マアトのゆくえ
◇◇◇
フランさんにもマルドゥークさんにも、果ては全然面識の無い冒険者にも話を聞いてみたが、マアトのことは知らないと首を振った。
二人で駆けずり回って探し回るが、手がかりは無し。
「ど、どうしよう……これって、きっと、迷子、じゃない、よね?」
「サッちん。見つかるから、大丈夫だって」
「でも、どこにも、いない、し」
サーシャさんがふるふると震える中、フランさんが慰める。
ふと、マルドゥークさんが冷静に答えた。
「――考えたくはないんだが。あのエスクードという人物が連れ去った可能性はないか?」
「あいつが?」
「お嬢さんがいなくなったのは、そいつとの戦いの最中だろう?
奴は、影を操る能力に特化している。何かの拍子に、スキをついて無警戒の子供一人を連れ去ることなど、容易なはずだ。そのために夜を選んだのかもしれない」
「そうか、紛れるために」
「あまり考えたくはないがね」
本当にそうだ、と思う。
「でも、なぜ?」
なんのために?
「いや、それは……」
言い淀む彼の様子が、なにか隠していることを物語る。
「知ってるなら教えてください」
サーシャさんもマルドゥークさんを真剣に見つめた。
マルドゥークさんが目線を泳がせる。
「うむ……いや……うん……やはり、良くない影響が出るかもしれない。なるべくなら知らないほうがいい。これは、キミに意地悪をしているわけじゃないんだ。すまないが、わかってくれ」
何度か言いかけたが、やっぱり教えてくれなかった。
申し訳なさそうに頭を下げる。
……語らないか。
◇◇◇
結局、俺たちは、一旦、戦場を離れて、街まで戻る。
あのまま探していても見つからない。
マルドゥークさんの言った説が一番可能性がある気がしたからだ。
なぜ連れ去ったのか、という具体的な理由は俺にはまったくわからないけど。
キャンプアイヤーのような巨大な炎を囲んで、皆が踊る。
二度目の勝利に沸いて、祝杯をあげているが、けれども、俺達の心は浮かない。
「おつかれさまです。あれ? マアトちゃんは? お花摘み?」
冒険者の酌をしていたルピアさんが、のんきに話しかけてくる。
「いなくなっちゃった」
「……なに、どうしたの?」
ただならぬ雰囲気に、なにかを察したルピアさんが真剣な声色になる。
「連れ去られた、かも」
「なんですって?」
俺達は、話した。
マアトが気が付いたらいなくなっていたことと。
マルドゥークさんの仮説を。
ルピアさんは真剣に聞いてくれた。
「あの子が自力で行けそうな場所は、ほとんど探したし、もう、迷子って可能性は低いと思うの」
「……そうね。でも、決め付けるのはよくないかな。子供って、ときに意外なところにいたりするからね。一応、夜が明けたら、捜索隊も出してみましょう。迷子と、誘拐と。両方、調べていったほうがいい」
「そっか、そうですよね」
「少し私の方でも調べてみるよ。あんまり思いつめないでね」
「いろいろありがとうございます」
「いいって」
ルピアさんは照れていた。足早に立ち去るその顔が、一瞬、羅刹みたいな顔に見えたけど、気のせいだろう。
残された俺達も、とにかく宿に戻ることにしたのだが、やっぱりマルドゥークさんもついてきた。
「安っぽい宿だねえ」と呟いた声をおかみさんに聞かれて、にらまれていた。
慌てて取り繕う姿が、大変面白かった。
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(ふぅ)
長いギルドの廊下を一人こつこつと歩いて、ぼやく。
事務の仕事なんて、楽なもんだと思ってたけど、これがかなり胃にくる。
職員はみんな良い人ばっかりでも、楽しみのひとつがなくちゃやってられない。
「それにしても。私の天使様を拉致監禁しやがるとは、どこのどいつだ。そんなうらやまし、もとい、不届きな奴は――」
彼らから話を聞いた後、すぐにでも調査したかったが、溜まった仕事を片付けなければならなかった。
そのために、ずいぶん時間が立ってしまった。
とは言っても、大体の予想はついている。あとは裏付けをするのみ。
なぜ、このような暴挙に打ってでたのか。
「一枚岩じゃないからなあ」
集まりにおいて、もっとも重視されるのは個人のスタンスだ。
それに口を出すのは難しい。
いろいろと、手を回す必要があるかもしれない。
「……ま、いいや。私は、あの子が無事に戻ってきてくれれば、それで」
その言葉は、いずれ、夜の闇に吸い込まれて消えていくだろう。
でも、今は、願うことも、悪いことではない。




