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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第四章 戦いは唐突に
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救援隊


 ◇◇◇


 街の入り口、切り立った崖みたいになってる合流地点にやっとの思いで到着すると、20人くらいの冒険者がいる。


 静かな熱気の残香を感じた。もう一戦交えたのだろうか。

 さっきギルドで俺たちに因縁をつけてきた男がいる。

 なんとなく全員見覚えがあるなと思ったら、重装備の強そうな人たちのグループだ。


「物資の運搬おつかれさん」


 岩男みたいな冒険者の一人が構えていた剣を収め、ニカッと笑って、声を掛けてくる。

 独特な汗のニオイがした。たぶん、今しがた戦闘が終わったところなんだろうな。

 すこしホッとした。


「どこに置いておけばいいですか」

「その辺りで、いいと思うぜ」

「わかりました」


 ことこと、と荷台を適当な場所に止めると、思い出したように呼び止められる。


「水あるか?」

「ありますよ」

「今くれ。ノドがカラカラだ」

「どうぞ」

「んぐんぐ。ぷはあ。うめえなぁ……水って、なんでこんなうまいんだろうなぁ」

「ただの水ですよ」


 水を渡した冒険者がごくごくノドをうるおしている。

 俺はジュースの方がうまいと思うけど、水の無い人からすれば、ただの水でもありがたいのかもしれない。

 ほんとうに美味しそうだった。


「魔物は、どんなやつでしたか?」


「ある程度レベルがあれば、簡単に倒せる虫型の魔物だよ。……ほら、そこに1匹、転がってる」


 冒険者が指差した地面を見てみると、サッカーボールくらいの、蜂みたいな生き物が、まだら模様のおなかを見せて、ひっくり返り、足をひくついていた。


 気色悪っ。


 顔を引きつらせたマアトも、小さく声を上げていた。

 俺たち、こういう系統の魔物に、なにか縁でもあるのかな。


「あれが数十くらいの集団で攻めて来たが、今の戦力なら余裕だったな。

本隊ってこともないだろうが、もう一波来られてもどうとでもなると思うぜ」


 そうなのか。

 彼の言葉を信じるなら、戦況はなかなかいいらしかった。


「……しかし、妙なんだよな」


 彼がアゴに手を当てて、考え込む素振りを見せた。


「妙?」

「うん、いや。襲ってきた魔物は、普段、群れるタイプの魔物じゃないんだ。

たとえ群れたとしても、家族とその子くらいなもので、せいぜい数匹程度。

間違っても、こんな大集団を形成したりしない。

それに、どちらかといえば大人しい方で、ちょっと脅かせば、すぐ逃げていくはずなんだが、やつらは逃げなかった。

……最後の一匹になるまでな」


 それは、なにを意味するのだろうか。

 俺にはよくわからなかった。


「あぁ、そういえば、解毒薬もあるよな? ナタリーに……あー、あっちのエルフの女だが。

そいつに渡してやってくれ。さっきの戦闘で刺されたんだ」


「わかりました。あちらの女性に解毒薬ですね」

「おう、頼むぜ」


 サーシャさんが教えてくれた解毒薬を荷台から持って、耳の尖った金髪の女性の元に駆けつける。

 女性の顔色は少し悪かったが、笑顔を浮かべてくれた。


「解毒薬? ありがとう」


 すぐに効果は出ないだろうけど、女性は解毒薬を受け取って、使っていた。


「刺されても、ぜんぜん平気な人と、ひどいことになる人がいるのよね。私は、そのひどいことになる方だったみたい」

「大変でしたね」

「えぇ。他にも怪我したメンバーがいると思うの。この程度なら戦いに支障はないけど、できれば、薬、届けてあげてくれるかしら?」

「わかりました」


 その後、思い思いの場所で休息を取ったりしている他の人たちのところにも、話を聞きに行った。

 水を要求されたり、食べ物を要求されたり、傷薬を要求されたりしたが、荷台の物資でほとんど事足りた。

 マッサージしてくれとお願いしてくる人もいた。なんだかほんとに雑用って感じだな。


 最初からこの人たちに必要な物資を持たせれば良かったんじゃ? と思わないでもないが、一旦、戦闘が始まると物資が被害を受ける事もあるそうだから、敢えて持ってこなかったのだろう。

 インターバル的な意味合いもあるのだろう。


 重装備の人たちは、ほとんどが笑顔で接してくれた。

 中でも、行く先々で一生懸命、物資を運ぶ彼女たちは人気者だった。


「かわいい! 癒されるわぁー」

「う、うにゅ……」


 恐縮して縮こまるマアトは、特に女性の冒険者に受けがいい。

 対して、


「背中を怪我したみたいなんだが、自分じゃよくわからねえ。見てくれるか?」

「ん……そこも怪我してる。薬、塗ったほうがいいよ」


 よく気のつくサーシャさんは、男性に評判がいいみたいに見えた。

 俺はというと。


「働き者の彼女さんね」


 優しそうに笑う女性の話相手をしていた。

 解毒薬を渡したエルフの女性だ。


 俺は、


「彼女じゃないですよ」


 と言った。


「そうなの? あの娘、キミのこと、悪く思ってないと思うよ」

「……悪く思ってなくたって、彼女扱いされたら、嫌でしょう?」

「嫌だったら、側にいないと思うんだけど?」

「なに言ってんですか。彼女が、俺のことを、どうにかなんて」


 忙しくちょこちょこと動き回るサーシャさんに目を向けた。

 俺と目があうと、にこっ、と笑いかけてくれた。

 顔が、熱い。


「どーんとモノにしちゃいなさいよ。後から気持ちなんて、いくらでもついてくるわよ?」

「勘弁してくださいよ」


 おかしそうにからかう女性との話を切り上げて、サーシャさんたちと合流した。

 マアトもよく頑張っていたみたいだ。


「これでお仕事は終わりですか」

「うん。後は、帰るだけ」


 帰るだけ、か。

 なんだか、もったいないな。

 

 不意に夜の闇が深くなった。


「? なんか、急に暗くなったような?」

「……おとーさん。お空が、ヘン、だよ」


 マアトの不安な声が聞こえた。

 ふと、空を見上げる。

 同じように空を見上げていたサーシャさんも呟いた。

 空を飛翔する生物の大群がこちらに向かっていた。



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