トラブルTHEじゃがいも
◇◇◇
さあ、これから緊急クエストとやらを始めるぞ、と意気込んだところで、俺たちは、受付のおねえさんに呼び出されていた。
そこで、衝撃の一言。
「いま、なんと?」
「ですから! 緊急クエストは受注できないんですよ、あなたは」
「どうしてですか?」
「登録するときに説明したでしょう。あなた、ステータスが『不明』のままですよね? 不明だと、緊急クエストは受けられません」
そういえば、そんなこと言ってた……ような。
「【姿見の宝珠】でしたっけ」
「そうです。ちなみに、ですけど、今しがたも試しました」
「測れなかったんですか」
「測れませんでした」
誰だろう、こんなシステム考えたのは。
余計なことしてくれちゃって、もう。
「なにを騒いでおる?」
「あ、これは……ギルド長。こちらの方々が、緊急クエストの参加条件を満たしていなくて」
声に気づくと、さっき演説していたじいさんがいた。
今は一人で、お付きの人はいない。
じいさんも俺を認めると、上から下へ、ずいと視線を這わす。
……なんだか、見定められている?
「ふむ、ぬしが件の少年か。
話は聞いておるよ。なんでも、記憶が無いのだとか」
記憶が無い?
そんな話になってるのか?
じいさんは、受付のおねえさんに、
「特例として認めてあげんさい。
わしの権限でな。今は、あらゆる助けが必要なときじゃ」
と言った。
「……ギルド長が、そうおっしゃるのでしたら」
「うむ。少年、正しく歩みたまえよ」
かっかっかと笑いながらどこかへ行くじいさん。
きっとあの人、先の副将軍とかだな。
◇◇◇
妙に気の合うフランさんとは、別行動になった。
クエストが無事に終わったら、例の宿で落ち合う約束をした。
彼女は「あたし、このクエストが終わったら、おさかなを食べるんだ……」とかちょっとフラグな感じのセリフを口にしていた。
そういや宿のおばさんはどうしてるかな。遅くなるって伝えた方がよかっただろうか。
外に出ると、ひんやりと空気が冷たい。
月明かりと、ぼんやり光る薄明りだけが街を照らしている。
昼とは異なり、静まり帰る街は、恐ろしく感じる反面、美しいとも思う。
これから前線の人たちに物資を届けに行くことになった。
荷台にいっぱいの補給物資をカラカラ押しながら、目的の合流地点まで向かう。
「う、ん?」
背中のマアトがぶるっ、と奮えて身じろぐ。
「おはよう」
「おとーさん」
ぎゅっと、しがみついてきた。
「動き辛いよ?」
「マアトは、らくちんだもん」
嬉しそうにそんなこと言ってくる。
こんないい子を見捨てるなんて、この子の両親は何を考えてるのだろう。
「忘れないうちに、これ、渡しておくね」
サーシャさんが、透明な液体の入った、小さなビンを俺に渡す。
「なんですか、これ」
「虫除けスプレーだよ。わたしが調合したの。たぶん、効くと思うから」
サーシャさんはマアトにも、ビンを渡していた。
彼女は、たぶん何に使うのかわかってないだろうけど、無邪気に喜んでいた。
「きれい」
「【月見草のしずく】を使ってあるの。虫が嫌うんだよ」
「へぇ」
重たい荷台をサーシャさんとふたりで協力して運ぶ。マアトも手伝ってくれた。
途中、見回りをしている三人のの冒険者たちと出会った。
『さっきの見てたよ。Cランク相手に災難だったね』
『それ、物資? 重いでしょ?』
『魔物の残党がいたら俺たちに知らせろよな』
一言二言話して、別れた。
彼らも割り振られた仕事を懸命にこなしている。俺も頑張らないとな。




