電脳都市国家ー大和ー
電脳都市国家は、本当によく出来ている。どこをみても現実の街並みと変わらないし、人々も自然に行きかっている。
そして、この辺で最も大きな電脳都市国家『大和』は、僕のホームグランドでもある。
その街についたら、まず最初に行くのはハンターギルドだ。何と言っても先立つお金がないと、店を回っても意味が無い。
「ようこそおいで下さいました、稀人の戦士さま。こちら、害獣機討伐の戦果報告と報奨金の受付になります。……なんてね♪ 昨日ぶりです、光君」
僕の目の前にいる、ブロンド長髪の綺麗なお姉さんは、そんな冗談で僕を迎えてくれた。人格を完全にAIで制御されたこの電脳世界なら、こんな風に顔なじみになると冗談もいってくれるのだから、なんかすごい。
「はい、昨日ぶりですね。十六夜さん。今日も戦果報告と、換金にきましたよ」
白人に近い見た目なのに、名前が日本語っていうのがアンバランスだよな。この人。
「おっと、お二人だけの空間を作っているところ恐縮ですが、私も居るのを忘れないで貰いたいものです」
……別に、忘れていた訳じゃないんだけどね。あえて、他人のふりをしていただけなんだけどね。
「ええっと、光君。そちらのなんというか、少し……女性はお知り合いで?」
十六夜さんが彼女の姿を見て言いよどむのも、十分に理解は出来る。
「なんというか、知り合いというか……」
僕も、知り合いとは言い辛い。だって、木勢さんの恰好、和服っぽい服ででこの和風な街に合っているのはいいけど、ミニで生地面が少なすぎて、破廉恥でこっちが恥ずかしくなるんだよな。
「俗にいう、カキタレとい奴ですよ」
僕が言いよどんでいると、木勢さんがそんなことを言いだした。何? カキタレって? 初めて聞く言葉だな? 友達みたいな意味?
「ええ!」
ええ! って、驚く十六夜さんに僕の方が驚きだよ。そんな驚き赤面するような言葉なの?
「違います! ただの保護者みたいなものです」
とりあえず、否定だ否定。このままでは、僕の尊厳が疑われるような、そんな嫌な予感がする。
「けど、彼女の恰好だと、納得というか……」
「納得しないでください! もう、そんなことは置いといて、戦果報告の方、お願いします」
「では、戦果報告と報奨金の支払いです。害獣機15機撃墜、1機につき2万Gなので、計30万Gのお支払となります」
えーと、現実の円とこっちの仮想通貨のレートは、たしか100G=120円だから……。
「おー、これは凄い。たった1日にして、光君は私の月給を越える額を稼ぎましたよ。何か奢ってください」
そんな風に茶化す木勢さんだけど、現実はそんなに甘くない。
「そんな余裕ないですよ。次の店に行けば、それがよーくわかります」
まずは、武器屋だ。
「すいません。重戦機の武器補給をお願いします」
「はいよ。これがお代ね」
ギャー。
次に、整備屋だ。
「ごめんください。重戦機の整備をお願いします」
「あー了解した。費用はこれな」
ぐわー。
ちーん。
終ってみれば意気消沈する結果となった。
「おやおや、終ってみれば思ったより残りませんでしたね」
「まあ、必要経費考えればこんなものだよ。自衛隊だと、その辺のことは考えなくていいから馴染みがないと思うけど」
自衛隊員はいくら討伐したとしても報奨金は貰えないけど、維持費などの経費は考えなくていいし、国から安定した給料を貰える。僕からすれば、本当に恵まれていると思う。
「それで、これからどこへ向かうのですか?」
「ええっとそうだね……」
ちらりと、木勢さんの服装を見る。和服の姿だけど、どうみても大和撫子なんて言えない様なあられもない姿だ。下の丈は膝より遥かに上だし、胸元は開いているしで今から行く場所には、とてもじゃないけど連れて行きたくない。
「木勢さんは、なんでそんな派手な恰好をしているんですか? 現実世界であったときは無難な服装していましたよね?」
「ほう、唐突な藪から棒の様な質問ですが、上官である少佐の質問とあらば答えなければなりませんね」
にやりと笑って、無駄に挑発的な表情をつくっている木勢3尉。なぜそんな表情を?! そんなに変な質問してないよね?
「また、そんなからかう様な言い方を」
「まあ、いいじゃないですか。で、なぜかと言われれば、こんな格好は現実世界では出来ませんからね。面白いでしょ、非現実的な行いは」
なるほど、その話はわからない話でも無い。けど、僕が思うに、それは以前の話だ。今は現実と電脳が混じりあったような環境なんだ。だから、よくそんな場所でそんな恰好ができるなと、僕は思えるんだけど。
「あと、女PCの服を買おうと思うと、こんなのが多いんですよね。NPCのは、装備出来る様に加工するとお金がかかりますし」
まあ、元がゲームだった弊害だな。PC用の服はどれも奇抜で、派手なのが多いから。
「さて、話も終わったところで、さっさと次の場所にいきましょうか。話を逸らそうとしたのかもしれませんが、そうはいかないのですよ」
細い目を鋭く、猛禽類のようなした自衛隊の精鋭たる彼女から、僕みたいなただの中学生が逃げられる訳もない、か。
「はあ、わかりました。行きましょうか」
そういって僕は、もろ手をあげて降参したのだった。