表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第三話「冬眠しない熊と泥棒猿」

   

「おお、さすがだね! こっちが話す前から、もう事情を把握してるなんて! そうなんだよ。今この村は、熊巨人ベアーギガースに荒らされて、困っていてね……」

 熊巨人ベアーギガース

 ゴブリンやオーガの亜種という説もあるのだが、外見が二足歩行の巨大な熊そのものであるため、一般的には別系統のモンスターとして扱われている。

 知らない子供などは「二足歩行の熊」という言葉から「ぬいぐるみの熊さん」を連想することもあるそうだが、一度でも本物を目にしたら、そんなイメージは吹っ飛んでしまうという。

 熊が凶暴な動物であるように、モンスターの中でもかなりパワフルな上級モンスターだ。また外見だけではなく、冬眠する点も熊と酷似しており……。

「普通、熊巨人ベアーギガースって、この時期には巣穴の中で眠ってるはずよね? 特に寒い地方では、冬眠期間は長くなるって聞いてるけど」

「そうなんだよ、お客さん。毎年この辺りの熊巨人ベアーギガースは、秋の終わりには、もう寝込んじまうんだけど……。今年に限って、いまだに活動を続けていてねえ」

 とはいえ、この寒さの中では、餌になる野生動物も植物も見つけにくいらしい。そのため、山から村に降りてきて、畑を荒らしたり、家畜を襲ったりするのだという。

「なるほどね。だから退治してほしい、ってわけね」

 フリーの魔法士や冒険者が、トラブルを抱えた村や街をたまたま訪れて、突発的に仕事を依頼される。この世界では、よくある話だった。

「そうなんだよ、お客さん。最初は、こちらのお客さんに頼んだんだけど……」

 と、チラッとペトラに目を向ける女主人。

 一応ペトラは話に耳を傾けているが、もう会話に参加するつもりはないらしく、ひたすらアイスクリームを食べている。

「……攻撃魔法は苦手だから一人じゃ無理、って言われちゃってねえ。諦めてたところへ、あんたが来てくれた、ってわけだ」

「そういうことなら……」

 話の大筋を理解したラドミラは、頭の中で算盤そろばんを弾く。

 ひ弱な魔法士や駆け出しの冒険者には強敵となる熊巨人ベアーギガースも、強力な攻撃魔法を操る彼女にとっては、それほど苦戦する相手ではない。

 とはいえ、モンスターの数がわからない以上、一応の備えは必要だろう。補助魔法が得意なペトラは、サポート役には適任うってつけ。友人としてではなく仕事のパートナーとして連れていくのであれば、悪い人選ではないと思う。

「……この仕事、私とペトラの二人で引き受けるわ。ただし、きちんと報酬はもらうわよ。モンスターの内臓なんかじゃなくて、普通に金銭で」


 結局。

 村の蓄えの中から、ある程度の金額が支払われるということで、契約が成立した。もちろん、その全額がラドミラの懐に入る形であり、ペトラの方の報酬は、熊巨人ベアーギガースきもと心臓のみ。

 ペトラはサポート役に過ぎないのだから、これは妥当な条件だろう。ラドミラは、勝手にそう納得していた。

「ところで……。できたら、盗まれたストーブも取り戻してもらえないかねえ。いや、これは村の総意じゃなくて、アキムって男の個人的な頼みなんだけど……」

 話がまとまった段階になってから、後付けで依頼内容が増えた。

 冬になったばかりの頃、一人の農夫の家から、暖房器具が盗まれたのだという。お金を貯めて購入した、高価な魔法式ストーブだ。

 逃げ去る犯人たちの後ろ姿はバッチリと目撃されており、猿のような姿形をしたモンスターの集団だったらしい。

「猿に似たモンスター……。つまり、モンキーゴブリンね?」

 確認の意味で、聞き返すラドミラ。

 モンキーゴブリンは、ゴブリン系モンスターの一種族。外見も『猿』を思わせるイメージだが、群をなして小狡く動き回るところが『猿知恵』とか、モンスターのくせに人間の真似をするところが『猿真似』とか言われており、それで『モンキーゴブリン』という呼び名が定着したらしい。

「あたしらは、正式な名前なんて知らないけどね。とにかく、近くの山でよく見かけるゴブリン系のモンスターだよ」

「わかったわ。『できたら』でいいなら、それもやってみる」

 気前よく、追加発注もサービスで請け負うラドミラ。

 モンキーゴブリンには、自分たちより上級のモンスターと共生するという、虎の威を借る狐みたいな性質がある。おそらく今回は熊巨人ベアーギガースと組んでおり、そのストーブで暖かく過ごすことで、熊巨人ベアーギガースも冬眠する必要がなくなっているのだろう。

 ならば、ストーブ盗難事件こそが全ての発端であり、それを解決しない限り熊巨人ベアーギガース問題も片付かない。そうラドミラは理解したのだった。

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ