表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錯覚  作者: 菅原 こうへい
8/9

青年は、気づいたらおじいさんと出会ったあの公園に立っていた。吸い込まれるように青年はこの間座ったベンチに腰掛けた。少し頭を冷やすために、立ち上がって水道の水で顔を洗った。青年はもう、泣いてはいなかった。


 気づけば空は夕焼け色に染まってきて、おじいさんと会った時のように淡い光が公園と青年を包み込んだ。青年は座り、出棺に立ち会えなかったのを少し悔やんだ。そして、おじいさんに自分なりの『解』を伝えることができなくて悲しんだ。


しかし何よりも恥ずかしかったのは、お焼香でのあの出来事である。青年はいまだに、人々の視線に耐えることができないのである。青年の大きな欠点は、いついかなる時であっても、怪物となり、襲ってくるのである。


 青年は、改めておじいさんのことを思った。何より感謝を伝えたかった。あの時、心がどうかしていたあの時に、おじいさんが親身になって話を聞いてくれたこと、僕の悩みを受け止めてくれたこと、『問い』を授けてくれたこと。


 そして、青年のもとに一つのハトが現れた。それはまるであの時のおじいさんのように静かに近づいてきた。青年は鳩に向かってこんなことを言った。    「なあ鳩よ、この間ここにな、それはそれは素晴らしいおじいさんが来てな、僕に話しかけてくれたんだよ。僕はおじいさんのおかげで正気を取り戻すことができたし、少し生きるのが楽になったんだ。その感謝を、一回でもいいから、伝えたかったなあ。」


 なぜか鳩は青年のことをじっと見ていた。青年と鳩はしばらくの間見つめあった。その鳩の目はとても穏やかな目で、やさしい眼差しを向けてきていた。青年がそれに気づき、ハッとしたころにはもう、鳩は飛び立ってしまった。


 青年は、立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ