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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第五章 変わる日々
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ネコを噛んだ窮鼠は、儚く散る


 ◇◇◇


 多少乾いてましになったが、全員ぬるぬるべとべとのまま、次の仕事へ。

 森の入り口付近で巣を作っている魔物の討伐が俺の受けた仕事だ。

 【イビルラット】とかいうその魔物は、繁殖力が強く、放っておくと増えてしまうため、早期の討伐が望ましいそうだ。

 最近、こいつらの出没が増えているらしい。


 ドキドキしながら、日が射す森を歩いていると、陰に動いている影をいくつか見つける。

 何体かでまとまって動いていたが、数が多い。ざっと数えても30ぐらいはいる。緊張が走る。


「どうするのサッちん。不意打ちする?」

「……一体ずつ、みんなで協力して倒すのがいいと思う。ぜったい無茶しないで。【イビルラット】に噛まれると――」

「わかってますよ」


 用心深いことだね。

 彼女が武器を抜いた。俺も武器を構えた。

 手がすべる。汗かと思ったらキノコ汁だった。


「マアトも、なにか、する?」


 先日の一件で自信をつけたマアトが、てこてこと小さな身体で自己主張をした。


「そうだね。おかあさんたちの後ろにいて。怪我をした人がいたら、お願いできる?」

「うん!」


 サーシャさんの問いかけに、元気に頷いた。

 素直でいい子だ。


「いきましょう」

「うん」

「オッケー!」


 魔物の姿を捉える。

 子供ほどの大きさの、ネズミっぽい外見だった。

 毛並みは、ぼさぼさ。

 ただ、目は血走ったように赤く、ぎょろぎょろしていて、不気味だった。


 俺たちの気配に向こうも気づいた。

 ネズミたちが、一斉にぎょろりと睨む。途端に、力が抜けて、恐怖が込み上げてくる。


「【獣の睨光】だよ! 相手ステータスを下げるスキルなの! 目を見ないで!」


 サーシャさんの叫ぶ声に目を逸らすと、少しだけ気が楽になった。

 なるほどね。使う相手が雑魚なので、大した効果はないんだろう。


「たかだかネズミの分際で、このあたしにガンくれるとは、いい度胸だ」


 フランさんが舌なめずりしながら、ネズミと交戦する。

 その迫力に圧倒されたネズミの何匹かが後退る。


 ワケのわからん奇声をあげたフランさんが、スキルなんぞ知ったことかと殴りかかる。

 いつのまにか、彼女は、先にイガイガのついたナックルをつけていた。


「ぶぎゅっ」


 殴られたネズミが、血飛沫を上げて、ぶっとんだ。

 どかんと、樹にぶつかったネズミは、動かなくなる。

 一撃で、倒してしまった。

 ……強い。


 それを見たネズミの集団は、この場で一番の脅威はフランさんだと判断したんだろう。

 彼女に狙いをつけて、ぞろぞろとまとまった。

 だが、それがよくなかった。


「ザコどもが!! うざったいニャア!」


 集られたことで、そのパワーが余すところなく発揮される。

 彼女が殴る、蹴る、噛み付く。

 悲壮な叫びを上げたネズミ達が桜の花びらの如く、どかんどかん散っていく。


 引き千切ったネズミを咥えて、薄ら笑いを浮かべるフランさん。

 というか、あの人、強くなってないか?

 スイッチのはいったバーサーカーみたいで、ちょっと怖いんだが。


「猫獣人のパッシブ【ネズミ殺し】の効果かな? 狂乱状態になって、与ダメージ3倍、全ステータス3倍の効果があるの」

「へ、へえ。そうですか」


 サーシャさんがなんでもなさそうに言った。

 次々に吹っ飛んでいく中心で、あは、あは、あは、とフランさんが高らかに笑っていた。

 逃げ惑うネズミたち。追い討ちをするフランさん。

 ちょっと可哀相になってきた。


「あ」


 命からがら、逃げてきたネズミと目が合った。

 俺相手なら勝てると踏まれたんだろうか。

 戦闘態勢に入られた。


「マアト、俺の後ろに。くるぞ」

「う、うん」

 

 けん制で、一度、二度と、短剣を振るう。

 すると、ねずみは身を翻し器用に剣を避けた。

  

「このやろう。噛み付こうとしてやがる」


 たしか、こいつに噛まれると――なんだったか。

 まあ、いい。噛まれなければ、いいのだ。

 剣を振るって、距離を取ろうとしたが、しつこいくらいに喰らいついてくる。

 ……まずいな。このままだと。


「ルドっ!」


 自由に動いていたサーシャさんが、風のように走ってきて、目前のネズミを昏倒させた。

 を打ち付けたようだ。


「助かりました」

「ううん」


 危なかったな。もう少しで―――


「これで最後ニャー」 


 楽しそうな猫の声と、絶望に彩られたネズミの声。

 それも、しばしの間。

 すぐに静かになって、森は、いつもの静寂を取り戻した。



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