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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第五章 変わる日々
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逃げる二人と災禍のカケラ

 ◇◇◇


 どどどど。

 静かな森を疾駆する二人と一匹。

 騒がしいこの一団が通りぬけた後には、暴雨が過ぎたような痕跡だけが残っていた。


「どうして、こんなことになったにゃああああ!!!」

「そら、フランさんのせいでしょ」

「ええええ!? あたしが悪いの!?」


 隣を並走するさんに軽口を返しつつ、森の中を駆けている。

フランさんの大声に反応したワニ、もとい、グランドなんちゃらは、俺たちにターゲットを変更。

現在、絶賛、俺たちと鬼ごっこ中。


「あいつ、そんなに足は速くないみたいですよね」


 特徴的に右、左、右、左と、身体を動かして迫ってくるが、距離が縮まる気配がない。

 蛇みたいに這ってるのかな?


 俺はそこまで全力で走っているつもりもないのだが、あいつもすぐに捕まえる気はないのかもしれないな。

 あいつにとっちゃ遊びみたいなもんだろうし。


「おにーさん? 後ろを見る暇があるなら、走れ?」

「走ってますよー」

「さっちんともはぐれちゃったし! どーするニャ!?」

モウマンタイ

「なんでキミは、そんなに楽しそうなのかな!?」

「そりゃ実際、楽しいですからね!」


 走る風が心地いい。何もかもが、新鮮だ。


「にゃ!? あいつ、ちょっとペースあげてきた!?」

「おー、このままだと追いつかれますねえ。こっちもちょっとペースあげますか」

「いつまで走ればいいのぉー!?」


 どっどっどどど。

 ちょっと呼吸が苦しいのでリズムを刻んで呼吸する。生きてる証が、素晴らしい。

 背後から迫る気配、響く足音、障害物を物ともせず追いかけてくる黒い塊。もといワニトカゲ。


「ハハハ! いやー、久しぶりに追われるのって最高だなあ!」

「も、もう、むり。はしれ、ない」


 フランさんがぜぇぜぇ、とヘタった。

 失速すると、後ろからきゅおーという声が聞こえてくる。

 あ、わかった。あれ、嬉しいときの声だ。


「余計なお世話かもしれませんけど。ペースが落ちると死にますよー? さっきの鳥みたいに」

「い、いやにゃああああ!!」


 あ、すごい加速した。

 さすがはネコ、やりゃできるじゃん。

 俺も遅れないように追いかける。

 流れる木々を横目に走ると、けっこう離れたことが確認できた。


「ちょっと休みましょうか」


 フランさんに追いついて、一息つく。

 ちょうど森が開けていて、視野が効く。

 ここなら迎撃に向いている。

 良さそうな樹も見つけた。これで、なんとかなるな。


「なんで、おにーさんは、ハァーハァー、そんなに余裕なのニャア!?」

「フランさんこそ獣人でしょ。なんで俺より先に息切れてるんですか」

「あたしは、ハーフだから! 純血の獣人種より体力が無いのは当たり前なの!!」


 ん?

 獣人ってのは、元々、獣と人のハーフじゃないのか??


「あーーーーー!!! もうもうもう! なんであたしがこんな目に合うにゃああ!」 

「すいません、隣で騒ぐのやめてもらっていいですか、うるさいんで」

「誰のせいだ!?」

「あ、おしゃべりはこれで終わりです。追いついてきたみたいですよ」


 のそのそ、と平然と現われた黒い鱗のニクいやつ。

 フランさんが俺をまったく見ずに聞いてくる。


「おにーさん。作戦は、あるんだよ、ね?」

「ないですよ。マジで」

「なにも?」

「はい。あ、一個ありました」

「どんな作戦!?」


 無言で指を指す。

 

「はにゃ?」


 指された本人は、ちんぷんかんぷん。


「え? 後ろになにかあるの?」


 フランさんは後ろを見たが、特に変わったものはない。


「何もないけど?」

「ないですよ。だから、戦うんです」

「誰が?」

「あなたが」

「誰と?」

「アレと」


 黒いやつを指差してやると、トカゲさんはきゅおおおん、とタイミングよく鳴いた。

 わかってらっしゃる。



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