3.竜王と炎
巨竜、誰もが知っている架空の生き物…の筈だった。
俺は目の前に降り立った現実を受け入れられないでいた。
全身を覆った純白の鱗には傷ひとつなく、俺を見つめるその瞳は子供の頃によく観た恐竜映画を思い出させる。
…むりむりむり…っ!!?
平和な世界に暮らしていた、こんな感覚知らなかった、知れる筈なかった!
《圧倒的捕食者》を前にして俺は情けなくも声を漏らす。
動けない何て生易しいものじゃない、筋肉が全力で縮まって自分の内側にめり込みそうな気さえする。
「おい、貴様。我の城に何の用があって来た」
そんな俺に巨竜が口を開いた。
巨竜が喋った…!?
頭が熱暴走した俺に追い討ちをかけるように巨竜が続ける。
「臭い…臭いぞ貴様。我の大嫌いな臭いだ。…性癖の腐ったどぐされ神と翼の焼け焦げる臭い。しかし、神々《やつら》の眷属と言うには少々面白い事になっているようだな…」
一体何を言っているんだ、やつら…眷属…臭い?
俺は状況を飲み込めずひたすらに呆然としていた。
そんな俺に呆れたように巨竜が首を横に振るう。
「小事だ取るに足らない小事…しかし危険因子を見逃すのは良いことではないか。この世の不条理はだいたいお前《小事》から始まるものであるしな」
そう言うと巨竜は口をあける。
ぱっくりと裂けたように口を開いた巨竜はよりいっそう重い気配を纏っていた。
ちょ、ちょっと待て!?
何が起こるかは分からんが、このままじゃ必死だってことだけは分かる…っ!!!
しかし、そんな事が分かったところでどうしようもない、これから当たり前のような結果《死》が訪れるだけだ。
そう思うと体が軽くなった…
「…おいおい。転生して五分で死亡かよ、情けねぇ」
真っ白な炎が俺を喰らったのは刹那の事だった。
死を覚悟した俺はそれがやってこないことに違和感を覚え、ゆっくりと目を開いた。
「…死んでない?でも、確かに炎に焼かれたと思ったのに。痛みすら…」
「我が無意味な殺生をするわけ無いであろう。我が焼いたのは貴様を蝕んでおった臭い呪いだ」
先程までの轟くような声ではなく、少し高い女の子の声が響いた。
「命拾いしたな人間!我にすぐで会えたから良いものを、もう少しで手遅れであったぞ」
絹のように滑らかな白髪は腰まで伸び、金色の瞳はさっきまでと同じように爛々と輝く、まだまだ成長途中であろう身体に似合わないそこに目が行ってしまうのは男の性てやつだ。
…はっ!?
巨竜がロリ巨乳になってる…お、お約束展開だとぉぉぉぉぉ!!!?
「き、君はさっきのおっかない巨竜?え…っ!?何で女の子になって。女の子が巨竜で巨竜が女の子で???」
脳内爆発!!
俺はわたわたと取り乱して言った。
「このくらいで取り乱すでない人間。お前が話しやすいようにわざわざ姿を変えてやったのだぞ?感謝こそされても、そこまで慌てられるとは想定外だ。我、びっくりしたぞ」
「そりゃいきなり巨竜が現れて、いきなり炎吐かれて…慌てないわけ無いじゃないか!!
しかも、死んだと思ったら、その巨竜が女の子の姿になってるし!」
「はっはっは!!こんなに粋の良い人間は何千年ぶりだろうか!我とても気に入った!しかし、こちらも慈善事業で助けてやった訳ではない。貸し一つだぞ人間よ」
女の子は腰に手を置いて大きな声で笑った。
笑いに合わせて大きな果実がすげぇ揺れている。
おぉっ、おぉ…おぉ!
俺の目もその動きに合わせて上下する…っていかんいかん!
落ち着け俺、状況を整理するんだ。
巨竜が現れたと思ったら、その巨竜がロリ巨乳になって、巨乳…っ!?
「何じゃ貴様さっきからじろじろと見おって。我のこれがそんなに気になるか?」
女の子はたゆんと自分の胸を両手で掴む。
「い、いやいやいや見てませんよ。全然これっぽっちも見てないですよ。俺は紳士の中の紳士ですしぃ!…そ、それより貴女は結局何なんですか」
「…むぅ。そこまで否定されると我ショックだぞ。まぁ良い、質問に答えてやろうではないか。我はイース。この世のすべての種族の頂点に君臨せし竜種が王。そう、何を隠そう我こそが竜王イースその人であーる!!!」
ロリ巨乳こと竜王イースはとても威厳のあるどや顔を決めたのであった。