ギルドとちんぴら①
◇◇◇
ぬっ、と因縁をつけてきたのは、体格のいい男だった。
冒険者というより、どこにでもいそうなチンピラという感じだ。
その男は、俺、というより、サーシャさんと俺の背にいるマアト、が気に入らないようだった。
「じゃがいも戦士がいたら、なに?」
「なんだと?」
「きみに、迷惑をかけたの?」
サーシャさんが変わりなく、いつもより冷静に? 男をいなした。
その男はカッと激怒した。
「イモみてぇな顔しやがって! くさくて、たまらねえんだよ!」
「? わたし、へんな匂いする?」
くんくん、と自分で匂っているサーシャさん。
いえ、いい匂いです。
その様を、俺は可愛いと思ったけど、男はバカにされたと取ったようで、
「ふざけてんのか!? 緊急クエストなんだぞ! 遊びじゃねえんだよ!」
大声を上げた。
何事か、と周りの注目を嫌でも集めてしまう。
奇異の視線にさらされる俺たち。
背中のマアトは、そんなの知ったことかと安らかに寝ていた。少しうらやましかった。
「子供は帰ってママのオッパイでも吸ってろ!」
「ママは、死んだ。ずいぶん、昔に」
「……」
男は少し面食らった。が、すぐに調子を取り戻した。
「い、いや、だが。子供に参加されちゃ迷惑だ」
「迷惑は、かけない」
「じゃがいも戦士の出る幕はねぇって言ってるんだ! おまえらも、そう思うよなあっ」
周囲に向けて同意を求めていた。
そこに。
「まーまー。怒らない怒らない」
「なんでぇ、テメェは」
いなくなったはずの獣人さんが現われて仲裁に入ってくれた。
いや。
今の騒動で俺たちを見つけた、という方が正しそうだけど。
「フランと言います。ここはあたしに免じて、仲良くして欲しいですにゃ」
フランさんの尻尾と耳が、ぴこぴこと動いて、場を和ませた。
だが、男はそう思わなかったようだ。
「……ふん。てめぇ、ランクはいくつだ?」
にこにこしていたフランさんの表情が、その言葉に、ぴたっと凍りつく。
「俺は、Cランクだ。てめぇは……なんだ、Eランクじゃねぇか。だったらよ、先輩に払う敬意ってモンがあるよなぁ?」
「……」
「どうした? 俺より格下のネコちゃんよ。まずは頭を下げて挨拶してみろや」
乱暴な男だった。
周りは見てみぬ振りをするばかりで、誰も関りあいになろうとしない。
ぷるぷると震えているフランさん。
それに気づいていない男。
「黙ってりゃあ、なかなかイイ女じゃねーか。どうだ? おまえ、俺の女にならねーか?」
男がいやらしくフランさんのお尻を撫でた。
刹那、フランさんが爆発した。
「フザケルニャ」
「!?」
どかんっ☆
「~~~~~~!!!」
すべてが、スローモーションに見えた。
なんだか下半身が、きゅっと締まる感じがした。
男が悶絶する。
フランさんが引き締まった右足で、男の金的を、思いっきり蹴り上げていた。
「こ、こ、このアマっ! なんてこと、しやがるっ」
男はぴょんぴょん飛び跳ねながら凄む。フランさんが負けじと言い返した。
「べーっ! おまえなんか、だいきらいだ!」
「このやろう!」
ガッとフランさんに殴りかかろうとする男。
息を呑んだ。
そこに、身体をひねらせたサーシャさんが目にも止まらぬ早さで割って入った。
合気道の達人がぽんぽん投げ飛ばすみたいに、怪我しない程度に、男を回し投げる。
「がはっ」
どてっ、と地面に叩きつけられる男。
「乱暴は、だめ」
「ブッコロス!」
目が完全に据わった男は、銀に光るナイフを引き抜いた。
その事態に周りの人たちの顔色も強張った。
あれは、マズイ!
「いい加減にしてください!」
さすがに止めるしかないと思ったところで、俺たちの様子を見ていたのだろう。
お馴染みの、ギルドのおねえさんが叫んだ。




