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気を付けろ…奴は四天王の中でも最弱にして最強だ

作者: ゑーる

 遥か目の前に広がるのは大きな塔。

 それは黒や紫の禍々しい色合いをした天高くまでそびえ立っていて雲の上から先は見ることができないほどの高さがある。

 所々から棘のようなものが飛び出していてそれは人々に恐怖を抱かせるようなものとなっている……が


 塔の周りには人々が集まりまるで街のように…否、それは小さな国の首都を超えるほどに大きい。


 道の真ん中を荷物を載せて歩く馬車、新鮮な野菜を売りさばく店主、値切りをする女性、長剣や杖と言った武器を携帯し酒場で話し合いをしている冒険者……様々な者がこの年に集まり生活している。

 しかしそれによって塔が浮いているということはなく街の中心にあり寧ろ人々はその塔を中心に生活していると言っても過言ではない。


 塔はこの世界で1番の大きさと攻略難易度を誇るダンジョンで、大陸中から冒険者が一攫千金を夢見て集まってくる。

 実際にこのダンジョンで希少な神の遺物(アーティファクト)が見つかりそれによって名を馳せた者もいる。

 そうでなくとも低い階層では弱い魔物が出現するためランクの低い冒険者や初心者も少しは貯金できるくらいには稼げるのだ。


 他にもこのダンジョンならではの特性は多く、まず入口で売っているアイテムを買えば中で死んでも入口で復活出来ること。

 とはいえそこまで安くはなくそこそこ稼げるようにならないと手を出す余裕はないのだがそれでも充分凄いのである。

 さらにこのダンジョンにいる生物は1部の例外を除いて『魔物』なのである。


 この世界では魔物とは魔力で出来た体を持ち生命活動が停止した場合体の1部分を残して霧散する特性がある。(一般的に外にいる魔物のようなものは魔物と別の動物が交わって出来たと考えられていて魔獣やモンスターと呼ばれる)

 これによって落ちる部位に運が絡むとはいえあまり嵩張らずに持ち運ぶことが出来るのだ。



 そんなことから多くの人が集まるこの街通称《魔都》(魔王城の周りにある都という意味)の中心部にある魔王城の前には初心者からほとんどいないが高ランクの冒険者が入る順番を待っている。


 魔王城は最後の数階層までは長く無限迷宮となっていて入る度に地形が代わり中で他の冒険者と会うことは少ない。

 一応たまに共通となる部屋がありそこでは休憩出来るようになっている。


 そして今まさに少ない高ランク冒険者の内の1パーティである「星の方舟」が中へと入っていった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「魔王城に挑むのはこれで何回目だっけ?」


「多分27回目のはずですよ」


 話し掛けたのは「星の方舟」のリーダーであるヴィギルで応えたのはそこそこ有名な運び屋(ポーター)であるユーリだ。

 この世界の人々はみなアイテムボックスという魔法が使えて魔法の上手い下手や魔力の多い少ないに関係なく人によって容量が違う。

 運び屋(ポーター)は自分のアイテムボックスを使って食料や道具なんかを運ぶのを手伝うことで収入を得ているのだ。


「今回こそは最上階で魔王と闘えるか?」


「これだから戦闘しか脳のない脳筋は……一応警告しておくが1人で突っ走ったりすんなよ」


「最悪攻撃を受けても私が回復してあげるから安心して。出来れば攻撃は受けて欲しくないけど」


 1人この先の闘いに向けて思いを馳せるメインアタッカーである大斧使いのヴェルナー。それを窘める魔法使いのフレディとこのパーティで紅一点であり、唯一回復魔法が使えるクラーラ。


 そんな彼らは言葉を交わしながら多くの冒険者達の視線を受けて魔王城へと足を踏み入れる。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふむ…今回は順調だな」


「そうねあまり道具も使っていないし魔力にも余裕があるわ」


 彼等は以前よりも順調に進めている。このダンジョンでの途中までの敵は基本的にある程度絞られている。

 下層から上層になるにつれてそれらがランクアップしているため強くはなるがそれでもある程度慣れれば楽にはなる。


「おっと探知に敵がかかったわ陣形からするとゴブリンジェネラルとメイジにナイトが2体ね」


 クラーラの探知魔法に反応があったらしくその報告を聞いたほかのメンバーは警戒しながら進んで行く。


 そして角のちょっと前に来た所で敵が角から表れたが、探知魔法で分かっていたことなので先に戦闘準備は完了している。



 リーダーのヴィギルとヴェルナーがクラーラからの支援を受けながら敵へと切り込む。敵は急に角を出たところで襲われて驚きながらも陣形を整えて防御体制に移る。


「ーーーーーアーマーダウン!」


 2人がゴブリンに攻撃を仕掛ける直前にフレディの土魔法によるデバフが発動し、ゴブリン達は手に持った盾を使い防ごうとしたもののその盾ごと2人の武器に引き裂かれ沈む結果に。


「ーーーファイアボール!」


 敵の前衛がいなくなったことで射線が開いたため火球を飛ばす攻撃魔法を使いゴブリンメイジを倒すことに成功する。


「ゴブ!?ゴブゴブー!」


 周りの味方が瞬殺されたことに驚きを隠せないゴブリンジェネラルはすぐに撤退することを選択し後退を始めるがそこに前衛2人が飛び込みボコボコにされたのだった。


「よし戦闘終了だ進み具合からするともうすぐこの塔の四天王の戦闘に入るだろうから気を引き締めていこう」


 そうメンバーに声をかけて「星の方舟」とユーリ達は魔王城の探索を再開した。



「到着したようだ、みんなアイテムの残りや魔力がどうか報告をくれ」


 そう言って前を指すヴィギルの指の先を見つめると外の外観と同じように棘や怪しげな紋章か描かれて禍々しい雰囲気を醸し出している重厚感あふれる扉があった。


「私とフレディの魔力はそこそこ余裕があるわね」


「僕の方は食料がもう大分ありませんね、薬草はまだ余裕があります」


「俺の斧も調子が良さそうだな」


「ふむならばこのまま進むとしよう。いつも言っているがユーリくんは自腹で蘇生アイテムを買ってまでついてくる必要は無いんだぞ?そこにあるテレポーターで最初の階に戻れるのだから」


「それは今回も返しますが充分利益が出ていますし楽しんでいるので気にしないでください。それに僕のアイテムボックスにはまだアイテムも残っていますから」


「ならば進もうか。今回の目標は四天王の最後の1人に挑むことだ前回は3人目でやられてしまったが対策はしてきたからな」


 そう言ってヴィギルは扉の前へと進み出て扉をゆっくりと押した。

 扉は押されると自動的に開いていき中に入ると自動で閉まるようになっている。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そして中に入るといきなり視界が暗転しまた見えるようになると地面は1枚の円形の石の板のようになっていて、周りには少し高めの壁があり壁の上には席があるまるで闘技場のような場所へと転移していた。


「星の方舟」のパーティ側とは反対側の闘技場のゲートから1人の人形が現れた。


 それは狼がそのまま人に寄った形をして二本足でたったかのような姿をしている所謂狼男というかライカンスロープと言った種族で、彼こそが1人目の四天王にして俊足の《スピネ・ライン》である。


「くっくっく……今日であったが100年目!今日こそ俺のスピードに倒れな!」


「何言ってんだダンジョン探索も今回で27回しかしてないだろ」


「うっせぇ!なんで他の奴らには何回も負けてるくせに俺だけには初見で勝ちやがった!不公平だ!」


「もう戦闘始めないか?」


「くっそぅ今回はぜってー倒すからな!見てろよ!」


 そう言うが早いかラインは足を踏み込む…と同時に急加速して目でぎりぎり追えるかどうかとい超速で走り出す。


「フッハッハッハ!今回は前回よりも更に速くなったんだ!」


 その言葉は嘘ではなくヴィギル達が前回戦った時よりも格段に速くなっている。

 四天王の1人であるラインの持ち味はその速度と攻撃力を生かした高速戦闘であり、それは生半可な冒険者では瞬殺されることもあるだろう。しかし彼らには初見でありながら楽々倒されてしまった。


「さあ行くぞヴィギル!テメーはここで死んでおさらばしろ!」


 そう言ってラインは最高速度のままヴィギルに向かってその手に持ったダガーを前に出して上から突進する。

 そう、ラインがなぜ簡単に負けるのか。それはあまりの速度のために急激な動きを出来ず、出来たとしても少し軌道を変えることくらいしか突進中は出来ないのである。

 よってもう何度もラインと戦い慣れているヴィギルならばーーー


 ガキィィィィン


 ラインの突進は吸い込まれるようにヴィギルが持っている盾に当たり、ヴィギルはそれをかけてもらったバフを利用して全力で受け止める。

 一方でラインはというと何故か折れないダガーに対してその衝撃は全て彼の腕にかかりその衝撃によって全身が痺れている。


 ここでラインの弱点その2。ラインは速度と攻撃力に全てをかけているため体には革鎧しか着ずに盾も持っていない。よって回避なら出来るが攻撃を当てられた時点でほぼ負けが確定する。


 全身が痺れて動けないラインにヴェルナーは斧を構えてゆっくりと近づきその斧を振り下ろした。


 動かなくなったラインの体はこのダンジョンの証であることを証明するように光の欠片となって消えてその場にはダガーだけが残った。


「いやなんで毎回あいつは突進しかしようとしないんだ?」


「それしか出来ないからでしょ。ほらさっさと次に行く準備するわよ」


 こうして1人目の四天王は敗れたのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 アイテム類の確認を一応した後入っめきた方向とは逆の門に入ると再び転移が発動した。


 場所は先程と同じ円形の闘技場のような場所だが待っている者が違っていた。


 床には全身鎧(フルプレート)がバラバラになって落ちていてその周りには美しく輝く槍と同じように輝いている盾がある。


 そしてそれらが意志を持ったかのように宙に浮いて全身鎧が組み合わさり人の形をとる。そしてその籠手で床に落ちていた槍と盾を拾う。


「来たか挑戦者よ……さあ、戦いを始めよう」


 その言葉に「星の方舟」のメンバーも戦闘態勢に入る。


「我が神槍グングニルよ、敵を貫け!」


 その言葉と共に手に持っていた槍を投げてくる。

 この2人目の四天王鉄壁の《ホコ・タテ》はその手に持った槍と盾を用いた戦闘を仕掛けてくる。


 ホコ・タテの持つ神槍グングニルは彼の手を離れたところから自動で敵を結構な速度で追尾する投槍となる上に、その槍の持った特性によりどんなものでも貫けるのである。

 その貫通力は普通はどんな手段を使っても壊せないダンジョンの壁すらも破壊可能で1度戦闘中に壁を破壊してしまったこともある。

 とはいえ完璧でもなく飛ぶ際はある一定距離を飛んでからしか方向転換出来ないため割と避けやすいのだ。

 しかしそれでも連続で避け続けるのは体力が持つわけもなく幾度か「星の方舟」が敗れてしまっているのも確かだ。


 そして槍を投げた後敵は武器を持たないからその間に仕留めればいい、そう考えたのは「星の方舟」達もだ。しかしこれを絶対に不可能にするのが反対の手に持った盾である。


「我が盾イージスよ、我を守れ!」


 その言葉と共に薄い光の膜にホコ・タテが包まれる。


 これは彼の持った盾の効果であり攻撃を届かせない壁である。


 彼の盾イージスは一切の攻撃に使用出来ない代わりに防御行動を行なっている間はどんなものも通さない絶対の盾となるのだ。


 この二つにより「星の方舟」の攻撃は一生届かないのに永遠に槍が飛んでくるという地獄が始まる。

 しかしそんな彼にも弱点はあるもので攻撃は彼の意思に関係なく槍が飛ぶ上に少しでも移動しようとすればイージスが解除されてしまうので……


「今だ!そのまま横に避けろ!」


「っ回避成功だ!」


 彼の前で膜に向かって攻撃していたヴェルナーに槍が飛んでいく。それは真っ直ぐ目の前にいたヴェルナーに向かっていくがヴェルナーは横に避けてしまう。

 標的を失ったグングニルの行先はヴェルナーから攻撃を受けていたホコ・タテがいる訳で…


「ぬうぅぅぅ!」


 ガィィィィィンという硬質な音を鳴り響かせながらイージスにグングニルがぶつかり光がチカチカと明滅を繰り返している。

 徐々にその音が弱くなっていき双方にヒビが入り始めるとやがてヒビは大きくなっていき遂にピシリといってどちらも砕け散ってしまった。


「ぬ?今回も敗北してしまったか…」


「やっぱり2つぶつけたら砕けるの欠陥なんじゃないか?」


「いや、我は一生この戦法で戦うつもりだ」


「リビングアーマーの一生をかけられても重すぎるだろうよ」


 互いの間に微妙な空気が流れる…


「そんなことより我は負けたのだ、だから良いことを教えてやろう」


「なんだ、この先の四天王の弱点でも教えてくれるってのか?」


「ちょっと違うが少し似てるな」


「仲間の情報漏らしてもいいのかしら、魔王様に怒られても知らないわよ?」


「どうせ我々は魔王様にスカウトされた身だ別に最悪はここを離れればいいだけだ。それにこの位は知っていても知らなくてもあまり変わらないからな」


 それならと「星の方舟」のメンバーは話を聞くことにした。


「そうだな……この四天王の中で最も弱いのは誰だと思う?」


「それは簡単だ1人目のラインだろ」


 いいやそれは違う、とヘルムを横に振る


「本当に四天王最弱は4人目なのだ。そして4人目は最弱であると同時に最強でもあるのだ」


 首を傾げて?という顔をしているがホコ・タテからは分からなくとも良いのだ、と言われてしまう。


「ほら、さっさと先に進め四天王は敵を首を長くして待っているのだから」


 そう促された彼らはお互いに顔を見合わせて頷くと門の方へと歩き出した…



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 もはや慣れたよう転移するとまた人影が奥で待っているのが見えた。

 今回待っているのは普通に人のような見た目でそれも美人な女性である。まあ四天王も三人目なので美しいという理由で手を抜いたりする人はまずいないだろうが。


「よくここまで辿り着いたわね!前回までと同じように私が一撃で貴方達を葬ってさしあげますわ!」


 声高々にかつ高貴な人が使いそうな言葉遣いで高圧的に話しかけてくる彼女こそがこの四天王の内の三人目である爆散の《シャルロッテ》てある。

 そして今までこの一行はシャルロッテ相手に10回弱は倒されている。最初の数回は何も分からず倒されその後は1度攻撃される前に速攻で倒そうとしたが攻撃が届く事無く倒された。

 そんなことがあってから今まではひたすら初撃を耐えるための作戦を練ってきた。そして行き着いた先が今回は用意しているしそれでも足りない時のために後押しするアイテムも持ってきてある。


「先に準備するならするといいわ、それでも私の魔法に勝てるとは思えないけどね!」


 その宣言の通り幾度となく辛酸を嘗めさせられてきたが今回こそはと全員が気合を入れる。


「ーーーーラストヒート!これで全てのバフはかけ終わったわ何時でもいけるはずよ」


 クラーラはフレディに最後のバフをかける。クラーラがフレディにバフを掛けている間は他のメンバーもアイテムを使って様々なサポートをする。ここで使ったアイテムの金額を考えると大抵の人はめが飛びてるほどになるだろうが今は彼女の攻撃を凌ぎきることが大切なのだ。


「それじゃそっちも準備が終わったみたいだしこちらから攻撃するわよ」


 その言葉に誰かが息を呑む音が聞こえる。


「全身全霊!アンチマテリアルバーーースト!」

「ーーーーーーーーーー最硬結界アダマンタイマイ


 数多くのバフがかけられたフレディがメンバーを守るために魔法を発動すると全員が亀の甲羅の様な模様の薄い膜に包まれる。

 これはホコ・タテが使っていたのと同じようなもので魔力で作った盾のようなものである。


 今までのチャレンジによって彼女の放つ魔法、物質破壊撃アンチマテリアルバーストは物質に対して作用し空気中に漂う魔素に変換するものであると特定し、その魔素と性質が似通った魔力ならばある程度防げると判明したのだ。


 しかしそこまで分かっていても彼女はこの魔法に相当力を込めているようで並の魔法では防げず今まで敗れ続けていたのだが、今回はより多くのバフが乗っているため耐えられるとヴィギルは考えているらしい。


 フレディが結界を貼り終えると同時にシャルロッテの魔法も発動する。


 虹色の光が辺りを包み込み結界の外は白く眩く発光していてフレディからは苦痛の声が漏れ聞こえる。


「フレディ耐えられるか?」


「正直言ってこのままだとギリギリダメそうだな」


「ならアレをここで切っても構わないな皆」


 その言葉に全員は頷きヴィギルは懐からランタンのようなものを取り出す。

 中には淡く青い光を放つ水晶が入っていてこんな時でなければ見いってしまいそうな程だ。


魔力増幅の水晶マナバーストクリスタル起動!」


 その言葉と共に中に入っていた水晶は光の欠片となって砕け散りその光がフレディの中に吸い込まれていく。


「よっしこれなら耐えられそうだ」


 この水晶は極たまにこのダンジョンの魔物を倒した時に落とす事があるもので、腕の良い錬金術師に作成を頼むことで作って貰える特注品てある。

 効果としては一時的に周囲の魔素を集めて魔力の効果を底上げしてくれるというものだ。


 しかしこんなものが体に良い訳もなく終わった直後から数日間はまともに魔法が使えなくなってしまう。

 逆に言うとその分効果が良いので本当にここぞという時でないと使う気には到底なれないものでもある。


 そしてひたすら耐え続けるフレディとそれを見守るメンバー達の顔には強くフレディを信じるという表情が浮かんでいる。

 暫くして光が徐々に薄まり結界を解除する。


 周りを見渡すと自分たちの結界の真下とシャルロッテの真下以外の地面が抉れて大きなクレーターとなっているという悲惨な景色がみえる。


 シャルロッテはあれだけの魔法を撃ったあとだからかぶっ倒れて地面とキスをしている。近寄ってみると息はしているようでピクピクと痙攣もしているのが確認出来た。


「俺たちこんな奴に苦しめられてきたのか?」


 そんなシャルロッテのあまりにもあんまりな状態を見てヴェルナーが微妙そうな顔をして声をかけてくる。シャルロッテに足を載せながら。


「まあ強いひとほど変な人が多いしそんなもんなんでしょう。気にしたら負けよ」


 そう返されたヴェルナーはまたシャルロッテに視線を戻してげしっと蹴り上げるとうっという苦しげな声をシャルロッテは上げた。

 その様子にはさすがの「星の方舟」のメンバーも苦笑せざるを得なかった。



「よしそれじゃ皆、こっから先にいる4人目の四天王は完全に情報はない……まあ最弱で最強とか言うよく分からない情報は聞いてるけど初見には代わりない。気を引き締めて頑張ろう」


 その言葉に全員は気合いを入れ直し次なる扉へと顔を向けた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 転移するといつものように円形のコロシアムのような場所に出たが、今回はいつもとは違い人影が見当たらない。

 念の為何かに擬態していて先制を仕掛けられないように周囲を警戒しながら円の中心へと足を進める。


「いつどこから来る……っ上からくるぞ!」


 上からヒューという空気を切り裂く音が届きその直後に何かが地面に勢いよく衝突する。その衝撃で地面が少しヒビが入り砂埃が辺りに立ち込める。


「よく人でありながら俺以外の四天王達を倒すことが出来たな。どいつも人よりはずっと強いから何回も挑戦してここまで来たんだろう?しかし残念だったな、俺は他の奴らとは違うんだよ。俺は最弱最強の《ミラージュ》だからな」


 砂煙が晴れるとそこにはとてもダンジョンにいるとは思えないほど軽装…というか普段着にも見える服を纏った男が立っていた。


「いや、お前はこの「星の方舟」がいつか必ず撃つことになる。名前は忘れさせないぞ?」


「クックック、面白い事を言うもんだな。でも口は達者だが実力はどうかな?」


 そしてミラージュはおもむろに手を軽くあげて指を鳴らす。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おいおいおいそんなんじゃ俺の足元にも全然及ばないぞ、最初の威勢はとうしたんだ?」


 そんな余裕綽々と言った態度と共に繰り出される蹴りによって吹き飛ばされるのは、この戦闘で幾度となく繰り返された光景だった。


「暑い……視界がぼやける…」


 周囲は地平線の先まで見渡せるような砂漠が続き空から降り注ぐ光によって鎧を着ているヴィギルは体力を奪われ続ける。


「ほーら魔法もいくぞー、ーーーファイア」


 ミラージュが即座に詠唱を終えるとズボンから出した指先から炎の球が生み出されヴィギルに向かって飛んで行く。


「もう魔力も無いってのに…!ーーーーーーーースペルブレイ「おっと魔法破壊魔法は簡単にさせるわけ無いだろう?」ならーーーーーーアイスウォール!」


 フレディが魔法を破壊する魔法を詠唱するが無詠唱で魔法破壊魔法で返され、やむなく反対属性の魔法で壁を作る。


 既に魔法体制をかけたり回復してくれるクラーラはおらず、ヴェルナーも途中にヴィギルを庇って行ってしまった。もちろんポーターで戦闘力の皆無なユーリ君は最初に吹き飛ばされた。


「そろそろ砂漠も飽きてきたかな?ならば次は高所での戦闘と洒落こもうじゃないか」


 そうミラージュは言うと、この戦闘が始まった時と同じように手を軽くあげて指を鳴らす。すると周りの景色がガラスのように割れて音を立てて崩れる。

 そして気がつけば周辺はどこかの山の頂上の様に雲が下に見える平たいが狭いフィールドへと変化している。


「高所だ……っ!はぁはぁはぁ…」


 突如として高所へと移った為か顔色が悪くなり息も上がっている。むしろこんな状況で気を失うことすらないのが可笑しいくらいなのだ。


「まあ俺も流石に弱いものいじめもそこまで好きじゃないからそろそろ決着を付けようかな」


 そしてミラージュは高速でフレディに近づき蹴り飛ばす。するとその体は光の欠片となって空気に溶けて行った。これで気がつけば塔の入口に戻されているだろう。


「よし、それじゃあなんか言い残したいことあるかな?俺も久しぶりに戦闘が出来(遊べ)たし気分が良いよ」


「俺たちは……『 伝説(レジェンダリー)』と謳われる程……強くない…が、…直ぐに……お前…を、倒し……てみせる…から…な……」


 息も絶え絶えにそうヴィギルは言い残すと意識を無くして倒れた。


「まあその時を楽しみに待ってるよ」


 既に意識が無くなったヴィギルに向かってミラージュはそう言い残して足を振り上げた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「「「「「かんぱーい!」」」」」


 多くの冒険者や仕事終わりの男達で賑わう酒場の一角で「星の方舟」のメンバーとユーリは酒を片手に乾杯をしていた。


「可笑しいだろあの強さは!あれはもう人間やめてるね絶対に!」


「私なんて途中から出番も無かったのよ……この中で唯一の回復役なのに…」


「まあクラーラ、フレディのが魔力量は高いから盾貼るのはフレディが最適だって話したろ?」


「うぅ〜でもー」


「クラーラさんも落ち着いて下さい僕は皆さんに感謝してますし、こうして稼いで贅沢出来るんですから」


「ユーリ君は本当にいい子!私が貰っちゃいたいくらいよ〜!」


「ちょっとクラーラさん!離れてくださいよ!」


「だめー私もう離さないのー。いっつも男共に囲まれてこんな仕事してるんだからユーリ君見たいな子が可愛くってもう…」


 クラーラはすでに酔った様子でユーリに絡んでそれをヴェルナーが苦笑いして見ている。


「にしても本当に強かったな、ここまで強いと本当に『 伝説(レジェンダリー)』でもないと話しにもならならんじゃないか?」


伝説(レジェンダリー)』と言うのはこの世界で人の枠を超えた力を宿したごく1部の人々(人種だけでなく獣人種など人以外も含まれるが)のことである。その功績は英雄譚として語り継がれ、子供は大抵その話を聞いたりして育つのだ。


「それはそうだが……いや!俺は絶対に諦めないぞ、何度でも挑戦して普通の冒険者でも奴に勝てることを証明するんだ!」


「そうだな俺達見たいに普通の冒険者でも努力すればやれるって所を色んな人に見せつけよう、俺も魔法でできるだけ助けるから頑張ろうな。」


 そうしてヴィギルとフレディは酒を交わしながら話を進めていく。


「ところでなんで彼奴の二つ名は《最弱最強》なんだ?普通に最強だけではダメなのか?」


「そんなん俺に聞くな!」


 このようにしてこの世界の冒険者達の酒場の夜は更けていく…


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ところ変わりある一室。


 壁は丸太を組んで出来たログハウスのようで、壁にあるレンガの暖炉からはパチパチと火が燃えている。

 その暖炉の前に置かれた小さめのラウンドテーブルに四人の人?が座っていた。


「それではこれより第……何回?」


「別にそこはもう言う必要ないでしょ」


「僕の拘りだからいいじゃないか……それでは気を取り直して、これより四天王報告会を始めまーす!はい拍手ー」


 パチパチパチーと1人の男が拍手をするが帰ってくるのは暖炉の火が弾ける音のみ。


「えーと、なら最初はラインくんから」


「なあ?なんで皆は呼び捨てなのに俺には君付けなのか気になるんだが。まあいいけど、今回は少し魔王様からリミッター解除してもらってスピードを上げたけど充分対処出来てたぜ」


「ふむ…やはり彼等は成長が格段に早いか。流石に勇者の子孫なだけはあるな」


「何故勇者の血を引くだけであんなにも他人と差がつくのか謎ね」


 ヴィギルは両親こそ普通の人ではあるが、ずっと先祖を辿るとその先には人でありながら大昔に世界最強とも呼ばれた勇者が居るのである。

 また謎ではあるが勇者の子孫は得てして何らかの才能に秀でていたりすることが多い。


「この調子ならもっとリミッター解除してもらってもいいんじゃないか?」


「たしかに一考の余地はあるがそれをするとしても僕に勝てそうになってからになるな」


「それまで俺たち暇なんだけど」


「戦術でも考えてろよ」


「嫌だよ、なんでガチで戦える訳でもないのに戦術なんて考えなきゃいけないんだ」


「そうそうラインの言う通りよ、私も今の全力で最初に最強の魔法をぶっぱなすのが1番楽しいのよ」


 ダメだこの脳筋共は……と頭を抱えることしか出来ない男に動く全身鎧(リビングアーマー)がその(篭手)を載せてくる。


「諦めろ、彼奴等はずっとそうなのだから」


 男は今度はガックリと肩を下げた。


「よし、次行くか。次はホコ・タテだな。というかその名前呼び辛いんだけど変えない?」


「名前はしょうがないから諦めてくれ。今回はリミッター解除してもらったおかげで槍の追尾が上手くなって、更に速度も上げてはいるが前回と同じように避けていたから身体能力は間違いなく上がっているな」


「ホコ・タテも戦術変えないの?」


「別に我の戦闘ではあまり戦術を交えたところで彼奴等の成長には続かないだろう」


「ならまあいいか。次、シャル」


「私は今回はリミッター解除は無しね。ですが彼等も魔力量が上がっているのは勿論すごいのだけど、わざわざ貴重なアイテムを使って来るのは少し予想外だったわ」


「他に何があると思ったんだ?」


「他の冒険者の助けを受けるとかそこまで貴重でないアイテムを沢山使うかと思っていたのだけどね」


「ふむふむ、それなら次はどうやってシャルを突破してくるか楽しみにしよう。それじゃ最後に僕の報告だね。先ず初めに僕の幻覚魔法には普通に掛かったよ」


「待ってミラージュ、幻覚魔法はどのくらいの力で使ったの?」


「今回は僕の全力から魔法の強度をできるだけ落として魔法破壊魔法(スペルブレイク)で簡単に壊せるようになっている」


「それうっかりされたらどうするのよ」


「大丈夫、魔法としては全力で使えるから魔法阻害出来るしいつでも即死させられるから」


「やはりミラージュの魔法は卑怯だと我は考えているのだか?そもそも幻覚魔法は幻覚を見せるための魔法であって幻覚を現実に押し付ける魔法では無いぞ」


「それは僕がこれまで努力し続けて幻覚魔法を研究した末にこんな風になっているんだからほかの人が簡単に使えちゃ困るよ」


 そう、この一人称が「僕」で少し気弱そうな雰囲気を持った男こそがヴィギル達を蹂躙した張本人ミラージュである。


 ミラージュは幻覚魔法をその一生を使い研究し

 、練習し続けたのである。その結果幻覚魔法によって相手に幻覚を見せ、更にその幻覚の世界の中に相手の意識を閉じ込めその世界の結果を現実の体に反映するというもはや幻覚と呼べるのか怪しいレベルまで成長している。

 つまりミラージュは相手に幻覚を見せた上でそれをただの幻覚ではなく現実に上書きすることが出来るのだ。


 しかしミラージュは本当に幻覚魔法だけを極めたせいでそれ以外の魔法を使うことが出来ず、更には体まで貧弱と言う最弱の体になってしまった。


 ミラージュは幻覚魔法が効く相手には「最強」でありながら効かない相手には「最弱」になる四天王なのである。


「にしても早く彼等も成長して僕達に並ぶくらいはなって欲しいね…」


「そうね、早くそうなるといいわね…」


 そしてここまできて不思議に思った人もいるだろう。何故彼等はヴィギル達を成長させようとしているのか……と。それは実にヴィギル達に関係ない事が原因だった。


「みんなー!こんな所にいたのか!暇そうだしこれから俺と遊ば(殺し合わ)ないかい?」


「げっ魔王様、何故ここがバレた!?僕が完璧に幻覚魔法で誤魔化しておいた筈なのに!」


「あの陳腐な魔法なら指一本で触っただけで簡単に壊れてしまったよ。もっと頑丈にすることを推奨しとくね!」


「くっ……仕方ない遊びましょうか魔王様………な?みん……な…?」


「ん?他の四天王達なら窓から飛んで逃げてたよ」


「お、置いてかれたー!後であいつ等1回ぶっ殺す!」


「それじゃミラージュ君早く行こっかー」


「ああっ持ち上げないで!みんな助けてー!」


 それから魔王様と遊んだ(殺し合った)末にボロ雑巾のようになったミラージュが四天王の元に帰ってきて全員から労われた。


 そして今日とて四天王達は考えるのだった。


 早く魔王様の遊び相手(殺し合いの相手)が増えないかなー、と


 そしてヴィギル達はそんな事は知らずに今日も今日とて鍛錬に狩りに励むのだった。

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