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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第六章 ないもの、それぞれに
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レガリアがない!


 ◇◇◇


 朝食を食べ終えて、街を歩き、目的の建物につく。

 もう何回目だろうか。このギルに来るのは。

 今後もずっと、ここに通うことになるのだろうか。

 いつものパターン。いつもの、行動。


「ふああ」


 建物に入ると、受付のルピアさんがおおあくびをしているところだった。

 俺たちに気づくと、慌てて愛想笑いを浮かべた。


「お、おはよう。今日も早いね、きみたちは」

「マアトの捜索隊は?」

「ああ、うん。手配してあるよ。今日のお昼から探すことになってる」

「……ほぅ、クエスト扱いにしたのか?」


 掲示板を何気なく見ていたマルドゥークさんが、呟いた。


「でも、俺たち、そんなにお金なんて払えないと思うんです」


 俺はその日暮しの状態だし、サーシャさんだって、持っているようには見えない。


「あぁ、その辺は大丈夫。クエストはクエストだけど、慈善活動、って形にしてあるから。あとで協力してくれた人たちに、おいしいご飯でもご馳走してあげればいいよ」


 ボランティアってことか?

 ううむ、飯、ということなら俺がなんとかできるかもしれん。


「ルドの出番だね」


 自分のことのようにサーシャさんが嬉しそうに言う。


「できるかどうかわかりませんが、やってみます」


 なにがいいかな。ううむ。考えておこう。


「あ、そうだ。イモちゃん達に伝えておくことがあったんだ」

「ん?」


 思い出したようにルピアさんが言った。


「私、これから出かけるから、なにか用事があったら、5番の受付のベルナンドに頼んでね」

「あの、優しそうな男の人?」

「そう、その人。たぶん」

「わかった」

「夕方くらいまでには帰ってこれると思うけどね」


 サーシャさんがうなずいた。

 出かける?

 休みでも、もらったんだろうか。

 忙しそうだったし息抜きがしたいのかもしれない。


「楽しんできてくださいね」


 ただ、息抜きをするんだと思った俺は、そんな言葉をかけていた。


「あぁ、うん。そうだね。楽しんで、くるよ」


 笑顔でルピアさんは建物から出て行った。

 遅れて、小柄なじいさんが建物に入ってくる。

 昨日大暴れしていたギルド長だ。

 年寄りらしく、朝が早い。


「おはようございます」

「む? おお、くだんわっぱどもか。感心じゃな。光陰矢のごとく、時間は有意義に使わねばならん。でなければ、すぐにわしのようになってしまうぞ?」


 かか、と元気に笑うじいさん。

 朝早いことを誉めているらしい。

 昨日の戦いなんてまるで無かったみたいな感じだな。


「話は、聞いておるよ。災難じゃったな。なあに、すぐに見つかるじゃろう」

「……」


 サーシャさんが黙って聞いている。

 耐え切れずに俺はどうでもいいことを聞いてみた。


「お付きの人はどうしたんですか?」


 いつも傍に控えているはずのお付きがいない。


「筋肉痛じゃよ。普段から鍛えておかんから、ああいうことになる。あの程度で、情けない」

「そ、そうですか」

「おらんでも問題はないのだが、不便なのは、事務を任せられんことじゃな。……ルピアのやつは、おるか」

「いえ、今出かけましたけど」

「む? もうか。普段は無茶を言わんあの娘が、急に休みが欲しいと言い出したので許可を出したが、むう。困ったのぅ」


「なにかあったんですか」

「……まあ、お主たちは信頼してもよかろう。レガリアがな……見当たらんのじゃ」

レガリア?」


 なんだ?

 ここに来て、初めて聞く単語だぞ。

 みんなも、首を傾げている。

 一人を除いて。


レガリアちゅうのは、古くから伝わるアイテムで、創生神話において、7人の天使が力の媒体として使っていたとされるものじゃ。

各地方の大都市にひとつずつ、計7つ存在し、我がギルドはその守護の役割も担っておる。この街には地下に封印させておったが、どういうわけか、見当たらんのじゃ。……おぬしらは見ておらんかの。こんな感じの……鈍色の、四角い形の物体じゃ」


 じいさんがジェスチャーで形を伝えてくるが、俺たちはそんなの知らない。首を振る。

 マルドゥークさんが言った。


「普通の人は知らないだろう。私の国にも、ひとつあるよ。王家が厳重に管理しているので二度しか見たことはないが」

「へえ」

「もっとも、形状が違うね。私が見たものは、羽の生えた球形の物体だった。レガリアと一口に言っても、それぞれ形が違うのだろうな」


 伝説のアイテムとか、そんな感じか?

 ロン・ギヌスの使った槍とか、聖骸布、みたいな。


 興味の湧いたフランさんがじいさんに続けて尋ねた。


「地下って言うと?」

「非常時に避難する遺跡があるじゃろ。あれの更に奥に、封印の間と呼ばれるもんがある。普段はそこにある。厳重に保管しとったが、どういうわけか、今朝見てみたら、無くなっておったのじゃ」

「それにはどんな力があるの? も、もしかして、そのアイテムには、世界を破滅させる力が? だとすれば大変なことなんじゃ――」


 フランさんの声を引き取ったじいさんが大して大事なことでもなさそうに言った。


「いやいや。そんなたいしたアイテムではない。普通の人間が手にしたところで大した脅威にもならないが、あれはシンボルじゃからな。いたずらに無くなっても困る」

「そうですか」


 うーん。ちょっと残念なような、ホッとしたような。


「手続きをせねばならんが、生憎わしも忙しいのでな。奴は今日も来るじゃろうし。準備をしておかねばならん」 


 奴。

 エスクードか。


 『疑いもせず、老獪の言うことを信じたわけですか』


 どういう意味だろうか。


「あいつと、どんな遺恨があるんです?」

「弟子じゃよ」

「話し合えないんですか」

「おぬし、あいつの目を見たのではなかったか?」

「ええ」

「話し合いで解決などせんよ。ならば、わしにできることはなんじゃ? ひとつしかあるまい」


 じいさんの言葉が悲しかった。


「とはいえ、歯がゆいの。待つだけなんぞわしの性に合わん。奴の居場所がわかれば、攻めていけるのじゃがな」


 じいさんが視界の端に出勤してきた職員を留めた。

 俺たちに労いをかけて、じいさんは離れていった。



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