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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第五章 変わる日々
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きざし


 ◇◇◇


 ギルドに到着すると、ざわざわと職員の人が慌しく動き回っていた。

 冒険者の数も多い。受付にはすでに長い列ができていた。


「昨日のアレ緊急クエストの件じゃないかな? 報酬、後で払うって言ってたし」


 フランさんが言った。

 なるほど。

 それでこんなに人が多いのか。


「まあ、それだけじゃないと思うけどねー」

「というと?」

「虫の大群が攻めてきたんだよ? 色々と聞きたいんじゃないかな」


 フランさんは、前線にいなかったから、謎のエスクードのことは知らないはずなのに、彼女は、それを特に気にした様子もない。

 見習いたいものだな。


「フランさんは、昨日、何をしてましたか」

「街を見回って、たまに飛んでくる【ビッグホーネット】を倒してたよ。まー、ほとんど前線の人たちが倒してくれたから、

あんまり飛んでこなかったけどねー」


 前線は修羅場だったけど。

 あの規模の襲撃があって、犠牲者はほとんどいない。

 奇跡に近い。


(いや、奇蹟か)


 傍らのマアトを見下ろすと、無邪気な顔で首を傾げていた。

 やつらは、今日も来るのだろうか。


「マアトちゃん!」

「うわ、ルピアさん!? いつからそこに?」


 風が起こったな、と感じた時には、受付のおねえさん、もとい、ルピアさんが、ずざぁー、っと、マアトに勢いよく飛びついていた。

 まったく気配を感じなかったぞ。


「あぅ……」


 赤面しているマアトに、幸せそうなルピアさんが頬擦りする。その辺でやめてあげて。


「いいんですか。冒険者、大量に並んでますけど」

「いーのいーの。あんなの待たせとけば。こんな朝早くからギルドに来る冒険者なんて、みんなアタマおかしいんだから。おっと、マアトちゃんは別よ?」


『おーい、聞こえてんぞぉー!?』

『報酬もらえないと、今日の朝飯が食べられないんだが……』

『かーちゃんが病気なんだ。早く帰りてえんだよ』


「あー、もー」


 渋々、ルピアさんはマアトから離れて、並んでいる冒険者たちの対応に戻っていった。

 解放されたマアトが、ほっと息をついて、俺にぎゅっと抱きついてきた。

 ……すこし、ルピアさんの香水の匂いがする。


「どうする? 報酬、先に受け取る?」


 並んだ列を見渡しながら、サーシャさんが「そんなに多くはもらえないと思うけど」と一言付け加えた。


「先に今日の仕事を探して、終わらせましょう。報酬はその後で」

「うん」

「そうだねー」


 掲示板の前はほとんど人がいなかった。

 すでに仕事は貼られている。俺たちは仕事に目を通した。

 各々、仕事を選んでいる。

 俺は、というと。


「ルドは、どんなクエストを選……え?」


 サーシャさんが、俺が手にした依頼書を覗き込んで絶句した。


「討伐クエスト……」

「そろそろこういうのに挑戦しても良いでしょう?」

「で、でも。危ないんだよ」


 当然の反応か。心底、俺の身を案じてのことだろう。


「あれ、手伝ってくれないんですか?」

「もちろん、手伝うよ。でも、」

「じゃあ平気ですよ。サーシャさんが手伝ってくれれば、ね」


 俺は、笑ってやる。彼女は押し黙って、何も言えなくなった。

 これでいい。

 多少強引でも、変わっていかないとな。



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