〈短編小説〉ある初夏に再会した初恋の君
幼馴染と再会したある大学生の夏の思い出。
彼女は僕の初恋の人だった。
彼女と出会ったのは僕たちが幼稚園に通っていた頃だった。
大人になったら結婚しようね、
なんてよくある約束なんかもしていた。
でも幼稚園を卒業して小学生になった僕たちは、
家が遠くなり別々の小学校に通っていて会うことはなくなっていた。
ただ、年に一度だけ年賀状を送り合う
そんな関係が続いていた。
その関係もいつからか途切れてしまっていた。
そんな彼女と大学生の頃に再会をした。
大学生になった僕は
クラブに行ってはナンパをしてその日知り合った女性と肌重ねる最低な普通の大学生になっていた。
彼女と再会したきっかけは、そんな僕がいつも通り知り合った女性と彼女とが知り合いだったことだった。
僕の通っていた幼稚園は私立の幼稚園で
そのまま内部進学を続けていれば大学まで進学できるところだった。
僕は小学校から公立に進学していたが
彼女は内部進学をしていた。
知り合った女性はその内部進学先の大学に通っていた。
ふと彼女を思い出した僕は
彼女のことを知っているか尋ねた。
その子は彼女と同じ学部の知り合いだった。
そこから連絡先を教えてもらい
僕たちは約10年ぶりに会うことになった。
初夏のある日
待ち合わせの駅の改札で
彼女を見つけるのに時間はかからなかった。
大人になった彼女は
言葉にできないくらい美しくなっていた。
「久しぶり」
彼女の声は、僕の耳をふわっとなでた。
昔と同じで背の小さい彼女。
昔と違う大人になった顔の彼女。
とても綺麗になっていた。
その日のことは今も覚えている。
色々な話をした。
大学でのゼミの話。
彼女がすごくモテる話。
町でナンパされた人がしつこかった話。
彼氏がすごく束縛をしてきて別れそうかもしれない話。
本当にたくさんの話をした。
その日は初めて見るほど空が綺麗に見えた。
「今日の夕焼けすごく綺麗だね。」
彼女がつぶやいた。
ああ、彼女もそう思っていたんだな。
僕たちは運命なのかもしれないな。
帰ってくるところはここだったんだな。
そう思った。
彼女がもし彼氏と別れて僕と付き合あってくれたらこんなクラブ通いの生活やめよう。
その小さな背丈で夕焼け空を見上げる君を見て思った。
その日僕らはカラオケに行った。
彼女の歌う曲が僕ら2人のことを歌っている気がした。
僕は恥ずかしくて彼女の顔を顔を見ることができず
カラオケの画面と机の上にあった灰皿を横目に見ながら十八番の曲を歌った。
いつもの僕なら
カラオケで女の子に手を出していた。
でも初恋だった彼女にそんなことはしたくなかった。
カラオケで体が触れることもなかった。
彼女と付き合いたかったからー。
その日は心から再会を楽しんで解散した。
僕は後日ラインで彼女を花火大会に誘った。
そこで付き合えなくてもいいから初恋だったことを伝えよう。
そう思って彼女を誘った。
花火大会の日。
浴衣姿の彼女は、周りのどんな女性よりも一際綺麗だった。
僕は人混みを言い訳に彼女と手を繋いだ。
彼女の小さな手はとても暖かく、すこし汗ばんでいた。
夜空に上がる花火が赤レンガですこし欠けている。
そんな場所からでも、彼女と見る花火は今まで見た中で一番綺麗だった。
花火を見上げる彼女は首元が汗ばんいて、頬が赤く染まっている。
暑い夏の夜のせいなのか、
花火が彼女の頬に反射するせいか、
はたまた僕が隣にいて手を繋いでいるせいか。
ずっと花火大会が終わらなければいいのにー。
帰り道僕らは自然と手を繋いでいた。
人混みに流されながら落ち着いた場所を見つけることもできず、僕らは駅の改札で別れた。
僕はその日彼女に気持ちを伝えることができなかった。
また次会った時、気持ちを伝えよう。
「またね」
僕らはあの時そう言って別れた。
それが、彼女と交わした最後の言葉だった。
花火大会の日以来彼女からの返信はなかった。
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あれから月日が経ち僕は社会人になった。
新しい生活にも慣れてきていたそんなある日、
彼女の近況を風の噂で知った。
彼女が結婚した、と。
あの時話していた束縛彼氏と結婚したのかはわからない。
ただ彼女が結婚したという事実だけが僕の前にはあった。
結局僕は人生で彼女に思いを伝えることはできなかった。
あの時、
もしも他の女の子の時と同じように
カラオケでたくさんお酒を飲んでいたら
僕は君と肩を寄せることができただろうか。
もしも他の女の子と同じように
「かわいい、綺麗だね」
そう伝えられていたら、
君は僕のことを気になってくれていただろうか。
もしも他の女の子と同じように
君をホテルに誘ったら
君はついてきてくれていただろうか。
もしも他の女の子と同じように
唇を、体を重ねていたら
僕は君と付き合えていただろうか。
もしも君だけに
「僕の初恋の人だった。ずっと好きだった。」
そう言えていたら
今頃僕は君の隣にいられただろうか。
あの日撮った夕焼けの空を見ながら
あの日カラオケで吸わなかった煙草に火をつけた。
あの日君が歌っていた
JUJUの「ただいま」を聞きながら友達にラインをした。
「今日クラブ行かない?」
僕は日常に戻った。
読んでいただいてありがとうござました。
この先も小説を書いていきたいと思います。
よろしくお願いします。