僕らの―電脳《浸食》現実―バトルフィールド
殺風景なフィールドを駆けていくと、唐突に現れる人工物群とバリケード。トゲトゲしさで彩られたそここそが、目的地である自衛隊駐屯地だ。
重戦機から下りて内部に入れば、自衛隊員の方々が忙しなく活動していた。
この中で目的の人物を探すというのも、なかなか難しい。
「諏訪さんどこだろう?」
『先ほど、戦闘があったばかりです。これまでの行動パターンから最も多い選択肢は、「補給倉庫」です』
「じゃあ、そこ行ってみようか」
なんてイソラのアドバイスに従ってみたら、直ぐに見つけられた。大柄で、ゴリラのような容姿のお偉いさんだ。
「お久しぶりです。諏訪1佐」
なんて気軽に声をかけたけど、本当に偉い人なのでちょっと緊張する。僕の後見人なってくれている人なので、そんなことを言うと失礼になるかもしれないけど。
「おお、光君。久しぶりだな。さっきの戦闘みていたぞ。こっちの撃ちもらしを叩いてくれて、助かったよ」
良かった。満面の笑みで迎えてくれた。ひょっとしたら、さっきの戦闘に介入したことが不評をかっているかもなんて思っていたけど、どうやら取り越し苦労みたいだ。
「いえ、僕も生活費が欲しかったので丁度良かったですよ」
「そうか……。なら、もっと撃ちもらしていた方が良かったか? なんてな。ハッハッハ」
「はは……」
本音を言えばその通りなんだけどね。まあ、そんなこと言えやしないけど……。
『肯定です。このままでは、主はおまんまの食い上げです』
「ぶっ!」
なんてことを言い出すんだ、このAIは。
僕が気を使っているのに、無駄になったじゃないか。
「はっはっは、イソラ君はいつもながら手厳しいな」
あーあ、諏訪さんも苦い顔作っちゃったじゃん。
「すいません。こいつ、ちょっと人情の機微って奴がわかってなくて……」
『なんせ、AIなもので』
こ、こいつ、自分で言うかね……
「はっはっは、相変わらず面白いAIだ。……まあそれは置いといて、光君もお金に困ったら俺に相談してくるんだぞ。俺も伊達に親代わりを買って出たわけじゃないんだから」
「はい」
本当、ご迷惑をおかけして申し訳ないです。
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『主、諏訪1佐との面会後、何処へ向かわれるのですか?』
「街に戻って、色々調達して、いつものところかな」
このデジタルワールドには、都市国家がいくつもあってそれぞれが現実世界のように経済を形成している。街には貨幣が流通していて、重戦機の補給類はもちろん、デジタル製の服や小物、生身では食べることが出来ない料理なんてモノまである。
そして、ゲーム内なのに、音楽やボードゲームなんて娯楽もある。もはや、ゲームなのか現実なのかわからない有りようだ。
『了解、ではこの駐屯地をでて機体を起動してすぐに、ナビゲーションを開始いたします』
「ああ、よろしくたのむ――」
「おやおや、これは珍しい。少佐どのではありませんか」
声をかけて来たのは、若い女性自衛隊員で、ようく見知った人物だ。黒い短髪だけど、迷彩服を着ていなければ、自衛隊員とは思えないほど可愛らしい細目顔の美人さん。
「お久しぶりですね、木勢3尉」
「はい、お久しぶりです。今日は、諏訪1佐に会いに来られたので?」
ここの人達は、僕が1佐の保護下に入っているのを知ってか、僕への話し方が馬鹿丁寧だ。まあ、上司の子供みたいなもんだし、ゴマをするのはわかるけど、1佐(大佐)の下だから少佐なんて呼ぶのは止めて欲しいだ。
「はい、用事はもうすんだので、これから街へ戻るところです」
「なら、私も付き合います。実は今から非番となったので、暇なのですよ」
ええ、非番になったのならゲームから抜けて、現実世界で羽根を伸ばせばいいのに。
『行先は、武器屋、整備屋、ハンターギルド、あと昼日亭ですが、問題ありませんか?』
こいつもこいつで、何勝手に話進めてんの?
「ええ、構いませんよイソラさん。私の目的は彼に着いて行くことですから」
何、その目的。別に僕と着いて来ても面白おかしい事なんて起きないぞ。
『では、問題ありません。着いて来てください』
そして、勝手に話をまとめると。もう、どうにでもやってくれ……。