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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第四章 戦いは唐突に
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ギルドのおじいちゃん


 ◇◇◇


 鐘が鳴り止んだ街は静けさを保っていた。

 その中で、この建物内だけが異様に熱を帯びている。


 溢れる人。

 あるいは百に届くかもしれない人でざわつくギルド内は、まるで統一性が無かった。

 

 身長よりも高い長剣を携えたフルアーマーの戦士。

 帽子と杖がうねりにうねったローブの魔法使い。

 ゴツゴツの重装備な人から、さも普段着で来ましたみたいな人まで、様々だ。


 軽装の俺たちは、普段着のグループだろう。

 見た限りの印象で言えば、頼りないというか、新米というか、そんな印象の人が多い。

 重装備の方は、歴戦というか、凄腕というか、装備も使い込まれている感じの人が多かった。

 

 これ、このまま、待ってればいいのかな。

 フランさんは、どこだろ。

 どこかにはいると思うんだが、人が多くてわからない。


『緊クエって何が起こったのー? 討伐?』

『知らん。とりあえず装備は持ってきたけど』

『あれじゃね? 例の、グランドグリゲーター』

『不安だなぁ、俺、まだレベル低いのに』

『ま、こんだけいりゃあ、先輩方がどうにかしてくれんべ』


 気楽な声に耳を傾けると、何事が起こったか知らずに集まった人が多いみたいだ。


 急に、ぴたり、と静まり返る。

 何事かと見れば、脇に腰刀を差した妙齢の小さなじいさんが、後ろにお付きの人を2人ほど抱えて、しずしずと登場していた。


「あのおじいちゃんが、ギルドマスターだよ。【ワーラット】なの」


 サーシャさんが小声で言った。

 なるほど、確かに耳は特徴的に丸みを帯びていて、尻尾が生えている。

 なんか、それっぽい。


「おほん。先ずは、こんな夜にも関らず、集まってくれた冒険者諸君に、ありがとうと礼を言わせて欲しい」


 よく通る声でじいさんが言った。

 皆、固唾を飲んでいた。


「これより緊急クエストを発令するッ!」


 突如、芝居がかった口調で、じいさんが演説を始めた。


「街に向けて、魔物の集団が向かってきている! 

虫型の魔物が多く確認されているが、いずれも大した魔物ではない!

しかし、いかんせん数が多い!

彼らの目的は現時点で不明だが、この美しい土地を、大地を、蹂躙されるわけにはいかない!

そこで君達には、迎撃を行って貰いたい! 一体でも多く! 被害が出る前に! 

食い止めてもらいたいのだ!!」

 

 じいさんが深々と頭を下げる。

 

「なんでぇ。ギルマスってから、もっとスゲェやつを想像してたが、吹けば飛ぶようなジジィじゃねえかよ。俺たちに、こんなネズミの下で働けってのか?」


 ふざけた冒険者のひとりが、文句をつけた。

 お付きの人が動きかける。じいさんは、何も言わず、それを手で制した。


「その通り。君の言う通り、吹けば飛ぶような権力だけのジジィさ。君は、たくましいのだろう? だからお願いする。ぜひ その力を、皆のために役立ててくれんか」


 冒険者が舌打ちをして、引っ込んだ。

 あのじいさん。優しそうな目をしてるけど、油断ならないと直感が言っている。

 確信に近い。アレには、勝てない。


「すごく強いよ」


 ぼそっとサーシャさんが言った。


「どっちが強いですか。サーシャさんと」

「……正直、やってみないとわからない」


 そんなすごいの?

 見た目は、弱々しいじいさんにしか見えないんだけど。

 牙を隠した、老獣。その牙は、いまだ衰えていない。

 挑めば、俺は一瞬で返り討ちに遭うのだろうか。


「では、皆! どうか皆で協力し、助け合い、街を守って欲しい! 街の未来は、君達にかかっている!」


 じいさんとお付きの人が、しっかりした足取りで、立ち去っていく。

 最後まで芝居がかってたな。多分、時代劇とかが好きなんだろう。


 じいさんが去ると途端に周囲が騒ぎ始める。


『虫だって。ヤダなあ』

『なんで? ちょうどいい相手じゃん』

『気色悪いもん。虫除けスプレーとかで迎撃できないかな?』

『無理だろ』

『もっと大物を期待してたのになぁ』

『緊張感、持ったほうがいいぞ。弱いからって油断してると、手痛い目を見る』

『でも、あいつら、集団で街を攻めるなんて知恵あったっけ?』

『そういうやつらもいるんじゃね?』

『それもそうか』


 わいわい騒いで楽しそうだった。

 俺もサーシャさんと今のことを話して語る。


「スプレー、効くんですかね」

「ちゃんとしたのなら、効くと思う」


 効くのか。

 なら、俺にもできるかな。


「緊急クエスト、やるの?」

「え、だめなんですか」

「だめ、じゃないけど……」


 サーシャさんが何か言いかける。

 なんだろう、と気を取られていた俺に、誰かが因縁をつけてきた。


「あぁ、くっせぇくっせぇ。どうにも ジャガイモくせぇと思ったら、じゃがいも戦士がいるじゃねえかよ」

 

 ……厄介ごとが、起こりそうだった。


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