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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第五章 変わる日々
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素材を売ったらプチ金持ちになった。


◇◇◇


 保存袋から獣のくっさい匂いが徐々にしてきたので、早急に手放さねばならん、ということで急ぎ街についた後、ギルドに直行した。


「マアトちゃん!!」

「またですか」


 疾風の如く。建物に入った瞬間、もういつの間にか隣にいる。

 マアトに抱きついている受付のおねえさんこと、ルピアさん。

 何度目かの彼女は為すがままだ。


「んん?? マアトちゃんから、なんだか妙な匂いが?」


 すんすんと、鼻を鳴らし、なめ回すようにマアトの異変を嗅ぎ分けた。獣ですか。


「そういえば、森でキノコに触ってから洗ってなかったですね」

「キノコ? 森? ……まさか、このニオイ!! 【デルエ・キノコ】!! あ、あ、あんな卑猥なモノを!!! こんな可憐な子に摘ませたの!!?」

「手伝ってくれると言ってくれたので」

「あああああ!! なんてことを!!!」


 崩れ落ちるルピアさん。面白い。


「それはいいとしまして」

「よくない!! あ、あ、あなたは、自分が、誰に、なにをさせたのか、わかって――」

「こんばんは、ルピア」

「あら、おかえりなさい」

「ルピア、疲れてる?」

「あ、わかる? 今日は朝からずっと仕事が多かったから肩凝っちゃった。相変わらず可愛いね、イモちゃんは。で、そっちの彼は、新顔?」

「あ、マルドゥークさんですね。ええ、まあ、そんな感じです」

「よろしく頼むよ」

「……あなた達は、1日に一人ずつ増えていくのね」

「はは」


 それ誰かにも言われたぞ。

 宿のおばちゃんだけど。てことは、ルピアさんの思考はおばちゃんに近――


「今、失礼なことを思ったでしょう? おばちゃんみたい、とかなんとか」

「は、ははは」


 鋭すぎる。ただの受付のお姉さんでしょ、この人。冒険者じゃないよね? 


「で、買い取って欲しいものがあるんですけど」

「なあに? イビルラットの歯刃かな。透き通るアメジストみたいに、紫色になってるやつは、高値で買い取るよ」

「あ、違います」


 みんなが運んできたワニトカゲの牙やら鱗やらをごとごと取り出し、ギルドのテーブルに並べられていくと、ほのかに血と獣臭が立ち込める。

 ルピアさんがぽかんとした顔で眺めていた。


「もしかして、これ、【グランドグリゲーター】の素材ですか」

「そうですよ」

「はぇー……初めて見ました。こんなんなってるんですねえ。さっすが、マアトちゃん。こんな大物まで仕留めちゃうなんて」

「いえ、解体はみんなでやりましたけど、違いますよ」


 驚くルピアさん。

 というより、なんでマアトがやったと思った。


「驚く事はないでしょう。こちらには【竜喰らい】がいるんですから」

「え、あのご高名な方が? この街にいらしてるんですか!?」

「はい」

「ルドルフ君」


 小声でたしなめてくるが、気にしない。

 実際に倒したのは【竜喰らい】ではないが、使わせてもらいますよ、名前。


「んにゃ? おねえさん、マルドゥーク様のこと『知らない』んじゃなかったの?」

「え、はい。その、マルドゥークという方は存じませんが。【竜喰らい】様のことは存じております。たったひとりで、邪竜ファブニールを討伐なさった英雄ですよね」

「私は、私のために邪竜と戦ったまでのこと。皆が称えるような、英雄などではない」

「あなたが……なるほどなるほど、確かに、あの【竜喰らい】様が加担されていたなら、納得です」


 マルドゥークをじっと観察し、一人でうんうんと勝手に納得するルピアさん。


「……いらぬことかもしれないが。私の素性のことは、できるだけ口外しないでもらえるとありがたい」

「なぜです?」

「個人的な事情によるものだ」

「……確かに、あなたほどの英雄なら、露見すれば騒ぎになりますものね。心得ました。私の口から口外することはありません」

「ありがとう。キミたちも、なるべく私のことは名前の方で呼んでくれないか」

「わかりました」


 んじゃ、マルドゥークさんで。

 彼がにこっと笑ってくれた。ぞっとした。男に流し目を使うな。


「それで、この素材って、ギルドでぜんぶ買い取りしていいの?

見た感じ、牙や爪は優秀な武具になりそうだし、鱗や皮なんかも上質な防具の素材になると思うんだけど」


 うーん。別に、いらないかなあ。

 素材あっても、鍛冶屋とか知らないから荷物になりそうだし。

 DIYの感じで、自分でヨロイとか作るか?

 ワニトカゲのヨロイ、Madein俺。

 面白そうではあるけど、今回はパスかな。


「取っとくの、あります? 欲しいものありますか?」 

「ううん。わたしは何もしてないし。みんなで分けてくれれば、いい」

「皆さんは?」

「私は、これで作れるモノより、もっといい武具を持ってるから必要ないよ」

「うーん。お金の方がいい」

「現金っすね」

「あ、今うまいこと言った!」

「狙ってないんで、騒がないでくださいよ。じゃ、全部、売っちゃうってことで」

「本当にいいの? けっこうな額になるよ。少し査定に時間かかるけど、待ってられる?」

「どれくらいです?」

「うーん、1時間くらいかな。なにしろ、あんまり出ない代物だから」

「ちょっとすいません」

「1時間だって」

「どうしましょう」

「キミ達の判断に任せる」

「マアト、おなかすいた!」

「そうですね。じゃあ、待ってる間、その辺でなんか食べましょうか」

「あ、なら、近くに美味しいパンケーキ屋があるんだよ。行ってみる? ま、マルドゥーク様もそれでいいです、か?」

「よろしくお願いします」

「構わん」

「おーい。どうするのー?」

「はい、お願いします」

「まかせて」


 ルピアさんが、応援を呼んで、査定にかかった。

 素材を見た職員の顔が面白い。


『これは……すごいな』

『年代を感じる。相当の大物だな』

『見てくれ、この強度を。鎧に使えば、大抵の攻撃を――』

『確か工房のグレイラースじいさんが珍しい素材を欲しがっていただろ』

『そこまでの職人がいるかどうか』

『売りに出したとして、収益は――』


 ………。


「あ、ルピアさん。俺たち、待ってる間、外でパンケーキ食べてますから」

「ええ!? 待って! 私もマアトちゃんとお食事!!」

「頑張ってください。1時間後にきます」


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