木がつけば、嵐
◇◇◇
希望に満ちた素晴らしい1日の始まりを予感し、うきうきした気持ちで外に出てみると、なんだか視界が妙に開けていた。
確か昨夜こちらにお邪魔したときには、周囲は青々とした木々で囲まれていたと思ったけど、それらがキレイに薙ぎ倒されていて、見事な眺望が広がっている。無造作に転がる木々。向こうに、美しい川が見える。絶景かな。
いや、俺の記憶違いだろうか? 朝だから、視界がいいだけかもしれないし。
「……昨夜、嵐でもありました?」
「……うん。あったよ。きみが眠ったあと」
ぜんぜん気づかなかった。
そこら中に朽ちた樹木が散乱している。まるでこの家の周囲でだけ台風が暴れまわったかのようだ。焦げたような跡がある朽木もある。女性が薪にでもしようとしたのかな?
「困りませんか」
「見晴らしがよくなっていいよ」
「家に被害が無くてよかったですね」
「うん」
「どうして家だけ無事だったんでしょう」
「わからない」
二人して首を傾げるのだった。
◇◇◇◇◇
「なにをしてるの?」
お肉を、ぐっぐっ、と叩いたり、白いキノコをちぎっては刻んでいるのを見て、彼女は不思議そうにしていた。
「お肉がキライなの?」
俺は笑った。
「こうしておくと、繊維が壊れて味が染みやすくなるので、美味しくなるんです」
「そう、なの?」
あまりよくわかってなさそうだった。料理が苦手な人は、こんな下ごしらえなんて興味ないだろうし。
白いキノコはしょっぱい、と教えてもらったので、手でちぎった後、細かく刻む。お肉と混ぜ合わせてしばらく置いておく。調味料が見当たらなかったので、ありがたく使わせてもらった。
合間、野菜を相手に、とととん、と、片刃の包丁で軽快にリズムを刻む。火をちらっと見てから、焼き加減を確認。もうすこしかな?
「……すごい」
俺の手際の良さを見ていた女性が、感嘆の声を上げた。
「そうですか?」
「うん。わたしじゃ、そんなふうにできない」
「誰でも出来ますよ」
せっかくなので開放的な方がいいだろうと話し合った結果、俺たちは台風一過のような庭で朝ご飯を食べることにした。家の中から小さなイスと、テーブルを持ってきてもらって、金網……は無かったので、穴の空いた鉄板で代用。転がっていた木々を集めて、たき火を起こす。廃材の有効活用だ。
「料理を作るのは得意じゃない」らしく、作っているのは俺。ちゃきちゃき働く俺の様子を見て、途中から「手伝いたい」と言ってくれたので、食器を用意してもらったり、食材を洗ってもらったりした。非常に助かった。フライパンが無いので、女性が持ってきてくれた壺を鍋の代わりにする。食材を入れれば、煮込む、炒める、など、幅広く使えそうだ。
まあ、なんとかなるだろう、と、下ごしらえ、味付け、調理、と進んで現在に至る。あとは、食器に盛り付ければ--------
「完成!」
「できたの?」
メニューは、キノコと青野菜と肉のソテーに、焼魚。どっちも炒めて焼いただけのシンプルな料理。そこに野菜を添えた一皿。MVPはキノコ。いい仕事をしてくれた。イスに座る。テーブルの向かいには彼女。
「食べていい?」
「召し上がれ」
「いただきます」
女性がソテーを一口ほおばる。味見しなかったけど、平気かな? さっきキノコは一欠片食べたんだけど。
「!」
よかった。あの様子なら、たぶん。
「すごい! いつもと同じ食材なのに、全然違う! おいしい!!」
ぱくぱくと食べてくれる。本当に美味しそうに食べてくれるな。作った甲斐があるや。なんだか嬉しくなって、つい凝視してしまった。俺も食べよう。
(……うん、まあ、こんなもんかな?)
肉自体が、すでにうまい。野菜もしゃっきりとしていて、瑞々しい歯ごたえがある。キノコは程よい塩気で、コリコリしていて、磯と樹の風味がする。白身の焼魚も格別だ。美味しい。確かに美味しいのだが……やっぱり味噌だとかの調味料が無いのは死活問題だな。味付けが単調になる。
できればコクの出せる調味料が欲しかったけど、すぐに作ったりするのは難しいし。時間をかければ、魚を発酵させて魚醤なんかは作れそうだ。
「ご馳走様でした」
女性が完食した。とても幸せそうな表情だった。
「俺のほうこそ、ありがとうございます。でも、こんなに沢山の食材、どこで用意したんですか? あまり馴染みの無い食材ばかりですけど」
ざらざらしたマッシュルームっぽい白いキノコ、A5ランクのお肉かと疑うようなサシたっぷりのお肉、キャベツみたいな薄緑の野菜、アゴのとがった小魚×4。
この辺の特産品かな? 見たこと無いから全部、適当に火を通したけど、どうなんだろう。まあ、キノコとお肉と野菜だし、調理法で何かが変わったりはしないだろう。「ぜんぶ生でも食べられるよ」とは言ってたけど、真似したくはない。
「お肉は【ホワイトボア】。白いキノコは森に生えてる【海茸】っていうキノコなの。野菜は村で栽培してるんだ。お魚は向こうの川で……うん、向こうの川で捕れる魚」
眺めがいいお陰で生産地が見える。本当のご馳走じゃないか。なんだかおかしくなってきたな。女性もおかしかったのか、笑ってくれた。
「すごくきれいな川なんだよ」
「へえ」
「見に行ってみる?」
「面白そうですね」
いろんな生き物がいるんだろうな。川で遊ぶなんて、子供のとき以来だ。
「でも、ギルドに行ってからですね。どこにあるんですか」
「ギルドはこの村には無いよ。行商の馬車で、けっこう遠い街まで行かないと無いんだ」
馬車かあ。ファンタジーモノのゲームではよく見るけど、実物には乗ったことないや。馬の名前はパトリシアかな。うん。
「ちょっと待ってて」
唐突に女性は立ち上がりどこかへ行ったが、しばらくして、上着を1着持って、戻ってきた。
「きみに、あげる。その格好だと、寒いと思う」
「いいんですか」
「たくさんあるから、気にしなくていいよ」
うそだな、と思ったが、触れないことにする。ありがたく好意を受け取ろう。すぐ着替えようとしたが、顔を赤くして「向こうで着替えて」と言われたので言われた通り、向こうで着替える。
汗を吸ったシャツを脱ぐ。貰った上着を着てみると、サイズがぴったりで、俺が着ても違和感がなさそうだった。材質はなんだろ? 暖かいけど、不思議な感じだな。女性の元に戻る。
「よく似合ってるよ」
「ありがとうございます」
俺はなんだか気恥ずかしくて、目を逸らした。