表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第四章 戦いは唐突に
60/96

宿に帰りましょう、そうしましょう


 ◇◇◇


 部屋を出ると、大勢の人がわいわい騒いでいる廊下で、対照的に静かなサーシャさんがいた。

 俺の姿を認めると、そっと声をかけてくれる。


「無事?」

「はい」

「……ヘンなこと、聞かれなかった?」

「? 変なこと?」

「左の手に、違和感を感じるか、とか」

「いえ。サーシャさんは、なにを聞かれましたか」

「どんなことがあったの、って」

「マアトは?」

「向こうで、ルピアが看てる」

「ルピア?」


 誰だ、それ。

 サーシャさんが身振り手振りで、教えてくれる。


「あの、えっと。受付の、人だよ」


 あの、おねえさんか。

 ルピアって名前なんだ。

 俺、人の名前、こうやって他の人から聞くことが多いな。


「マアトの具合、そんなに悪いんですか?」


 倒れてたもんな。もしかしたら、なにかの病気かもしれない。


「ううん。さっき、わたしも見たけど、疲れただけだと思う。

急にをたくさん使ったから、身体の方が驚いちゃったんだろうね。

少し休めば、すぐによくなるよ」


 確かに、倒れてしまったマアトを、心配した冒険者たちは、手厚く看病してくれた。

 すぐにギルドまで運んでくれたのも、彼らだ。

 ……魔力、ね。


「迎えに行く?」

「そうですね」


 ◇◇◇


 つん、とする消毒薬のニオイがした。

 部屋にはいくつかベッドがあって、そのうちのひとつに、マアトが眠っていた。

 傍らには、あのおねえさんだ。


「はぁはぁ、寝顔も可愛い、マジ持って帰りたい」

「あの、おねえさん?」


 声をかけると、守護者よろしく、鎮座していたおねえさんがゆっくり振り返る。


「あぁ? 私とマアトちゃんの至福の時間を邪魔する奴は誰だろうと……あら?」


 にっこりと愛想よく挨拶してくれた。

 振り返ったとき、おねえさんの顔が、一瞬、般若みたいに見えたけど、気のせいだよな?


「具合、悪いんですか?」

「まさか。眠ってるだけよ」


 おねえさんが脇にそれて、俺たちに、どうぞ、と場所を譲ってくれた。

 マアトの規則正しい息遣いが聞こえる。

 幸せそうな寝顔だった。


「よく寝てますね」

「もうこんな時間だもの」

 

 言われて気づけば、だいぶ遅い時間。

 俺も、あくびを噛み殺すと、サーシャさんがくすり、と笑った。


 これ以上、襲撃も無いだろうし、手伝えることもなさそうだ。

 言われた通り、後は、専門の人たちに任せて、帰ってもいいのかもしれない。


「帰るの? お疲れさま。クエストの報酬は、後日、払うから、ちゃんと受け取りにきてね」

「ええ、いろいろありがとうございました」

「いいのよ、仕事だもの」


 視界の端で、サーシャさんが、マアトを抱きかかえようとしていた。

 すると、


「……あ。連れて、帰っちゃうの?」


 おねえさんが、伸ばした手を空中で彷徨わせた。


「え、ダメなの?」

「ひ、一晩でいいから、貸してくれないかな? 大事にするから」

「だめ。モノじゃないから」

「うぅ……わかった。諦めるよ。ところで、イモちゃんたちが泊まってる宿って、なんて宿?」

「春風荘」

「あー、あの裏路地のとこかー。安くて、評判いいんだよね。ありがとイモちゃん」

「うん」

「サーシャさん、教えないでくださいよ」

「なんで?」

「どうして?」


 二人して疑問符を浮かべられた。

 一波乱ありそうな予感がした。

 こういうときの俺の勘は、当たる気しか、しない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ