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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第四章 戦いは唐突に
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木を植える冒険者②


  ◇◇◇


 街角には樹木が転々と並んでいる。

 人の往来がある場所でも、自然はあるものだ。


 土の盛られた箇所が、いくつもある。

 ここに新しい種を植えていくらしい。


「ちょっと、土を掘ってあげて……掘りすぎると、芽が出ないから、適度に、ね。種を埋めたら、そっと土をかぶせてね」

「わかりました」

「畑仕事かぁ」


 盛られた土を見て、フランさんが呟いた。何か思い入れがあるのだろうと思った。


「フランさん。農家なんですか?」

「とーちゃんが、農家をやってるんさ。小さい頃は、無理矢理、手伝わされたモンにゃ……」


 すべてを許容する穏やかな声色で、しみじみと言っていた。

 全員で種を分けることにして、それぞれ仕事をすることにした。


「いいですよ」

「ほいほいー」

「はい。これは、マアトのぶんだよ」


 俺たちよりも量は少なかったが、サーシャさんはちゃんとマアトの分も分けていた。

 彼女はびっくりしていた。


「手伝って、いいの?」

「うん。一緒に、植えよう?」


 マアトは喜んでいた。サーシャさんと仲良く植えている。


 さくさく、さくさく。


 街の人が、地面と格闘する俺たちを面白げに見て、すぐに興味を失って通り過ぎていった。

 ずっと屈んでばかりなので、ぴりぴりと膝に来る。

 俺って、そんな年じゃないよ、ね? 誰か、違うと言って。

  

「この土も、土の匂いも、土を掘る道具も、何もかもが、なつかしい」


 向こうの彼方で、フランさんはひとりアンニュイに浸っていた。

 あの人は、よくわからん。


 土をぱたぱた叩いて、埋めていく。

 種を蒔いたら芽が出るまでには時間がかかる。

 ゆっくり、待てばいい。


 俺が何気なく目をやると、カラスみたいな鳥がやってきていて、俺が植えた箇所だけを、ツンツン突付いては、ぱくぱくしていた。


「コラァァァー!!」

「クエックエックエェェェ!!」


 大声を上げると、嘲笑うような奇声を発して鳥が逃げていった。

 確認しに戻ると、穴の空いた土。

 種は食べられていた。


 ニートが種蒔いたら烏がほじくる。皮肉すぎるわ。

 サーシャさんが励ましてくれた。マアトが慰めてくれる。フランさんは大笑いしていた。


 落ち込んでもいられなかったので、移動をしながら、次々に作業に没頭する。

 そのうちに日が暮れてきた。

 次で、最後だ。


 さくっと、もう慣れた手つきで、残っていた最後の種を植え終える。

 無事に、終わらせる事ができた。


「しゅうりょー!」

「終わりましたね」

「手伝ってくれて、ありがとう。こんなに早く終わったのは初めてだよ」

「マアトも! マアトも、がんばったよ!」


 マアトが撫でて欲しそうに、俺に頭を突き出してくる。


「手が汚れてるから今は、だめだよ」

「うー、じゃあ、はやく、帰るぅ!」


 赤い影が地面に伸びていく。


 今日も宿に帰ろう。

 お魚に釣られたフランさんもついてきた。


 疲れた体。

 でも、心地いい疲労だ。


 足の位置には白銀が。

 腰の位置には黄金が。

 頭の位置には……頭には? なにがあるのだろう……。


「あ、れ?」


 フランさんが、突然立ち止まって、遠くの方を見つめた。

 じっと目を凝らしている。


「なにかあったんですか」

「……マルドゥーク様だ」


 言うが早いか、フランさんは、夕日に向かって走る。

 あの騎士がいたのか?

 俺たちも、彼女の後を追う。


 置いてけぼりにならないように、マアトをおぶった。

 ぎゅっ、としがみつく彼女を振り落とさないように、注意しながら、走った。



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