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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第五章 変わる日々
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じいさんと私というエッセイ


 ◇◇◇ 


「よく集まっていただいた、冒険者よ! 勇敢なる冒険者よ!! 夜分に恐れ入る!!! これより緊急クエストの発令を宣言するッ!!」


 やたらキレのある節をつけた小さなじいさんの演説が始まる。

 遅れて、一振りの刀を携えたお付きの人が脇に控えた。


「またも我らの街に魔物の大群が押し寄せている! 詳細は不明だ! が、諸君らの為すことは何ら変わりない! どうか街のために力を貸してもらいたいッ!! 諸君が日々、鍛え上げてきた力は何のためにあるか!? その名誉は、その技は、何がためにあるか!? 今、このためにあったのだと心せよ!!」


 荒ぶるじいさんの声に混じって、周囲の小さな声も聞こえてくる。


『また虫なの?』

『あたしの広範囲魔術で一網打尽に』

『おいおい。また、家に火ィつけんなよ?』

『緊急クエって、こんな何回もあるもんなの?』

『昨日って、何があったの? 子供が、すごい魔術使ったとか聞いたんだけど』

『知らなーい。前線にいた人に聞いたら。なんか知ってるでしょ』

『いや、ガセだろ? ありえねーよ』


 熱心に聞き入る者、眠そうな者、好き勝手する者。

 俺は、あくびしながら適当に聞き流していた。


「今日は、私も出よう!!」


 突然、壇上のじいさんが衝撃的なことを口走ったせいで、どよめきが起こった。

 出る? 戦うってことか?


「ギ、ギルド長……総責任者が出撃するなど前代未聞なのですが」

「そうだそうだ。年寄りは無理すんなよ。俺たちにまかせておきゃいいだろーが」

「おじいちゃんは後ろで、どーん、と構えててくれればいいんだからさ」


 周囲がたしなめるが、老人は頑なに聞き入れない。

 カッ、と渇を入れると、空気が張り詰める。


「街の一大事ッ! ただ指を咥えて待っているなど、長たる者のすることであろうか! 人には、たとえ死のうとも、行かねばならぬときがあるのだ!!」


 熱い演説に、何人かが涙ぐむ。

 あのじいさん、腰があんなに曲がってんのに戦えるのか?

 あの年でギックリ腰とかやったら、マアトのでも直らないぞ。きっと。


「だいじょうぶだよ。あのおじいちゃん、よっぽど強いのが来なければ、そうそう負けないと思う」


 いや心配はしてないが、よっぽどって何だ?

 グレムリンとか、スライムとかか?

 

「じいさんとサーシャさんは、戦ったことがあるんですか」

「無いよ」

「じゃ、わからないじゃないですか」

「わたし、ればわかるんだ」

「というと?」

「うん。その人がどういう人で、どんな特性を持ってて、どのくらいレベルを持ってるのかって。なんとなくわかるの」

「へえ」


 まあ、観察力のある人なら、そういうことが、できる人もいるのかな?


「あ、じゃあ俺は? なにか適正とかわかりますか」


 炎とか言うのかな。まさかね。


「……ルドのは……わからない」


 サーシャさんが言い淀んだ。


「見ればわかるんでしょう? 今も俺のこと見てるじゃ」

「視てないよ。嫌、かなと、思ったから」


 サーシャさんは俺をじっと見つめている。

 見てるのに、見てないとはこれ如何に。


「? なに笑ってるの?」

「楽しいことを考えてたんですよ」

「楽しいこと?」

「不謹慎ですかね」

「……ううん。緊張して、ガチガチになってるよりは、いいと思う」


 そうだな。

 緊張していては、実力は出せやしない。

 気の抜けてたほうが柔軟な対応ができるってもんだ。

 なるようになるさ。


「では、諸君!! 無理、無茶、無謀をせぬように、命を重く尊び、事故の無いよう、尽力してほしい!」

 

 じいさんの声が響く。

 命を軽んじ、自己の無いよう。

 俺は、またあくびをかみ殺した。



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