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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第二章 注文の多いギルド店
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追撃と逃走、あるいはネコとイヌの話②


  ◇◇◇


「なんだ?」


 乗客が騒いだ。大きく馬車が揺れている。ずいぶん乱暴な運転をしているようだった。道が悪いのか、急いでいるのか。


「なにかあったのかな」


 揺れ続ける車内で誰とも無しに呟くと、


「外、見てみる」


 サーシャさんが馬車から身を乗り出して、外の様子を見てくれた。「あ」という短い声が聞こえて、


「なんか、いる」


 と言った。


「なんです、『なんか』って」

「たぶん……【ワイルドハウンド】」


 聞きなれない生物の名前を口にして、サーシャさんが席に戻ってきた。


「ルドも、見てみる?」

「……どのへんですか?」

「すぐ後ろ」


 俺も馬車から身を乗り出してみる。風が気持ちいい。


(おっと)


 馬車が、また、がくん、と揺れた。しっかり掴まってないと危ないな。すぐ後ろって言ってたけど……。


(なんだ、あれ)


 後ろを見て、悪寒がした。1メートルはありそうな犬。白だったり、茶色だったり、黒だったり、体毛の色はそれぞれだったが、が数頭、群れを成して、馬車を追いかけてきていた。

 荒い息遣いが聞こえてくる。確認できる範囲では数頭しかいないが、ひょっとすると、もっといるのかもしれない。あれが原因だ。あれは、おそらく、野犬。限界以上に成長した野犬だ。


「いた?」

「……いました」


 俺たちが話をしていると、


『おいおいおい、まじかよ! 追いかけてきてるぞ!』

『なんだよ、アレ!』

『護衛は! 護衛くらいいるんだろ!?』

『こんな収益のほとんど無い路線で、護衛を雇う余裕なんてあるもんか!』

『いやだ、喰われたくねぇよ』

『いないなら冒険者でもいい! 冒険者はいないのか!』


 事態に気づいた乗客も騒ぎ出した。けど、サーシャさんは相変わらずのんびりしている。あれを見たのに、どうしてだ?


「い、いいんですか? あの犬…」


 犬。犬といったが、あまりにも俺の中のイメージと異なるが。

 

「【ワイルドハウンド】?」

「そう、そのハウンド。もし追いつかれたら」


 ごとごと馬車が揺れる。今も付かず離れず、犬たちは追ってきている。もし距離が縮まれば、吹き抜けの馬車に、安全な場所はない。

 けど、サーシャさんは言った。


「たぶん、へいき。あの子たちは そこまで足が速くない。そのうち諦めて帰っていく、と思う」

「ほっておくんですか」

「うん。そのつもりだけど……ルド、なにかするの?」


 俺は、なにかをするのか?

 サーシャさんは、逃げていれば、そのうち諦めるだろう、と言っているようだった。

 俺はなにかをするべきなのか、なにもしないほうがいいのか。


『行商! すまないが、この先で、しばらく馬車を止めておいてくれないか。私が出て、やつらの注意を引く。もし私に何かあったときは遠慮なく逃げて欲しい』

『あ、あんたは冒険者なのか!? だが、しかし、あんた一人では!!』

『まかせろ』


 戸惑っていると、よく通る声が聞こえてきた。

 乗客の一人だった騎士のような格好をした男が、マントを翻し、颯爽と外に出て行った。……あいつ。妙な人物の一人だ。


 -------だって、そうだろう? 

 金髪、蒼眼、騎士、マント、長身、さわやか。こんなやつ、絶対、妙な人物に決まっている。

 

 男は薄笑いを浮かべて、「なぁに何もないと思うがね。……あんな雑魚相手では」とつぶやき、ゆっくりとイヌの集団に駆け寄りながら、背負ったロングソードを引き抜いた。


 イヌの集団が追撃を中止する。すこし距離を取って、馬車が停止した。そこからは圧巻だった。敵と認識したイヌが男に飛び掛る。皆が息を呑んだ。


「雑魚には興味ないッ!」


 ロングソードの一閃で、イヌは両断されていた。

 返す刃で、近くにいた二頭目の首を刎ねる。

 三頭目は男が疾走した『ついで』に斬りかかられ、血を流し尽くして絶命した。


「ハァァァァッ!」


 四頭目、五頭目、六頭目は、男を取り囲むようにして飛びかかったが、迎撃され、空中で命を落とした。

 宙に咲く赤い花。どさり、と遅れて音がする。肉片が降りかかるのも関せず、男は高揚しているようだった。

 最後に残った七頭目は、他のイヌよりもほんの少し身体が大きかったが、すでに怯えていて戦意を失っていた。

 後退りをするイヌを、

 

「もらったァッ!」


 どう。

 最後の一頭も、一瞬で斬り伏せた。

 哀れな獲物たちは男の剣の前に、成す術なく一網打尽にされた。この間、実に数分。


「ま、こんなもんかな。経験値は……チッ、ぜんぜん入りゃあしない。仕方ないか、こんな雑魚じゃあ」


 静寂が続く。皆、あまりのことに言葉が出ない。ついで、歓声が起こった。


『すげええ!! あんたすげえよ!!』


 乗客の一人が、駆け寄った。次々に駆け寄っていく。


「いや、どうってことはありませんでしたね」

『あなたがいなかったら、どうなっていたことか!』

『ありがとうございます! なにかお礼を! 好きなものを用意させます!』

「よしてくださいよ。私は私のためにやったのです。皆さんを守りたいと思いましたからね。

あぁ、それにしても今日、この場に私がいて良かった。死ななくていい命を、皆さんを救うことができたのですから」

『なんて欲の無い方だろう! すばらしい方だ!』


 今のは現実なのか? 真剣使っていいの? 

 いや、状況が状況だったけどさ。

 でも、男が言った「死ななくていい命」。

 それが、なぜか、嫌な音を立てた気がした。


 皆が男の勇気と勝利を称えて歓声を上げている。全員が笑っている。盛り上がるその場で、サーシャさんだけ違う顔をしていた。




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