無垢なる森の破壊王
◇◇◇
視界の端に黒い影がもそりと動いていた。
「……でかいなあ」
影は、ワニ? だった。
トカゲのような風貌で、ワニのような大きな口。
俺が知る世界最大の爬虫類は、コモドドラゴンだが、黒鱗のそいつは、その上をいく。
目視でしかないが、体長が8メートルはある。
その大きさは規格外。
コモドドラゴンを中南米の奥地に1000年くらい放ったらかしにして、久々に様子を見に行ってみたら、おまえでっかくなっちゃったなあ、という感じ。
そいつに気づいているのは俺だけで、闖入者の方も、まだこちらに気づくことなく、あらぬ方向を見上げていた。
(小鳥?)
ワニがじっと見上げる先には立派な大樹があり、その幹には小鳥が止まっている。
あの鳥は、向こうの方角から飛んできて、さっき、樹に止まったやつだ。
(――逃げて、きたのか?)
ワニは樹の周りをうろうろしていて、時折、切なそうに「きゅおおおん」と鳴いていた。
巨体に似合わず声が可愛かった。
おいおい、熱烈なラブコールじゃないか。
可哀相だから、降りてきてやれよ小鳥さん。
まあ、飛べる小鳥を、飛べないワニが追いかけても、捕まえられるはずがないな。
……と思っていたのだが。
ワニが、ほんの軽く樹に触れると、樹が大きく揺れた。
助走も何もない、ただの突進。大して攻撃する意思がなかったことは、様子でわかる。
さすがにフランさんも異変に気づいた。
「まだ魔物が残ってたの? なら、あたしが倒……!?」
「ええ、あそこですよ」
「あ、あ、あ、あ、あいちゅ、もりのはかいおう【グランドグリゲーター】にゃあ!?? にゃ、にゃ、にゃんで、こんにゃとこりょににに!?」
さっぱりわからん。
辛うじて聞き取れた【グランドグリゲーター】とかいう単語は、聞いたような気もするが。
「に、逃げるにゃ、逃げるにゃ、逃げるにゃ!」
「なに言ってるんです」
フランさんが慌てて、後退りしようとしているが、尻餅をついているフランさんは全く動けていない。
指だけわさわさしたところで、動けないでしょうね。
さて。
木の上を再度見上げたワニが、今度は、助走をつけて突撃した。
大してスピードも乗っていない。
樹に弾かれて、おしまいだろう。普通なら。
どおおおおおおおん!!
ワニが、体当たりした途端、大樹は2、3度大きく揺れて、地面からぼこりと、勢いよく抜け出てきた。
地面が大きく揺れた。樹が倒れる。ぎゃあぎゃあ、と大勢の生き物が逃げていった。
鳥の方は、と。
樹を根元から薙ぎ倒されるとは思っていなかったらしく、地面に降り立った自分に驚愕していた。
こういうのって、言葉が通じなくても、通じるもんなんだな。
小鳥にぬっ、と大きな影が落ちた。
ワニだ。
「きゅおおおおおお♪」
ワニが可愛く小鳥にじゃれつく。
捕獲、完了。
ぴきゅーーー、とこちらもぱたぱた暴れて可愛い悲鳴を上げていたが、数秒でその声も聞こえなくなった。
「すげぇ、すげぇよぉ。聞いた以上だよお」
「なにびびってるんですか」
「あ、あれ見て正気でいられるほうがおかしくない?」
「ちょっと大声出してみてもいいですか」
「え゛っ?」
フランさんが固まった。
どうも、俺にはあいつを脅威と感じないんだよな。悪意も感じられないし。




