木を植える冒険者②
◇◇◇
街角には樹木が転々と並んでいる。
人の往来がある場所でも、自然はあるものだ。
土の盛られた箇所が、いくつもある。
ここに新しい種を植えていくらしい。
「ちょっと、土を掘ってあげて……掘りすぎると、芽が出ないから、適度に、ね。種を埋めたら、そっと土をかぶせてね」
「わかりました」
「畑仕事かぁ」
盛られた土を見て、フランさんが呟いた。何か思い入れがあるのだろうと思った。
「フランさん。農家なんですか?」
「とーちゃんが、農家をやってるんさ。小さい頃は、無理矢理、手伝わされたモンにゃ……」
すべてを許容する穏やかな声色で、しみじみと言っていた。
全員で種を分けることにして、それぞれ仕事をすることにした。
「いいですよ」
「ほいほいー」
「はい。これは、マアトのぶんだよ」
俺たちよりも量は少なかったが、サーシャさんはちゃんとマアトの分も分けていた。
彼女はびっくりしていた。
「手伝って、いいの?」
「うん。一緒に、植えよう?」
マアトは喜んでいた。サーシャさんと仲良く植えている。
さくさく、さくさく。
街の人が、地面と格闘する俺たちを面白げに見て、すぐに興味を失って通り過ぎていった。
ずっと屈んでばかりなので、ぴりぴりと膝に来る。
俺って、そんな年じゃないよ、ね? 誰か、違うと言って。
「この土も、土の匂いも、土を掘る道具も、何もかもが、なつかしい」
向こうの彼方で、フランさんはひとりアンニュイに浸っていた。
あの人は、よくわからん。
土をぱたぱた叩いて、埋めていく。
種を蒔いたら芽が出るまでには時間がかかる。
ゆっくり、待てばいい。
俺が何気なく目をやると、カラスみたいな鳥がやってきていて、俺が植えた箇所だけを、ツンツン突付いては、ぱくぱくしていた。
「コラァァァー!!」
「クエックエックエェェェ!!」
大声を上げると、嘲笑うような奇声を発して鳥が逃げていった。
確認しに戻ると、穴の空いた土。
種は食べられていた。
ニートが種蒔いたら烏がほじくる。皮肉すぎるわ。
サーシャさんが励ましてくれた。マアトが慰めてくれる。フランさんは大笑いしていた。
落ち込んでもいられなかったので、移動をしながら、次々に作業に没頭する。
そのうちに日が暮れてきた。
次で、最後だ。
さくっと、もう慣れた手つきで、残っていた最後の種を植え終える。
無事に、終わらせる事ができた。
「しゅうりょー!」
「終わりましたね」
「手伝ってくれて、ありがとう。こんなに早く終わったのは初めてだよ」
「マアトも! マアトも、がんばったよ!」
マアトが撫でて欲しそうに、俺に頭を突き出してくる。
「手が汚れてるから今は、だめだよ」
「うー、じゃあ、はやく、帰るぅ!」
赤い影が地面に伸びていく。
今日も宿に帰ろう。
お魚に釣られたフランさんもついてきた。
疲れた体。
でも、心地いい疲労だ。
足の位置には白銀が。
腰の位置には黄金が。
頭の位置には……頭には? なにがあるのだろう……。
「あ、れ?」
フランさんが、突然立ち止まって、遠くの方を見つめた。
じっと目を凝らしている。
「なにかあったんですか」
「……マルドゥーク様だ」
言うが早いか、フランさんは、夕日に向かって走る。
あの騎士がいたのか?
俺たちも、彼女の後を追う。
置いてけぼりにならないように、マアトをおぶった。
ぎゅっ、としがみつく彼女を振り落とさないように、注意しながら、走った。




