7.種族と異質
スキル効果:《神や神眷属との戦闘時、全能力の超上昇。》
全身が熱い何て物じゃない、焼ける…焼けてる。
兎に角、熱くて…喉が渇いた。これが終わったらコーラでも飲もう。…嫌、あいつが飲んじゃったんだっけ?
あれ…?あいつって誰だっけ。そもそも今…。
…俺は、何してんだっけ?
「があぁぁぁぁっ!!!?!!?」
地面から空への有り得ない跳躍。しかし、翼の頭に疑問は浮かばない。…頭に有るのは只の一つ。
こ い つ を 殺 す !!!!!
振りかぶった拳は先程までと違い、摘まれる事は無い。ロキの体に突き刺さり、内側から燃やし焦がす。
「本当に規格外だね。俺ちゃんの喉元にも届きかねない牙…。今ここで消すか。」
ロキの口調はとても穏やかなものであったが、明確な殺意が秘められている。翼とロキの強大な殺意が一体を包み込んだその時、叡智の神であるロキにも想定し得なかった事が起きた。
翼が自らの炎で焼け焦げ始めたのだ。ロキの腹に突き刺さった腕は灰と化し、支えを無くした翼の体は再び下に向かった。
…あ、ああ。翼の焼けた喉から、声にならない声が漏れる。
「翼っ!!」イースが翼を受け止めた瞬間、知らない声が響いた。
「人の領地で何してるの?五月蝿くて堪らないわ」
腰まである黒く艶やかな髪。真っ白に濁ったその瞳が、もう機能を果たしていない事は明確だった。ありきたりな魔女帽にローブの姿。
「君さあ、いきなり割り込んできて何?見たとこ魔女みたいだけど…」
ロキのこめかみには、青筋が浮かんでいる。そんなロキを他所にイースが口を開いた。
「…アナスタシア。貴様が工房の外に出てくるのは何百年ぶりだ?」
「久しぶり。…いつから人間何かとつるむようになったの?竜王様も、この三百年で落ちぶれちゃったね」
アナスタシアは、やれやれとわざとらしく溜め息をつく。しかし、そんな些細な行動にもイースは注意を払う。
…魔女は異質だ。
巨竜は、巨竜で有ることに誇りを持っている。しかし、それは巨竜に限った話ではない、この世界に生きる全ての種族は自らの一族に誇りを持って生きている。
…唯一人間を除いて。
人間だけが自らの種族を越えた物を欲する。
人間だけが自らの種族を恥じる。
人間だけが種族を捨てる。
それが魔女。我らと同じく世界に少数しか居ない存在。いびつな存在…それが魔女。
「僕を蚊帳の外にして、何喋ってんの?俺ちゃんこれでも神様なんだけど、舐められてんのかな。魔女なら魔女らしく、長ったらしい魔法の詠唱でもしててよ」
ロキが言い終わると同時に、炎や氷弾、雷や風刃、植物の弦や土弾。無数の魔法がロキを包んだ。
「詠唱なんて。…神様ってのも案外古くさいんだね」
種族を越えた者。太陽に近づき続ける者。
それが魔女なのだ。