「無能なおっさんはこのパーティーから出ていけ!」勇者であるオレは、そう言って役立たずなおっさんを追放した。無能がいなくなり、オレが率いる勇者パーティーは成功を約束された! そう、思っていたのだが……
最近はやりの追放ものを、追放した側視点で書いてみました。
楽しんでいただけたら幸いです。
「無能なおっさんはこのパーティーから出ていけ!」
勇者であるオレ――ユージーンは、オレが率いる勇者パーティーが集まった部屋の中で、目の前にいるおっさん――アイン目掛けてそう告げた。
当のアイン本人はと言うと、何を言われたのか理解できないとばかりに目を見開いている。
「おいユージーン、いきなり何を言いだすんだ。どうして俺がパーティーから追い出されないといけないんだ? ちゃんとこれまでサポーターとしてパーティーに貢献していただろう?」
「はあっ? 何を言ってやがる! 足手まといと思ったことはあっても、役に立ってると思ったことなんざほとんどねぇんだよ!」
「なっ……!」
信じられないとばかりに、アインは言葉を失っていた。
なんだ? まさか自覚していなかったのか?
はあ、なんて可哀そうな奴なんだ。
仕方がない。心優しいオレが一から説明してやるしかないみたいだ。
「だってそうだろう? サポーターって言えば聞こえはいいが、実際は単なる穀潰しだ。俺たちはこの国でもトップクラスの勇者パーティーだぞ? おっさんみたいに安全な後ろから指示を出したり、効果がほとんどねぇサポート魔法を使うだけの奴、必要ねぇんだよ」
「なっ、そんなはずはない。ちゃんと俺のサポート魔法の効果はあるはずだ。それに、ダンジョンや魔物の知識がある俺がついていないと、お前たちがヘマをやらかすかもしれないだろ?」
「はっ、この後に及んで言い訳か。むしろダンジョン攻略中に、まだ余裕があるのに引き返そうと言ってきたり、迷惑だった記憶しかねぇな。そろそろ自分の無能さに気付いたらどうなんだ!」
そこまで言ってもおっさんは自らの愚かさを信じられないようで、他のパーティーメンバーを見渡した。
「なあ、お前たちからもユージーンに何か言ってやってくれ。俺がこのパーティーに必要だって」
おっさんは俺以外の奴らに頼って活路を見出そうとしたようだが、無駄だ。
だって今オレが言ったのは、事前にコイツらと話し合った上でのことなんだから。
その証拠に、
「いや、悪いけど俺はユージーンに賛成だ。あんたがいなくても、なんの問題もないよ」
「そうね、むしろ私も邪魔って思うことの方が多かったし。まあ荷物持ちがいなくなるのは困るけど、また別の奴を入れればいいんじゃない?」
「……どっちでもいい。いてもいなくても同じ」
タンクのカン、メイジのラル、ヒーラーのマーシーが次々とオレの肩を持つ。
「そんな……」
「もう分かっただろ? このパーティーにお前は必要ねぇんだ。分かったらさっさと出ていけ!」
これ以上会話は必要ない。
こうして、オレは無能だったおっさんをパーティーから追放するのだった。
その日の夜、宿の部屋で酒を飲みながら、オレは高揚感に包まれていた。
絶望の表情で去っていったおっさんの後ろ姿を思い出すだけで笑いそうになる。
「ははっ、あの無様な姿。いい酒のつまみだな。でも、もともとはおっさんが悪いんだぜ?」
おっさんとパーティーを組み始めたのは、今から三年前。
あの時のオレは駆け出しの勇者ということもあり、パーティー設立時にギルドから経験豊かな者をメンバーにした方がいいと言われて紹介されたのが、あのおっさんだった。
最初は10以上歳の離れた男とパーティーを組むのに嫌悪感を抱いたものだが、実際に組んでみるとアインは冒険者の経験が長いだけあり知識も豊富で、サポート魔法もかなりの効果があった。
しかしそれも最初だけ。
才能に溢れた勇者であるオレは瞬く間のうちに成長し、アインの助けがなくとも立派な冒険者として活躍できるようになっていた。
これからは、俺の輝かしい日々が始まる。
心からそう信じ、未来に希望を抱いていた。
けれど……
「おっさんが役に立たなくなってから、何度もパーティーから抜けるように促したのに、聞く耳を持ちやがらねぇ! 今はまだAランクだが、これからSランクに到達するであろうオレのパーティーに居続け、甘い汁を吸い続けようとしていたんだろう。さすがにそれは許せないよな」
だから追放してやった。
ようやくだ。心からせいせいする。
「ああ、明日からの冒険の日々が楽しみだ! まずは、あのおっさんのせいで前回最後までいけなかったダンジョンを攻略してやる!」
興奮のままに、高らかに宣言する。
しかし、この時のオレは気付いていなかった。
もう既に、オレの輝かしい未来が崩れ始めていたことに。
◇◆◇
「カン、何をやっている! ちゃんと魔物を食い止めろ!」
「やっている! けどおかしいんだ、こいつら、前戦った時より強くなって……くっ!」
王都から馬車で三日ほど行った先にあるAランクダンジョンに、俺たちは挑んでいた。
アインという足手まといがいなくなり、今回は順調に進めると思っていたのだが、どうにも様子がおかしかった。
まず一つが、ダンジョン内に出現する魔物が以前より強くなっていることだ。
その証拠に、魔物たちがタンクであるカンの守りを突破し、オレたち目掛けて襲い掛かってくる。
「くそっ、仕方ない!」
緊急事態のため、仕方なくオレもタンクの真似事をして、魔物の進行を食い止める。
「ユージーン! 魔力が溜まったわ!」
「よし、やれ!」
「喰らえ――ファイヤーストーム!」
オレとカンが前線から撤退するのと同時に、ラルの上級魔法が魔物の群れに襲い掛かる。
これで一網打尽にできたはず――っ!
「おい、まだ生きてるぞ!」
「嘘、そんなはずは……」
しかし、上級魔法をまともに喰らったはずの魔物たちは、ダメージこそあれどほとんど死んでいなかった。
多少は鈍った動きだが、諦めることなくオレたちに襲い掛かってくる。
「ふざけやがって! 死ねぇ!」
怒りをぶつけるようにして、オレは聖剣を振るい続けた。
結果として、以前までは5分で倒せたはずの敵に、10分以上の時間を費やすのだった。
魔物には勝利したものの、空気は最悪だ。
全員が無言のまま、先を目指して歩いている。
魔物が普段より強いという異常事態だが、ここで撤退の選択はできなかった。
アインがいなくなった結果、前回より浅い階層までしか行けなかっただなんて思われるわけにはいかないからな。
それは他の皆も同じく思っているのだろう。
だからこそ、誰一人として撤退の提案はしなかった。
歩いている途中、分かれ道があらわれた。
三方向に進めるみたいだが、どれが正解だっただろうか。
前回も通っているはずだが、なぜか思い出せない。
「どの道が正解か覚えている奴いるか?」
カンたちに尋ねると、三人は自信満々に三方向を指差す。
全員別の道を指していた。
一瞬ふざけてるのかと思ったが、そうではないみたいだ。
三人は顔を合わせて議論し始める。
「こっちだろ? 確か初めて来たときは、こっちから行ったはずだぞ」
「何を言ってるの? 二回目の時は覚えているけれど、こっちだったはずよ」
「……前回は、こっち」
これまで、このダンジョン三回挑戦したことがある。
三人の情報をまとめると、毎回通った道が違うとのことだった。
「なるほど、つまりどの道も先に繋がってるということだな。それさえ分かればいい。先に行くぞ」
どれを選んでも一緒だと判断したオレは、真ん中の道を選ぶ。
そのまましばらく進んでいくと、大きな部屋に辿り着いた。
「? 前回、こんなところあったか? まあいい、開けるぞ」
開けた瞬間、暗闇だった室内に光が灯る。
……のだが、壁が一面真っ黒なだけで、何も見当たらない。
なんなんだここは?
「ちょ、ちょっと、ユージーン、あれ……」
「ん?」
突然どうしたのか、ラルは恐怖に支配されたかのような表情で、部屋の中を指差す。
しかし何度見たところで、そこには何も……
「いや、なんだあれは?」
遅れて気付いた。
一面の真っ黒な壁が、もぞもぞと動いていた。
「あれはいったい――ッ!?」
そこでようやく、あれが何であるかが分かった。
壁を覆う真っ黒なあれは全て――
「虫の魔物だっていうのか!?」
そう、一匹一匹が小さいため気付くのが遅れたが、あれは全て虫の魔物だ。
そして魔物たちは、部屋の前で立ち尽くすオレたちに向かって、一斉に飛行してくる。
「くそっ、逃げるぞ!」
「あ、ああ!」
「待ってよ、私たちを置いて行かないで!」
「…………!」
あんな気持ち悪い魔物を、数百匹も同時に相手にしてられない。
オレたちはその後30分近くかけて、何とか大量の虫から逃げ切るのだった。
「ぐすっ、ぐすっ」
虫から逃げきった後、マーシーはその場にうずくまって泣いていた。
もっとも足の遅い彼女は、虫から逃げ切れず攻撃を喰らってしまったのだ。
ダメージこそ少なかったが、虫の魔物が体を包んだことに対し、嫌悪感を抱いた結果のようだった。
そんな目にあったマーシーに同情したい気持ちはあるが、それを実行する余裕はなかった。
「おい、どうなってるんだ! どの道も先に続く正解じゃなかったのか!? なんであんなトラップが待ち受けているんだ!」
「知らないわよ! ていうか、あんたが真ん中の道を選んだせいでこうなったんでしょ! マーシーに謝りなさいよ!」
「なっ、ふざけるな! オレの責任だって言うのか!?」
あまりにもふざけたラルの言葉に、思わず全力で言い返してしまう。
そんな風にオレとラルが口論している横で、カンは何かを考えこんでいた。
そしておずおずと口を開く。
「な、なあ、思い出したんだけどさ。これまで何回か攻略に来た時もあの三本道はあったけど、毎回アインが選んだ道を進んでたんだ」
「っ、それは事実か?」
「あ、ああ。一度攻略した場所を進むときには即断即決するアインが毎回どの道を進むか悩んでいたのが印象的だったから間違いない」
「毎回悩んでいた? まさか!」
俺は一つの結論に辿り着く。
「このダンジョンは、挑戦するたびに正解の道が変わる仕様になっていて、アインだけがそれを見抜いていたって言うのか? そんなバカな!」
「でも、そうとしか思えない。確かアインって、精度は低いけど罠を見抜くスキルも持ってただろ?」
「だからって、あのアインが……そんなはずはない、そんなはずはないんだ!」
あんな無能なおっさんが、そんな役に立つことをできるわけがない!
だから、カンの予想が間違っているに違いない!
オレがそう確信していると、ラルが口を開く。
「で、ユージーン、これからどうするつもり? さすがにイレギュラーな事態が連続で続いちゃったわ。ここは一旦撤退するのが正しいんじゃないかしら?」
何をふざけたことを言ってるのか。
それだと、アインがいなくなった結果、このパーティーがダンジョン攻略に失敗したんじゃないかと思われるだろうが!
「ふざけたことを言うな、ラル! 絶対に今回でこのダンジョンを攻略するんだ! そして、アイツが無能だったと証明しなければならな――」
『ふうむ、なんとも耳障りな声じゃな』
「――は?」
言葉の途中で、聞き慣れない声が聞こえた。
落ち着いて、静かで、それでいて深みのある声だ。
直後、巨大な風切り音が聞こえてきて、地面に暗い影が生まれる。
上空を見上げたオレは、衝撃のあまり言葉を失った。
だって、そこにいたのは――
「う、嘘よね……」
「なんでこの魔物が、こんな場所に……」
「……いやあ」
――魔物の頂点に立つ存在、ドラゴンだったのだから。
巨大な赤色のドラゴンは、バサバサと翼を羽ばたかせながら着地する。
『ふうむ、久々に腕のなる相手がやって来たかと思い、わざわざこうして巣から出てきたというのに、矮小な者ばかりではないか。これはおかしな話だ』
ドラゴンは金色の目をオレに向ける。
それだけでオレは動けなくなった。
『おい、そこの。お主らはこれで全員か? 以前お主らがここに来た時には、もう少し骨のある人間がいたように思うのじゃが』
「あっ、あっ、ああっ……」
『むっ、言葉を返す気力もないのか。まあよい、それならばお主らの期待に応えるだけのことよ』
言って、ドラゴンは大きく翼を広げる。
『喜べ、矮小な者たちよ。わしこそがこのダンジョンのボス、レッドドラゴンじゃ。最下層まで行く手間が省けたじゃろ?』
そう言い終えた後、ドラゴンの纏う雰囲気が変わる。
そして莫大な魔力を纏った。
『じゃが、わしにも情けはある。――死にたくなければ、惨めに逃げよ』
言って、巨大な炎の塊をオレたち目掛けて放ってきた。
ただ、当てるつもりはなかったのか、全員を僅かに逸れてオレたちの後方にいく。
直後、爆音が鳴り響き、炎が当たった地面は跡形もなく溶けていた。
一歩間違えていたら、オレたちもあんな目に……
「う、うわああああああああああああああああ!」
「ユージーン!?」
「っ、私たちも後を追うわよ! こんなの相手にしてられない」
「やだ、やだ、やだ。死んじゃう、死んじゃう、死んじゃう!」
冷静さを保つなんて不可能だった。
必死に、生きることだけを考えて、ドラゴンから逃げる。
『ほれ、必死に逃げんと死ぬぞ』
背後から連続で放たれる炎の塊。
それが近くに当たるだけで、高温の熱風が体を焦がす。
もはやなりふり構ってなどいられない。
道中に出てくる魔物と戦う気にすらなれず、大量のダメージを負いながら、オレたちはダンジョンを脱出するのだった。
◇◆◇
あんな目にあった後で、なお攻略を進めようとは思えなかった。
オレたちは傷だらけの体を引きずるようにして、三日かけて王都に帰還した。
もう、体はボロボロだ。
「……なんだ?」
王都に入って気付いたが、人々がかなりの賑わいを見せていた。
何かあったんだろうか?
道行く人に尋ねてみる。
「おい、なんだか随分と賑わってるが、何かあったのか?」
「ああ、町中に化け物みたいな魔物が現れたんだ! それで誰もが恐怖する中とあるパーティーがその魔物を華麗に倒しちまったんだ! すげぇかっこよかったぜ! 英雄ってのはあの人たちのことを言うのかな? 見逃したあんたらが可哀そうだ!」
「……なんだと?」
町中に強力な魔物が現れた? それで、そいつを倒して英雄気取りになっている奴がいると?
……ふざけた話だ。
「この話についてもっと聞きたいなら、冒険者ギルドに行くといいよ! 魔物を倒した人たちがギルドマスターに呼ばれてたから、まだいるはずだぜ」
「わかった。情報感謝する」
軽く礼を言った後、オレたちはギルドを目指す。
「ふうん、強力な魔物を倒した英雄ねぇ。けど、どうせ大したことないんでしょ?」
「十中八九そうだろう。仮にオレたちが王都にいれば、あまりにも簡単に倒すから話題にすらならなかっただろうさ」
「確かにそうでしょうね。けど、いったいその魔物を倒したのはどこの誰なのかしら?」
「それは今から分かるさ」
「気になるけど、私は先に宿に戻るわ。さすがに疲れたしね」
「俺もそうする」
「私も」
そこでラルたちとは別れ、一人で移動する。
ギルドに辿り着いたオレは、扉を開けて中に入る。
するとそこには予想外の人物がいた。
「……? ユージーン?」
「ッ、アイン……!」
なんと、そこにいたのはあのアインだった。
ただ、どこか様子がおかしい。
というのも、あの無能で役立たずなはずのアインが、多くの冒険者たちに囲まれている。
そんなアインのすぐそばには、この世の者とは思えないような絶世の美女が三人も立っていた。
赤髪、青髪、黒髪の女がいるが、そのうちの一人、黒髪の女は幸せそうにアインの腕に抱きついている。
なんでこんなおっさんに、これほどの美少女たちが……?
いや、気になるがそれは後だ。
オレとアインの間に広がる険悪な空気を感じ取ったのか、周囲の者たちの中に緊張感が生まれる。
「おい、おっさん、なんでテメェがこんなところにいるんだ?」
「お前たちがいない間に、町に魔物が出てな。それを俺たちが倒したことで、呼び出されたんだよ」
「はっ! なんだ、魔物を倒したのはおっさんだったのか? ってことはあれか? その魔物はゴブリンか何かだったんだろうぶふっ!?」
突然のことだった。
オレは床に横たわり、そんなオレの頭をアインの隣にいたはずの黒髪の女が踏んでいた。
「貴方、アイン様に対する口の聞き方がなっていないようね。それとゴブリン? 貴方、私のことをゴブリンと言った?」
「がはっ!」
ミシミシと、オレを踏む力が強まり、床が割れていく。
「よーく見なさい、これが何か分かるかしら?」
女の言葉と共に、俺の目の前に何かがぶら下げられる。
これは……黒色の尻尾?
「まだ分からないなんて、ずいぶん勘が悪いようね。私はドラゴン、それもドラゴンの中でも頂点に君臨するエンシェントドラゴンよ!」
「なっ、エンシェントドラゴンだと!?」
名前だけは聞いたことがある。
ドラゴンの王、エンシェントドラゴン。
あのレッドドラゴンの数十倍は強く、人型に変化することも可能だという。
つまりこの女は、エンシェントドラゴンが人化した姿だというのか!?
「シエン、足をどけてやってくれないか?」
「っ! も、もう、アイン様が言うなら仕方ありませんわ」
ドラゴンの王は、あろうことかアインごときの言葉に従い、俺から足をどかす。
「お、おいおっさん、これはどういうことだ?」
「さっき言っただろ? 町中に魔物が出たって。それがこいつ、エンシェントドラゴンだったんだよ。で、それを俺たちが協力して倒した結果、俺に従うことになったんだ」
「エンシェントドラゴンをテイムしたということか!? そんなこと、信じられるはずないだろう!」
あの無能なアインが!
ありえない!
あまりにも馬鹿げた主張に動揺していた、そんな時だった。
ギルドの扉が開き、少女が中に入ってくる。
豪奢なドレスに、美しい金色の長髪。
彼女のことは知っていた。この国の第一王女、アリスだ!
国王様より、勇者の称号を与えられた場にもいた!
しかしなぜ、彼女ほどの者がこんなところに――
「っ、アイン様!」
――そう思った直後、アリスは満面の笑みを浮かべてアインに抱きついた。
「ようやく会えました! ずっとお礼がしたかったんです! エンシェントドラゴンからわたくしを守って下さり、本当にありがとうございました!」
なんなんだ? 何が起こっている?
さっきから目の前で起きていることに現実感がない。
と、ここでギルドの奥から見慣れた男性が姿を現す。
いつもお世話になっているギルドマスターだ。
彼はアインの肩を叩くと、嬉しそうに笑う。
「アイン、よくやってくれた。今回の件は本当にお手柄だ。やっぱりお前は世界一頼りになるな!」
「やめてくれ、ジューダス。今回うまくいったのはシャルやミナが頑張ってくれたからだよ」
「そんなことはないぞ。アインのサポートがなければとても太刀打ちできなかった」
「そうです! 全部アインさんのおかげですよ!」
赤髪と青髪の美少女二人が、心からそう思っているかのようにアインを褒めたたえる。
こんなのは、こんなのは間違っている。
「ああ、そうだ。アイン、今回の件でお前のパーティーをSランクに上げることになった。これからも期待してるぞ」
「なっ、Sランク!? アインがSランクだと!?」
Sランク、それはオレが冒険者として活動する上で最大の目標だった。
それを先にアインが達成するなど、許せることじゃない。
文句を言おうとすると、ギルドマスターがオレを見る。
「それから、ユージーン。お前にもランクのことで話がある」
「っ! それはやはり、Sランクに昇格ってことですか?」
「いや、その逆――お前はBランクに降格だ」
「――はっ」
今度こそ、心の底から何を言われたか分からなかった。
頭が真っ白になる。
「な、なんで……」
「決まってんだろ、アインをパーティーから追放したからだよ。アインは優秀だ。こいつがいるだけでそのパーティーの実力は何倍にも膨れ上がる。だからこそ、お前の将来性を期待して勇者パーティーに入ってもらっていたんだが……まさか、アインを足手まとい扱いしていただなんてな。呆れたよ、お前にAランクは務まらない。実力的にも、精神的にもな」
「そ、んな……何かの、間違いじゃ……」
絶望するオレに対し、ギルドマスターは続ける。
「じゃあ聞くが、お前ここ数日Aランクダンジョンに行ってたんだよな? 攻略には成功したのか?」
「そ、それは……」
「やっぱり失敗したのか。どうせ、前回行ったところにさえ到達できなかったんだろ?」
「いや、違うんです! 何かがおかしかったんです! 出てくる魔物は強くなっていたし、オレたちの調子も悪くて……本当なら攻略できていたんです!」
「馬鹿言うな、それがお前たちの本来の実力だ。これまではアインが常にお前たちにバフをかけ、魔物にデバフをかけてくれていた。それを自分の実力だと勘違いしたお前が悪い」
「そ、んな……」
アインならともかく、ギルドマスターが嘘をつくとは思えない。
なら、今の話は全部本当なのか?
ずっと、オレは自分の力で強くなったと思い込んでいた。
だから、もうアインのような役立たずは不要だと斬り捨てた。
けど、オレの力は全部、アインがいたから成り立っていたのか……?
認めたくない。
認めたくないが、認めざるを得ない。
ただそれでも、ふつふつと沸き上がる怒りがあった。
「くそおっ、アイン! これも全部お前のせいだ! お前が有能だと知っていたら追い出したりなんてしなかった! なぜそれを俺に伝えなかった!」
「何度も何度も伝えたよ。聞こうとしなかったのはお前だろ」
「っ、そんな言い訳、信じられるか! 信じてほしかったら、今すぐオレのパーティーに戻って来て貢献しろ! それがお前の責務だろう!」
あれだけ、オレのパーティーに居続けようとした奴だ。
ここまで言えば、喜んで戻ってくるはずだ。
そう思ったのだが、アインは首を横に振る。
「悪いが、俺はもう新しい居場所を手に入れたんだ。シャルにミナ、シエンという、俺を心から信じてくれる仲間がいる。だから、お前のもとに戻りはしない」
「なっ……!」
断られた……?
嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!
そんなはずはない! オレが間違っているはずはないんだ!
「ふざけるな! アイン!」
オレは聖剣を握り、全身全霊でアインに斬りかかる。
が――
「させない!」
「させません!」
「死ね!」
アインの前にシャル、ミナ、シエンが立ちはだかり、オレに反撃を浴びせる。
これまで感じたことのないような威力の攻撃に、オレの体はその場に崩れ落ちる。
「自らの行いを恥じるどころか、他人に責任を押し付けた上で襲い掛かるなど、信じられません。お父様に伝えて、この方からは勇者の称号を剥奪いたします」
落ちていく意識の中、最後に聞こえたのは王女アリスの言葉。
こうしてオレは、全てを失った。
いかがだったでしょうか?
追放ものの魅力は追放した側がざまあされるところにあるという話を聞いて、だったらいっそのこそそっち視点から話を書いてみようと思い、できあがったのが本作です。
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