ギルドとちんぴら②
◇◇◇
「いい加減にしてください!」
おねえさんが、人垣を掻き分けて、近づいてくる。男に険しい視線を向けていた。
職員の姿を認めた男があわてて刃物をしまう。
「おいおい待てよ! オレが咎められるのか!? オレは被害者だぞ!?」
「ええ、最初から見てましたよ全部! どう見ても、あなたの責任じゃないですか! 自業自得です!」
あまりのおねえさんの勢いにあんぐりと押されている男。
「これは、緊急クエストなんです! 皆さんで協力していただくクエストなんです! 仲間割れしている場合ではありません!」
「な、なんだよ。あんたにゃ関係ねぇだろ!」
「ありますよ! これから皆でひとつのことを為そうってときに、ランクがどうとか!
そんな人に連携が取れるとは到底、思えません!
連携が取れなければ、怪我人が出ます! 怪我人が出たら、誰が治療すると思ってるんですか!
私たちなんですよ! あなたじゃなくて!」
「いや、けど……」
「けど!? けど、なんですか!? まだなにか揉め事を起こすつもりなら、あなたにこそ帰ってもらいます!!」
おねえさんがギロリと睨んだ。
すげえ。いかつい男がタジタジだ。
「ぐっ……わ、わかった。こういうときだもんな。協力しなきゃいけねえ」
「わかれば、いいんです。さ、謝ってください。お二人に」
「……その、なんだ。悪かった」
サーシャさんと、フランさんに頭を下げた男は、それ以上騒ぐこともなく退散していった。
もしかすると、そこまで悪いやつじゃないのかな?
「ありがとう」
サーシャさんがお礼を言った。
「いいよ。イモちゃんたちのピンチだもの。にしても、大所帯になるからさ。
このあと、情報の管理、ギルド長への連絡、冒険者たちへの指示、負傷者の手当て、夜食の準備……やることいっぱいだよ。うー頭いたい」
「頑張ってください」
おねえさんがぶーたれながら、すぐに忙しく、どこかに行ってしまった。
本当にやることがあるんだろうな
一角に、ざわつく冒険者たちが集まっていた。
戦闘にあたって、職員さんが注意すべき事項なんかを簡潔に説明しているようだった。
「では、皆さん! 先発の魔物が現れるまで、もう、そう時間もかからないでしょう。
くれぐれも命を大事になさってください! 危ないと思ったら、逃げること!
必ず助けを呼んでください!」
静かな時が流れた。
皆知っている。
これから慌しくも、長い夜になるだろうという予感がしていた。
ひんやりと石が冷たい。
ぶるりと背が震えた。




