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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第五章 変わる日々
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マアトのゆくえ


 ◇◇◇


 フランさんにもマルドゥークさんにも、果ては全然面識の無い冒険者にも話を聞いてみたが、マアトのことは知らないと首を振った。

 二人で駆けずり回って探し回るが、手がかりは無し。


「ど、どうしよう……これって、きっと、迷子、じゃない、よね?」

「サッちん。見つかるから、大丈夫だって」

「でも、どこにも、いない、し」


 サーシャさんがふるふると震える中、フランさんが慰める。

 ふと、マルドゥークさんが冷静に答えた。


「――考えたくはないんだが。あのエスクードという人物が連れ去った可能性はないか?」

「あいつが?」

「お嬢さんがいなくなったのは、そいつとの戦いの最中だろう?

奴は、影を操る能力に特化している。何かの拍子に、スキをついて無警戒の子供一人を連れ去ることなど、容易なはずだ。そのために夜を選んだのかもしれない」


「そうか、紛れるために」

「あまり考えたくはないがね」


 本当にそうだ、と思う。


「でも、なぜ?」


 なんのために?

 

「いや、それは……」


 言い淀む彼の様子が、なにか隠していることを物語る。


「知ってるなら教えてください」


 サーシャさんもマルドゥークさんを真剣に見つめた。

 マルドゥークさんが目線を泳がせる。


「うむ……いや……うん……やはり、良くない影響が出るかもしれない。なるべくなら知らないほうがいい。これは、キミに意地悪をしているわけじゃないんだ。すまないが、わかってくれ」


 何度か言いかけたが、やっぱり教えてくれなかった。

 申し訳なさそうに頭を下げる。

 ……語らないか。


 ◇◇◇


 結局、俺たちは、一旦、戦場を離れて、街まで戻る。

 あのまま探していても見つからない。

 マルドゥークさんの言った説が一番可能性がある気がしたからだ。

 なぜ連れ去ったのか、という具体的な理由は俺にはまったくわからないけど。


 キャンプアイヤーのような巨大な炎を囲んで、皆が踊る。

 二度目の勝利に沸いて、祝杯をあげているが、けれども、俺達の心は浮かない。


「おつかれさまです。あれ? マアトちゃんは? お花摘み?」


 冒険者の酌をしていたルピアさんが、のんきに話しかけてくる。


「いなくなっちゃった」

「……なに、どうしたの?」


 ただならぬ雰囲気に、なにかを察したルピアさんが真剣な声色になる。


「連れ去られた、かも」

「なんですって?」


 俺達は、話した。

 マアトが気が付いたらいなくなっていたことと。

 マルドゥークさんの仮説を。

 ルピアさんは真剣に聞いてくれた。


「あの子が自力で行けそうな場所は、ほとんど探したし、もう、迷子って可能性は低いと思うの」

「……そうね。でも、決め付けるのはよくないかな。子供って、ときに意外なところにいたりするからね。一応、夜が明けたら、捜索隊も出してみましょう。迷子と、誘拐と。両方、調べていったほうがいい」

「そっか、そうですよね」

「少し私の方でも調べてみるよ。あんまり思いつめないでね」

「いろいろありがとうございます」

「いいって」


 ルピアさんは照れていた。足早に立ち去るその顔が、一瞬、羅刹みたいな顔に見えたけど、気のせいだろう。

 残された俺達も、とにかく宿に戻ることにしたのだが、やっぱりマルドゥークさんもついてきた。


 「安っぽい宿だねえ」と呟いた声をおかみさんに聞かれて、にらまれていた。

 慌てて取り繕う姿が、大変面白かった。


 □□□


(ふぅ)


 長いギルドの廊下を一人こつこつと歩いて、ぼやく。

 事務の仕事なんて、楽なもんだと思ってたけど、これがかなり胃にくる。

 職員はみんな良い人ばっかりでも、楽しみのひとつがなくちゃやってられない。


「それにしても。私の天使様を拉致監禁しやがるとは、どこのどいつだ。そんなうらやまし、もとい、不届きな奴は――」


 彼らから話を聞いた後、すぐにでも調査したかったが、溜まった仕事を片付けなければならなかった。

 そのために、ずいぶん時間が立ってしまった。

 とは言っても、大体の予想はついている。あとは裏付けをするのみ。

 なぜ、このような暴挙に打ってでたのか。


「一枚岩じゃないからなあ」


 集まりにおいて、もっとも重視されるのは個人のスタンスだ。

 それに口を出すのは難しい。

 いろいろと、手を回す必要があるかもしれない。


「……ま、いいや。私は、あの子が無事に戻ってきてくれれば、それで」


 その言葉は、いずれ、夜の闇に吸い込まれて消えていくだろう。

 でも、今は、願うことも、悪いことではない。 

 

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