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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第五章 変わる日々
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VS 破壊王、ラウンド1

 ◇◇◇


「――冗談にゃ?」

「マジです」


 フランさんが段々、俺の言ったことを理解して、慌て始めた。


「い、いやいやいやいやいや!! ちょっと待って! なにゆえ、そうなるん!?」

「だって、俺よりランク上でしょ。まともに戦えるのはあなたしかいないです」

「む、無理だから!! 【破壊王】に勝てるわけないじゃん! あれって、冒険者が徒党を組んで討伐に当たるやつ!」


 うーむ。まんま、レイドボス、みたいなもんだよな。それって、つまり、タカをくくられてるんだぞ?

 『おまえはひとりじゃ何もできやしない』って。

 そんなの嫌だろ。くやしいだろ。試してみたくねーの?


「いや、イケルんじゃないですか」

「その根拠の無い自信どっからきてんの!?」

「……うーん。勘?」

「勘って!」

「さっさとぶつかって玉砕、いや、健闘してきてください」

「いま玉砕って言った! あ、わかった! おにーさん、あたしをおとりにして、ひとりで逃げる気だにゃあ!?」


 あー、もう。にゃーにゃーうるさいなあ。


「俺がどうとかって話じゃないんです、あなた自身の問題なんです。戦わないと、死にますよ」


 眼前には黒い怪物。愛らしい死の獣。黙っていたら食べられます。いいんですか、あなたは、それで。


「わ、わかった、よ……」


 震える足を奮い立たせた、フランさんが怪物の前に進み出る。

 黒い怪物と対峙するネコ。その様子は、まんま、人間と猫が向かい合っているようだった。

 ちらっと、彼女が振り返る。視線が頼りなく揺れていた。


「あの。ひとりでやれ、とか言わない、よね?」

「一つだけ、作戦があります」

「ど、どんな!?」

「さっき聞いたんですけど、フランさんには――というか、獣人の特性っぽいですけど【ネズミ殺し】っていう特性がありますよね」

「え。だめだよ。だって――」

「そうですね、特定の相手にしか発動しない。なので、ここで作戦です」


 ごくっと、フランさんが唾を飲んだ。

 まあもったいぶる必要もないので、一気に説明する。


「作戦というのは、シンプルです。アレを、、、ネズミだと思えばいいんです」

「は?」

「俺の予想ですが、それで発動するはず、と踏んでいます」

「えと。おにーさんがいま、なにを言ったのかわからなかったんだけど、もう一回、聞いてもいい?」

「アレをネズミだと思ってください」

「聞き直しても同じだった!」


 絶望するフランさんに、きゅおー、と鳴くワニ。

 どっちも空を仰いで叫んでいるのに、その胸中は大いに異なる。


「やってみてください、たぶん、いけますから」


 確か大幅に身体能力強化されるという話だったから、ある程度は、やりあえるはずと踏んでいる。

 おそらく数分くらいは持つだろう。


「た、たぶんって、あたし、そんなこと、試したことない――」

「俺の国にこんなことを言った人がいます。自分が信じる自分を信じろ、と」

「その自分を信じられないんですけど!?」

「できなきゃ、死にます。やるんです、あなたが」

「………」


 フランさんの目は明らかに不服を訴えていたが、やがて重い腰をあげてくれた。

 やるしかないことをわかっていただけたようで何より。

 さて。 


「おびえるにゃ、あたしは最強。イメージするのは常に自分。目の前にいるのが敵だと思うな。敵はおのがうちにのみいると知れ」


 フランさんがマインドコントロールを始めた。

 とうとう狂ったか? いや、正気かな?

 すぅ、はぁ、と深呼吸の音が聞こえてくる。

 流麗なカンフーみたいな動きでワニと対峙する様は、なかなか様になっていた。


「さあ、来るがいい! 戦場の徒花の力、とくと見せてやろう!!」


 びしっ、とキメ台詞まで言い始めた。

 おお、格好だけは、なかなかいいぞ。


「きゅおおーーーーん♪」

「ごめん! やっぱムリ!!」


 ワニの迫力に秒で折れて、逃げてきた。


「近くで見ると迫力がちげーの。本能的にムリ。あれ、ぜったいネズミじゃない」

「ヘタレっすね」

「うっさい!!」


 でも、戦ってくれないと困るんだよな。

 どうするかな、うーん。


「そうだ。一発でいいんで、あいつを殴ってきてくれませんか」

「なんで!? やだよ!!」

「――あいつの弱点は顔の中央。鼻っ柱です。そこに一発食らわせられれば、倒せます」

「鼻って、口のすぐ近くなんですけど!?」

「目がよく見えてないので、簡単に殴れます。思い出してみてください。さっきの鳥も、地面に降りてから、捕まるまで結構かかってたでしょ? 近くのものはよく見えないんです」

「そ、そういえば、そうだった、かも」

「フランさんの力で思いっきりぶん殴れば、倒せます。うまくいかなくても、気絶はさせられます」

「な、なんだぁ。そんなこと知ってたなら、もっと早く教えてくれてもよかったのに」

「拗ねないでください。引っ張った方が面白いと思ったので」

「行ってくる!」

「逝ってらっしゃい」


 フランさんが意気揚揚とワニに走っていく。


「きゅああー」


 ワニが接近してきたフランさんを捕まえようと、身体をしならせて、まきつけようとする。

 が。


「……あ、ほんとだ! よく見えてないみたい!」


 おお。

 軽々と避けて見せた。

 嘘だったのに、思い込みってすごい。

 まあ、腐っても身体能力は悪くないし、ワニもじゃれてるだけだから、しばらくは捕まらないだろう。


 あとは、殴ってくれれば、いい。遠慮せずに、やっちゃえ。


「くらえーーー!! 全力のーーー! ねこねこあたっーーーーく!」


 やる気のそがれる掛け声と共に、彼女が、ぽかり、と拳を振り下ろす。

 と。


 ドゴオオオオオオオオオオオーーーーン!!


「え!!?」


 その一撃は、ワニには当たらなかった。

 しかし、その衝撃は隕石のように地面を軽く抉り飛ばした。



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