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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第五章 変わる日々
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おじいさんとおばあさんたちは森へ狩りに出かけて、大きなワニを仕留めました。


 ◇◇◇


 街に帰る途中、パンが美味しかっただの、天気がどうのといったどうでもいいような話に花を咲かせていたら、

 やたらケバケバしい蛍光色の蜘蛛やら、顔がオニの能面みたいに見えるイノシシの化け物やらが色々出てきた。


「【サンバ・タランテラ】と【オニオオウリ】? グランドグリゲーターのせいで、興奮してる?」


 集団でくるとか。

 強くはなさそうだけど、数多くて戦うの面倒だな。

 

「そんなに強くない魔物だし、逃げる?」

「逃げるだって? 何をバカな。ここは私に任せたまえ」

「戦ってくれるんですか」

「経験値はまったく入らんと思うが、まあ、ガマンするとしよう」

「ザコには興味ないんじゃなかったんですか」

「もう、ザコでも何でもいい、というより、戦わせろ」


 こんなやりとりがあって、俺たちの出る出番は全くなく。


「ハハハハッ!! いいねいいね! ザコども!! どんどん出て来い!! 我が血となり、我が剣の錆びとなれ!!」


 ぶんぶんぶん。

 魔物がいっぱい出てきても、動じる事なく、冷静で大胆に、剣をぶん回す。

 出てくる魔物は、経験値ヒャッハー状態と化したマルドゥークさんが悉くぶっ飛ばしてくれた。

 怪力か、剣圧か、それとも魔力か。ほとんどの魔物が一撃しか当てられていないにも関らず、斬られ、飛び散り、バラバラになる。

 命が散っていく様は――恐ろしくも、美しい。

 

「……すげえな、あの人」

「……そうだね」


 あ、思っただけのはずなのに声に出ちゃった。

 剣技がどうとかじゃないんだ。アグレッシブで。

 よほど大物と戦えなかったモヤモヤが鬱積してたのかな。戦闘狂って、すげえ。

 俺も、ちょっと遊びたかった。おかげで楽できたけども。


「ス・テ・キ。格好イイにゃあ……♪」

「そうですか?」

「そう?」

「……かっこよくない」

「え、なにこのアウェー感。あたし間違ってんの?」


 愕然とするフランさんがばっさりやられてるなか、当の本人は、敵を切り伏せ続ける。

 血振りの姿は、ちょっとだけ格好よかったので、勉強させて貰おう。


「ふう。ま、こんなもんか」


 戦闘が終わると涼しい顔を浮かべるマルドゥーク。

 もう、フランさんは大喝采。

 サーシャさんは微妙そうだったけど、仕方ないね。

 なんかあの人のアレも、フランさんの【狂乱】状態と同じような印象を受けるんだよな。

 足元には魔物の骸。このままでは浮かばれないだろうな。


「せっかくなんで、素材、集めましょうか」

「集めるのはムリだよ。あの人がバラバラにしちゃったから」

「仕方ないだろう、私の剣に触れたモノは、みな、ああなるんだ」

「加減を知らないの?」

「嫌味なのかな、それは」

「どう取ってもらっても構わない」


 なんだろ。

 空気が重い。

 この二人、本質的に相容れないのかもな。 



 ◇◇◇


「――マルドゥークさんも俺たちと一緒に行動するつもりなんですか?」

「そういうことになるかな。しばらくの間だとは思うが、よろしく頼む」

「うわうわぁ!! マジっすか!! めっちゃ嬉しい!! よろしくお願いしますにゃ!」

「理由が、まったく、思い当たらないんですけど?」

「私は、キミ達を監視しなければならない。が、私が未熟なせいで、バレた。だから、もういっそのこと一緒にいちゃえと思ってね」

「ヤケクソになってませんか」

「私はいつだって冷静だよ。その場その場で、適当な対応を取るまでさ」

「あなたは、パーティーを組まない人のはずでしょ」

「事情があるんだ」

「サーシャさんは、納得したんですか」

「彼女には了解を取ってある」

「わたしは、ルドに聞いて、と言ったはずだけど」

「いいかな」

「おにーさん、まさか、断るつもりじゃないだろうニャ?」

「睨まないで下さいよ。えっと……その口ぶりだと、断った場合、影から見張るってことですよね?」

「そうなるね」

「だったら、しょうがないんでいいですよ」

「ありがとう。助かるよ」


 断ったらコロス、みたいな気配がさんから出てたとは言えない。

 サーシャさんが了解したというのも、こっそり見張られるくらいなら、目につくとこにいてくれたほうがいいって判断なんだろう。

 しかし、強引というか、なんというか。

 なんで急に、とは思うが、深く考えるのはよそう。なるようになるさ。

 とはいえ、自分の知らないところで事態が進んでいくのは、あまりいい心地がしないな。

 ん?


「マルドゥークさん。なんだか距離ありませんか? 特に、マアトと距離を取られているような気がするんですけど」

「そうかな? そんなことはないと思うのだが」


 マルドゥークさんが、にこにこと親しげにマアトに近づいていった。


 すると。

 彼女は、ぞっとしたような……まるで、ナイトメアバグスを見たときのような顔を浮かべた。


「――! こっちこないで! へんたい!!」


 叫んだマアトが、逃げるように俺の方に駆けてきて、ぎゅっと抱きついてくる。

 あったかいな。

 

「マアトに、なにかしたんですか?」

「なにもしてない。見ていただけだよ。誤解があるようだから、解こうとしたんだが」

「見ていただけで、こんなに嫌われるものですか?」

「それは……」

「それとも、嫌われても仕方ないような場面を、見たんですか?」

「……」

「そうなんですか? 嫌われるような場面を、見ていたんですね?」

「……キミらは本当に親子だな。もう、それ以上聞くのはやめてくれないか」


 なんだ? 親子って?

 マルドゥークさんはそれ以上、話したがらない様子だったので、あとでマアトに聞こう。


 さくさく。

 とてとて。

 ざっざっ。

 とんとん。

 ちょこちょこ。


 続いた会話がなんとなく途切れると、五者五様な足音が響く。

 気づけば、いい感じに傾いてきている日が森全体を照らしていた。

 やることが沢山あると、時間がたつのが早い。

 それに、眠い。

 大きなあくびをすると、隣を歩いていたサーシャさんがくすり、と笑った。


「眠いの?」

「すみません」

「ううん。でも、もう少しガマンしてね。さすがに、ルドを背負ってはいけないから」


 彼女が笑うと、世界が華やぐ気がする。

 灰色だった世界に、色が付く。

 もし俺が眠ったら、彼女は、重荷を背負ってでも一緒にいてくれるだろう。

 

 ――家に帰るまでが遠足です。

 どんなに楽しい遠足も、いつかは家に帰らなければいけません。

 じゃあ、遠足の途中で帰る家を見つけてしまった人は、どうすればいい?


 ぐう、と腹が鳴った。

 そういえばメシを喰ってなかったな。

 夕食どうしようか。宿に戻れば用意されてるだろうけど。

 金はあるし、店で外食というのも悪くないな。なんなら、俺が作ってもいい。

 フランさんは魚かな。


 当のフランさんは、俺の前でマルドゥークさんと話しこんでいる。

 ずいぶん楽しそうだな。あんな顔、見たことないぞ。

 ……ふむ。


「――それでね? あたしのとーちゃんが、畑で大の字になって寝てると、野性のウサギが出てきて――」

「ちょっといいですか。マルドゥークさんに聞きたいことがあったんですけど」

「ん? なにかな。私で解ることなら、誠意をもって、答えよう」

「だいじょうぶです。解るはずですから」

 

 フランさんから、邪魔するニャ、という露骨な圧力を感じたが、気にしない。

 

「へんたいってなんですか?」

「……へんたい?」


 きょとんとするフランさん。

 見上げる視線。

 目が泳ぐマルドゥークさん。


「さっきマアトが言ってましたよね。意図がわからなくて」

「……彼女が、なにか、話したのか?」

「質問を質問で返さないで下さいよ。へんたい、って何ですか?」

「う……ぬう……」

「……仕方ないですね。マアト、ちょっといいかなー?」

「! な、なにをする気だ!」


 俺の呼び声に、サーシャさんの横を歩いていたマアトがとことこと、来てくれる。


「なあに、おとーさん」  

「さっき、このおにいさんのことをへんたいって言っただろ。どうしてそんなこと言ったのかな?」

「よせ! それ以上は聞くんじゃない!!」

「マルドゥーク様……?」

「なぜです? うちのマアトは、あなたのことをへんたいと呼びました。あなたの名誉を傷つける発言です。あなたは怒っていい。これは、真偽をきっちりさせなければなりません」

「マアト、うそついてないよ!」

「わかってるよ。だから教えてくれないかな? どうしてこのおにいさんがへんたいなのか」

「おかーさんも見てたもん!」

「なにを、見てたのかな?」

「やめてくれ!!」

「マアトのおしっこ!! このおにーさん、マアトのおしっこ、見てたって!! ずーっと見てた!!」

「あぁー……」


 ……ほう。なるほどね。

 この男、そういう趣向なのか。

 いや、そんなことはないだろう。ないよな?

 

「う、うそ、そんな。マルドゥーク様が……」

「いや、待ってくれ。事情があるんだ。説明させてくれないか。それは、度重なる不幸と偶然の産物なのだ。私は、何も」

「また言い訳するんだ! 見てたのに!! さっき認めたのに!!!」

「ぬぐぐぐううう……」

「……なるほど、そういうことでしたか。納得です。あ、おしゃべりの邪魔してすいません。どうぞ、遠慮なく続けてください。じゃ、いこうか、マアト」

「うん!」


 心のつっかかりが取れた俺は、マアトと二人でサーシャさんのところへ。


「……」

「……悪魔か、彼は」


 残された二人は打ちひしがれた。

 重い空気を打ち破ったのは、フランさん。


「あ、あたしは、味方ですから……」

「なにを言っているんだ……キミは……?」

「あたしはマルドゥーク様がどんな性癖を持っていても、幻滅したりしません!!

何があっても、世界中が敵に回っても!! 絶対に、絶対に味方ですからぁーーー!!


 フランさんが涙をこらえて明後日の方向に走っていった。

 獣人特有のスピードなのか、すぐに見えなくなった。

 はえっ。


「行くなああ!! 勘違いしたまま行かないでくれぇ!!」


 慌ててマルドゥークさんもガシュガシュ音を立ててフランさんを追いかけていく。

 鎧を着込んでるくせに、すげー早い。

 何日か前の構図と逆だな。


 ……生き急ぐ二人に嘲笑を。


 森は、暗くなりつつある。

 側に誰かがいる。

 寂しくはない。


「のんびりいきましょう」

「うん」


 闇は、怖くない。

 怖いのは、孤独だ。

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