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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第四章 戦いは唐突に
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滅びの予感

 ◇◇◇


 唐突に俺たちの前に現れた黒い影。黒い人。


「こんにちは。いや、こんばんは、かな? 人の言葉は難しいね」


 黒い人が親しげに口を開く。


 否。

 人では、ない。人ではない、何かだ。

 黒い羽を携えた何かの声は、妙にキレイで耳に残った。


「なんだ、あいつは!」

「な、、この膨大な魔力!?」

「目を逸らすな! 気をつけろ! ……、こいつ……すさまじく、強い……!」


 異変に気づいた皆が、騒ぎ始める。

 緊張する気配が伝わってくる。

 俺とマアトは起こっている事態が理解できない。

 何かが自嘲するように呟く。


「あぁ、こんなに生き残るなんて思いませんでした。いや、人間というのは、想像以上に、しぶとい生き物だったようですよ」


「……何者、だ?」

「そうですねえ。あなたがたに滅びをもたらすモノ、といえば、わかりますかね?」


 質問に答えた、

 岩男さんが、はっ、と思いついたように、緊張で震える声を再び絞り出した。

 

「まさか!? おまえ、魔王、なのか!?」


「いいえ。私の名はエスクード。しがない魔術師です。

私など、あの方の足元にも及びはしませんでしょう。……それでも、世界を1度、滅ぼすには充分でしょうけれども」


「何が言いたい?」


「私たちは、とある理由から、滅びの御使い様を崇拝するモノでしてね?

予言によれば、今代の御使い様は、すでに現れているはずなのです。

ですが、一向に、福音をもたらしてはくださらない。

そこで、われらが先陣を切ろうと思い立ったのです。

残念ながら、あの虫では、少々、役不足だったようですね。

……次は、もう少しいいのを連れてきます」


「……なるほど。よくわかったよ。おまえは、敵なんだな?」


 彼が、剣を引き抜いて構える。

 剣を向けられているのに、何かは笑っている。

 耳障りなのに、心地いい不思議な声だった。


「おやめなさい。今日は、ご挨拶に伺ったまでですから。見るに、あなたも、満足に戦える状態ではないでしょう。私も、今、戦うつもりはありません。これで失礼しますよ」


 人の形を取る存在が影に薄れていく。

 まるで、元から存在していないように、空気に溶けていく。

 俺たちは、何もできなかった。


「あぁ、そうそう。忘れるところでした。お土産をどうぞ。皆さんで、ご賞味あれ。虫たちの、最後のあがき、ってやつを」


 土産?

 なんのことだ。


 気配は、最後にそう言い残して、完全に消え去った。

 張りつめた糸が切れる。


 その瞬間。


 ぶぶぶぶぶ、と地面に転がる虫の死骸が震えだした。


「!? これは! まさか、自爆!?」


 サーシャさんが、緊張した声をあげた。


 自爆?

 俺はテロだとかで犯人が爆弾を体内に飲んで、敵の本拠地へ潜入する様子を想像した。

 まさか、この虫たちの中に、爆弾が入っているの、か?


 一斉に共鳴し、光を放つ、大きな虫たち。

 禍々しく、本来、生物としてはありえない脈動を繰り返す、死骸の山。

 とてつもなく、嫌な予感がした。



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