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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第四章 戦いは唐突に
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黒い影


 ◇◇◇


 最後の一匹が、きゅるきゅると、地に落ちる。 


「ふぃーーー」


 安堵、疲労、達成感。

 誰もが、種々多様な思いを浮かべていた。

 地面にはおびただしい数の、虫だったもの。

 歩くたび、踏みそうになるそれを懸命に踏み分けて、皆、一生懸命、戦い抜いた。


 虫は足掻いた。

 人も懸命に足掻いた。


「おつかれさま」


 はぁはぁと息をつく俺に、サーシャさんが、そっとタオルを渡してくれる。

 その声色からは、疲れた様子がまるで感じられない。

 俺とは体力が違うのかな。


 ま、まあ。俺は、ニートだったし。

 これから、体力をつけていけばいいさ。


 ひんやりと冷たいタオルで、顔を拭う。汗が、心地よかった。

 すると、岩男みたいな冒険者が、その巨体に似合わず、たたっ、と寄って来て、労いの言葉をかけてくれた。

 のだが。


「がんばったな。力量不足にも関らず、倒れることなく、最後まで戦い抜いたことは敬意を表する。

だが、子供がいるのに、逃げを選ばなかったのは、いただけねえな。なんで、逃げなかった?」


「皆が戦ってるのに、逃げるのは、卑怯者のやることだと思ったからです」


「……あのな。おまえの価値観は、どうでもいい。

どうすることが最善で、どうするのが次点なのか? その判断をするのが、こういう状況じゃあ、一番、大切なことなんだ。

やっぱり、おまえさんは、じゃがいもだな」


「おとーさん、がんばった」


 俺が馬鹿にされたと思ったのだろう。マアトが頬を膨らして、口を挟んだ。

 岩男は、その外見から想像できないほど優しい目を向けて、言った。


「そうだな、きみのお父さんは、よくがんばった。

きみのお父さんは、弱い。おそらくこの場の誰よりも、この上なく、弱いだろう。

にも関らず、戦い続けることが出来たのは不思議で仕方がないんだよ。


それは、誰かが助けてくれたからだろ?

だからこそ、次は、その誰かの助けになってやらなきゃならねえ。きっとなれるはずだ。

……傍らで静かに佇む、赤い剣のようにな」


 俺に言うでも、マアトに言うでもないその言葉に、ぴくり、とサーシャさんが反応した。

 冒険者たちの気楽な声が、耳に届く。


『ねぇねぇ。この虫って、埋めなきゃダメなの?』

『当たり前じゃん。土に埋めてやるまでが、仕事だよ』

『まだ生きてるのもいるんですけど?

『安寧の風、告げるは安らぎの眠り、【スリープ】』

『MPあったのか』

『今ので、無くなっちゃった』

『無駄撃ちすんな』


 気の抜ける仲間の様子に、岩男さんは苦笑していた。


「さて、このまま俺たちは、ここにしばらく残るが……おまえさんたちは、どうす――」


 突然。


 目の前で、俺たちの黒い影が、伸びたり、縮んだりしながら、ぐにゃぐにゃと線を結び、噴霧しながら、羽の生えた人の姿を形取った。

 肉を帯びた人は、ぼんやりと、俺たちを捉える。

 冷たい目をしていた。



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