激しい戦闘と書いて、やつ。
◇◇◇
「うらぁぁぁっ」
「【火炎】! 【火炎】! 【火炎】! はぁ、はぁ、はぁ」
「魔術の質が落ちてんぞ!」
「うっさい! あんたも手を動かせ!」
冒険者たちは相変わらず元気だが、疲労はすさまじいようだった。
斬って、叩いて、撃ち落とす。
その繰り返しが無限に続いて、精神的にも消耗しているのだろう。
後衛の、俺たちが相手をする虫も増えてきている。
取りこぼしが多くなっているのだ。
(くそっ、またきたか!)
前線を抜けた一匹の虫が、勢いよく突撃してくる。
狙いは、側にいるマアト。
彼女も、俺も、サーシャさんでさえも、突然の事態に、反応できない。
そのとき、近くにいた女性が、マアトをかばって呪文を唱えた。
「聖なる壁よ、守れ! 【防壁】!」
薄い光の幕が展開されて、きぃいん、と虫の突撃を弾く。
「【光矢】」
弾かれた虫を、そのまま光の矢が追尾する。ざくっ、と肉を斬る音がして、虫は息絶えた。
「マアトちゃん、だいじょうぶ?」
「う、うん。ありが、とう」
展開された光が、消えうせる。
マアトがそれらを、興味深そうに見ていた。
「ごめんね。他の人のサポートに行かないと。危ないと思ったら、街まで逃げて。誰もキミ達を攻めないから」
女性が他の人のところに走っていった。
逃げろだって?
スプレーは効果がある。
虫は逃げていく。だが逃げた虫は、誰かの元にいくから、誰かが対応しなければ数は減らない。
この状況では、意味が薄かった。
(……俺がいる意味、なくない?)
それは、ずっと思っていて、考えないようにしていたことだ。
頭を振る。
短剣を抜いて斬りつけても、素早い虫を相手に、俺の腕じゃ当てられない。
サーシャさんが素手で虫をぱんっ、と叩き落していた。
打撃ならいけるかもしれない。
両手で角材を握る。
面積が広いこっちの方がまだ当てられる。
ぶんっ。
ばちっ。
武器を振るって、虫をがむしゃらに叩き落す。
柔らかく肉厚なものを叩く、嫌な感触が伝わった。
小1時間ほど、それを延々と続けた。
時間の感覚があまりない。握力がしびれて、何も持てなくなる。
もう、限界だった。
けれど、虫の方もさすがに打ち止めだったらしい。
いつの間にか、団体様は途切れ途切れになり、隠れていた夜の月が姿をあらわす。
「ふんばれ! もう少しだ!」
鼓舞の声が聞こえる。
俺も、みんなも、ヘトヘトになりながら、気力を振り絞った。
「よくやったな」
気づけば空は元の色を取り戻していた。




