響く鐘
◇◇◇
カンカンカンカン!
カンカンカンカン!
何かを打ち付けているような、けたたましい音が、突然、街のあちこちから響いてくる。
「召集の鐘……。緊急、クエストだ」
呟くフランさんの顔は、すこし強張っていた。
召集? なんのことだろうと思っていたら、
「『打ち鳴らす鐘の音が正しく聞こえる冒険者は、疾くギルドに集まるべし』……冒険者の、決まりなの」
とサーシャさんが教えてくれた。
「例の、狼が現われたんでしょうか」
「……それは、まだ、わからない。ギルドに行ってみれば、詳しいこともわかると思うけど……」
「行ってみようよ、サっちん」
「うん」
「そうですね」
もし、何かトラブルが起こっているのなら、俺でも何か力になれるかもしれない。
力になれる。それは、とても嬉しいことのような気がした。
赤い街を俺たちは歩いていく。
もうすぐ闇の世界が訪れる。
相変わらず、鐘の音は、断続的に続いていた。
そういえば、街の人たちを見かけないな。
「避難場所があるから、みんな、そこに行ったんだと思うよ」
「避難場所? でっかいホールみたいな?」
「地下に古い頑丈な遺跡があるんだ。たしか、そこが緊急時の避難場所になってたかな?」
サーシャさんの説明を、フランさんが補足してくれる。
「にしても、ちょっと楽しみだよ。不謹慎だけどさ。緊急クエストなんて、滅多にあるもんじゃないし」
フランさんが、スキップでもしそうな勢いで、ずんずんとギルドに向かって進んでいく。
あの人の元気はどこから来るんだろ。さっきまで落ち込んでたのに、もう気にしてないのだろうか。
またスッ転んでも知らないぞ。
それに対して、背中のマアトは、ずいぶん大人しかった。
疲れたのかな。今日は朝から色々頑張ってたもんなぁ。
「眠いか?」
と俺は声をかけた。
「うん……」
「寝てもいいよ」
「うん……」
眠たげな声。
いつ寝てもいいように、俺は、ゆっくり歩いた。
サーシャさんが俺に歩調を合わせてゆっくり歩いてくれた。
気ままな獣人さんは、はるか向こうにいた。
まあ、目的地は一緒なんだから、そのうち合流できるだろう。
石の建物が近づいてくると、物々しい格好をした人たちが、ぞろぞろと増えてきた。
皆、あの鐘の音を聞きつけた冒険者たちだ。
これから、何が起こるのか。起ころうとしているのか。
鐘は、まだ鳴っている。
眠ってしまったマアトが、このまま穏やかに眠れますように、と願わずにいられなかった。
※ 補足。
フィルヒナーの街の地下には避難用の巨大な古代遺跡があります。
この遺跡は非常に頑丈で、核爆発にも耐えうる強固なものです。
街の要所や建物には、地下の遺跡に通じる非常用の通路が設けられていて、
緊急時にはその通路を通り、人々は遺跡に集まるのが通例になっています。




