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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第四章 戦いは唐突に
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夕日の変兆


 ◇◇◇


 目立つ男を、彼方に見つけたフランさんが走り寄る。

 すぐに追いついたが、なんとなく少し距離を保って、その様子を離れて見ていた。

 ここは街の出口に近い場所だ。今の時間は人通りもまばらで、俺たちを誰も気に留めることはない。

 

「マルドゥーク様!」


 フランさんが息を整えながら笑顔で声を掛けている。

 声に気づいた彼は、俺たちの方にゆっくりと振り向いた。うっすらと微笑んでいる。

 この男は、人によっては、王子に見えるのかもしれない。


「……もう、身体はいいのかな?」

「すっかり、元気いっぱいです」

「無事で、よかったね」

「はい! あなたの弟子になるまでは絶対に諦めませんにゃ!」


 何ら変わらない彼女の言葉を、マルドゥークは黙って聞いた。

 それは尋ねられたくないことだったのかも知れない。

 彼の金髪が赤い日を受けて違う色に見えた。

 

「……キミは、私を、恨んでいないのか?」

「マルドゥーク様を、うらむ?」


 フランさんはきょとんとしている。

 質問の意味がわからないようだった。


「私はキミを守れなかった。キミが怪我を負ったのは私のせいだろう。正直に言う。

あのとき、私は、キミを疎ましく思っていた。だから、キミから注意が逸れた。

騎士として、あるまじきことだ。恨んで、当然じゃないか」


 マルドゥークは謝罪した。フランさんが、遠慮がちに続けた。


「でも、その、あたしを、狼から、助けてくれました……にゃ」

「狼から、助けた?」

「あたし、狼にさらわれたって……助けてくれたのは、マルドゥーク様ですよ、ね」


「……」

「あの……?」


「ああ、そうだね。地獄騎士に気を取られているうち、キミを連れ去られてしまったんだ。

とんだ失態だよね。そのあと、すぐに追いかけたけれど」


「は、はい」

 

 取り繕うように、彼は言った。

 フランさんも、少しマルドゥークの様子がおかしいことに気づいたらしいが何も言えず、彼の顔色をちらちらうかがっていた。

 借りてきたネコ、もとい、


 マルドゥークに聞きたい事があるらしいサーシャさんが一歩、俺の前に出た。

 彼女が、


「狼は、倒したの?」


 と聞くと、


「……いや、倒しては、いない。なかなかしぶといやつでね。すんでのところで、逃げられてしまった」

「あれは、変異種かも知れない」

「そうか。もしそうなら、いつか私は責任を取って、そいつを倒さないといけないね」


 と話していた。

 懐かしいものでも見るように、ふいに彼は空を見上げた。

 小さな星が輝いていた。日が落ちて、夜が来る。


「私は、もう、この街を出ようと思っている」

「え」


 彼が言った言葉は、フランさんを驚かせるには充分だった。


「ありがとう。キミのお陰で、私は楽しい数日を過ごさせてもらった。もう少し滞在する予定だったが、すまない。やはり、キミを弟子にすることは、叶いそうにない」

「そんな……」 


 静かだが、強い意志を感じさせた。

 拒絶がありありと表れていた。

 おそらく、曲げる気はないのだろう。もう、決めてしまったのだ。


「何事も、ままならないものさ。特に、縁というものは。

キミは、彼らといたほうがいいよ。私といるより、ね」


「あ……」


 金髪の男が俺たちに背を向けた。マントが寂しそうに揺れていた。

 フランさんは掛ける言葉が見つからず、見送るしかない。

 彼は、去った。


「……みんなで魚、食べましょう。フランさん」


 落ち込む彼女にどう言っていいかわからなかったが、俺は慰めたつもりだった。

 俺たちは彼と、逆の方向に歩き出そうとした。

 そのとき。



 カンカンカンカン!



 ――けたたましい音が、突然、街のあちこちから響いてくる。

 何かを叩く音が、耳障りに鳴り響く。

 何度も、何度も。

 警鐘を鳴らすように。



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