逃げる二人と災禍のカケラ
◇◇◇
どどどど。
静かな森を疾駆する二人と一匹。
騒がしいこの一団が通りぬけた後には、暴雨が過ぎたような痕跡だけが残っていた。
「どうして、こんなことになったにゃああああ!!!」
「そら、フランさんのせいでしょ」
「ええええ!? あたしが悪いの!?」
隣を並走する獣人さんに軽口を返しつつ、森の中を駆けている。
フランさんの大声に反応したワニ、もとい、グランドなんちゃらは、俺たちにターゲットを変更。
現在、絶賛、俺たちと鬼ごっこ中。
「あいつ、そんなに足は速くないみたいですよね」
特徴的に右、左、右、左と、身体を動かして迫ってくるが、距離が縮まる気配がない。
蛇みたいに這ってるのかな?
俺はそこまで全力で走っているつもりもないのだが、あいつもすぐに捕まえる気はないのかもしれないな。
あいつにとっちゃ遊びみたいなもんだろうし。
「おにーさん? 後ろを見る暇があるなら、走れ?」
「走ってますよー」
「さっちんともはぐれちゃったし! どーするニャ!?」
「無問題」
「なんでキミは、そんなに楽しそうなのかな!?」
「そりゃ実際、楽しいですからね!」
走る風が心地いい。何もかもが、新鮮だ。
「にゃ!? あいつ、ちょっとペースあげてきた!?」
「おー、このままだと追いつかれますねえ。こっちもちょっとペースあげますか」
「いつまで走ればいいのぉー!?」
どっどっどどど。
ちょっと呼吸が苦しいのでリズムを刻んで呼吸する。生きてる証が、素晴らしい。
背後から迫る気配、響く足音、障害物を物ともせず追いかけてくる黒い塊。もといワニトカゲ。
「ハハハ! いやー、久しぶりに追われるのって最高だなあ!」
「も、もう、むり。はしれ、ない」
フランさんがぜぇぜぇ、とヘタった。
失速すると、後ろからきゅおーという声が聞こえてくる。
あ、わかった。あれ、嬉しいときの声だ。
「余計なお世話かもしれませんけど。ペースが落ちると死にますよー? さっきの鳥みたいに」
「い、いやにゃああああ!!」
あ、すごい加速した。
さすがはネコ、やりゃできるじゃん。
俺も遅れないように追いかける。
流れる木々を横目に走ると、けっこう離れたことが確認できた。
「ちょっと休みましょうか」
フランさんに追いついて、一息つく。
ちょうど森が開けていて、視野が効く。
ここなら迎撃に向いている。
良さそうな樹も見つけた。これで、なんとかなるな。
「なんで、おにーさんは、ハァーハァー、そんなに余裕なのニャア!?」
「フランさんこそ獣人でしょ。なんで俺より先に息切れてるんですか」
「あたしは、ハーフだから! 純血の獣人種より体力が無いのは当たり前なの!!」
ん?
獣人ってのは、元々、獣と人のハーフじゃないのか??
「あーーーーー!!! もうもうもう! なんであたしがこんな目に合うにゃああ!」
「すいません、隣で騒ぐのやめてもらっていいですか、うるさいんで」
「誰のせいだ!?」
「あ、おしゃべりはこれで終わりです。追いついてきたみたいですよ」
のそのそ、と平然と現われた黒い鱗のニクいやつ。
フランさんが俺をまったく見ずに聞いてくる。
「おにーさん。作戦は、あるんだよ、ね?」
「ないですよ。マジで」
「なにも?」
「はい。あ、一個ありました」
「どんな作戦!?」
無言で指を指す。
「はにゃ?」
指された本人は、ちんぷんかんぷん。
「え? 後ろになにかあるの?」
フランさんは後ろを見たが、特に変わったものはない。
「何もないけど?」
「ないですよ。だから、戦うんです」
「誰が?」
「あなたが」
「誰と?」
「アレと」
黒いやつを指差してやると、トカゲさんはきゅおおおん、とタイミングよく鳴いた。
わかってらっしゃる。




