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錯覚  作者: 菅原 こうへい
7/9

3月15日当日、おじいさん邸宅にて、


 青年は約束通りに紙きれに書かれていた地図を頼りに、ある家の前に立っていた。その日は珍しく午前授業で部活もなかったので、2時過ぎにおじいさんの家に着いた。おじいさんとの話の後、青年はしばらく『人形になるな』という言葉の意味を考えていた。そしてある一つの『解』を用意した。青年はその『解』をどうしてもおじいさんに伝えたくてうずうずしていた。想像していたよりもその家はとても大きく、もしかしてあのおじいさんは只者ではないのかもしれないと青年は感じた。


 リンローン リンローン


 青年は門の近くにあるインターホンを押した。しばらくすると、インターホンからやさしい女の人の声が聞こえてきた。


「はい、あら、もしかしてあなたうちの主人と公園であった子かしら」


「あ、そうです。おじいさんは御在宅でしょうか。」


「今から門を開けるわ、まっすぐ進むと玄関につくからそこで待ってますわよ。」


 ほどなくして、左にある門がギギギという音を立ててのっそり開いた。青年は少し申し訳なさそうにそろりと敷地内へ入った。敷地内は黒塗りの車しかなく、大きな松の木や庭らしきエリアの中にある池を横目に、正面にある玄関で立っている着物姿のおばあさんのところへ向かった。


「いらっしゃい。ぼく、名前はなんていうの?」


「あ、○○っていいます。」


「あらそうなの、良い名前ね、さ、中に入りましょう、おじいさんが眠っているわよ。」


 おじいさんは永眠していた。とても穏やかな顔をして眠っていた。青年は促されるようにおじいさんのおでこを触った。とても冷たく、硬かった。不思議と、青年は泣かなかった。


 青年はこの後おばあさんからお葬式の話について聞いた。幸い青年は制服でこの場所に訪れていたため、このまま出席することになった。


 お葬式は近くのお寺で執り行われるという。青年はあまりおじいさんと関係が深い方ではなかったので、式場の椅子には座らず、後ろの方でちょこんと立っていた。いや、青年は座れなかった。何を隠そうおじいさんのお葬式に参列していたのは、とある省の大臣や有名アーティスト、お笑い芸人や文豪まで、著名人がひしめき合っていたのだ。


 まもなく、式が始まった。湿っぽいムードで進んでいく式に合わせるように、時間もゆっくりとながれていった。所々で、すすり泣く声が聞こえてきた。青年は、泣かなかった。


 青年にお焼香の順番が回ってきた。青年の立っている場所からおじいさんまでの距離はかなり長く、その道中には著名人がずらりと座っている。青年がお焼香の前に立った時、青年の心が乱れた。それは急であった。


 「おい、誰だあいつ」


「制服?お子さんかね」


「そんなわけがないだろう、子供さんは全員1番前に座っているしもう20歳を超えているぞ」


「じゃああれは…隠し子?」


「馬鹿が、そういうこと言ってはダメだろう」


「たぶん野次馬でしょう、どこかに好きな芸能人でもいるんじゃないですか」


 決して上記のようなことは誰も口には出していない。しかし、青年にはどうしてもその声が聞こえてきてしまう。青年を貫いてしまうほどの視線とともに。青年の耳は赤くなっていく。


「野次馬なら早く帰れよ」


「ここは葬式だろ。遊び場じゃねーんだよ」


「お焼香とか知らない人にやるもんじゃないのに」


「早く帰った帰った」


 青年は息が上がってきた。手は震え、唇も震えてきた。もう、決して耐えることはできなかった。お焼香が終わると、耐えられなくなった青年はたまらず走って逃げてしまった。青年が行ってしまった後の道は、少し湿っていた。

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