは志織もついていけなかった。


「自分がプレイヤーだとして、大東さんに感情があるかないかなんて一生分からずに生きていくんだよ?」

「ちょっと、この子、かわいそう」

「かわいそうじゃない!」


 沙耶音は重ねて同意を求めるが、周囲の空気は同情的なものをはらんでいった。


「ない? ないの?」


 沙耶音は更に言い募る。


   ◇      ◇      ◇


「小林博士、彼女は何か気付いているのでしょうか?」

 分厚いガラスの向こう。ベッドに横たわる安倉沙耶音の横、モニターに映る彼女の夢を見つめながら大東志織は言う。

「気付いているわけがない。彼女の本来もつバイタリティがこんな夢を見させているのだろう」

「過去の記憶はもう失われているんですもんね。でも……」


 中東のとある国で安倉沙耶音という日本人が発見されたのは二年前。人間兵器とすべく訓練が施され、深層催眠で洗脳を受けた彼女が社会復帰できる目処は立たなかった。

 洗脳を解除できたとしても、沙耶音が自分の受けた仕打ちに心の傷を負ってしまうかもしれない。そんな懸念から、最先端の精神医療の被検体とされることが決定されたのだ。


「君が社会復帰プロジェクトに参加したいと強く望んだときは驚いたよ」

 博士は志織に問う。

「なぜ人気声優の大東志織が安倉くんに肩入れするのか分からなくてね」

「だって、同年代の女性が自分の居場所さえ掴めずに苦しんでいるなんて信じられなくって……」

「それで? 計画通り安倉くんが目覚めたら一緒に番組をするのかね?」

「もちろんです。そのためにプロデューサーに懇願したんですから」


 既に『安倉となりたい大東』のスタッフも集められている。かなり冒険的な試みではあるが。


「今、安倉くんは生まれてから人気声優にいたるまでの過程をVRの高速追体験で終えようとしている。NPCとして登場した大東くんとの経験とともに。目覚めてからも君とのパートナー関係は円滑だろう」

「それは自信あります」

「だが、どんな処置が施されたかは安倉くんに告げなくてはならない。現実の彼女は人気声優ではなく、ぽっと出の声優なんだからな」

 様々な齟齬が生じよう。

「全てわたしが受け止めます。沙耶音の喜びも悲しみも」

「そうかね。そこまでいうなら任せよう」


 志織は意気込んでいる。仕事上のパートナーを得るだけでなく、きっと一生の親友をも得ることになるのだから。


「ねえ、小林博士? 過去の沙耶音はどこに行ってしまったんでしょう? 暗殺者の沙耶音と人気声優の沙耶音はどちらが本物なんだと思います?」

「彼女がどちらを選ぶかは君次第だと思うよ、僕は」

「はい。沙耶音が合わせ鏡の真ん中に立っているんなら、わたしが暗殺者の側に立って消してみせます」

 最初から決めていたこと。

「必ずなってみせます。沙耶音と一緒に立派な人間に。本当の人気声優に。だって『安倉となりたい大東』なんですもん」

「ふむ、おっと目覚めたようだ。おはよう、安倉沙耶音くん」


<完>

一面ではかなり中二的な発想ですが、掘り下げるとイデオロギーにまで達しそうなワードです。人間の自我とはなんぞや? 単なる記憶の結晶化したものなのか? ちょっと考えさせられますね。

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