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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第四章 戦いは唐突に
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響く鐘


 ◇◇◇


 カンカンカンカン!

 カンカンカンカン!


 何かを打ち付けているような、けたたましい音が、突然、街のあちこちから響いてくる。


「召集の鐘……。緊急、クエストだ」


 呟くフランさんの顔は、すこし強張っていた。

 召集? なんのことだろうと思っていたら、


「『打ち鳴らす鐘の音が正しく聞こえる冒険者は、くギルドに集まるべし』……冒険者の、決まりなの」


 とサーシャさんが教えてくれた。


「例の、狼が現われたんでしょうか」

「……それは、まだ、わからない。ギルドに行ってみれば、詳しいこともわかると思うけど……」

「行ってみようよ、サっちん」

「うん」

「そうですね」


 もし、何かトラブルが起こっているのなら、俺でも何か力になれるかもしれない。

 力になれる。それは、とても嬉しいことのような気がした。


 赤い街を俺たちは歩いていく。

 もうすぐ闇の世界が訪れる。

 相変わらず、鐘の音は、断続的に続いていた。

 そういえば、街の人たちを見かけないな。


「避難場所があるから、みんな、そこに行ったんだと思うよ」

「避難場所? でっかいホールみたいな?」

「地下に古い頑丈な遺跡があるんだ。たしか、そこが緊急時の避難場所になってたかな?」


 サーシャさんの説明を、フランさんが補足してくれる。


「にしても、ちょっと楽しみだよ。不謹慎だけどさ。緊急クエストなんて、滅多にあるもんじゃないし」


 フランさんが、スキップでもしそうな勢いで、ずんずんとギルドに向かって進んでいく。

 あの人の元気はどこから来るんだろ。さっきまで落ち込んでたのに、もう気にしてないのだろうか。

 またスッ転んでも知らないぞ。


 それに対して、背中のマアトは、ずいぶん大人しかった。

 疲れたのかな。今日は朝から色々頑張ってたもんなぁ。


「眠いか?」


 と俺は声をかけた。


「うん……」

「寝てもいいよ」

「うん……」


 眠たげな声。

 いつ寝てもいいように、俺は、ゆっくり歩いた。


 サーシャさんが俺に歩調を合わせてゆっくり歩いてくれた。

 気ままなさんは、はるか向こうにいた。

 まあ、目的地は一緒なんだから、そのうち合流できるだろう。


 石の建物が近づいてくると、物々しい格好をした人たちが、ぞろぞろと増えてきた。

 皆、あの鐘の音を聞きつけた冒険者たちだ。

 これから、何が起こるのか。起ころうとしているのか。


 鐘は、まだ鳴っている。

 眠ってしまったマアトが、このまま穏やかに眠れますように、と願わずにいられなかった。




 ※ 補足。


フィルヒナーの街の地下には避難用の巨大な古代遺跡があります。

この遺跡は非常に頑丈で、核爆発にも耐えうる強固なものです。

街の要所や建物には、地下の遺跡に通じる非常用の通路が設けられていて、

緊急時にはその通路を通り、人々は遺跡に集まるのが通例になっています。


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