石版のあと
◇◇◇
かつん。
足元に石でできた、硬い何かがあった。
とてて、と目ざとく見つけたマアトが覗き込む。
「おとーさん、それ、なーに?」
「なにかな、掘り起こしてみようか」
草むらに隠れるように何かがボコッと半分だけ埋められている。
石版だ。
古ぼけた石版が、まるで、見つけないでくれ、と言わんばかりに、ひっそりとあった。
「フィルヒナーは街自体も歴史が古いからにゃー。こういうの、あちこちにあるんだよね。特にこの辺りは、遺跡も多いし」
フランさんが教えてくれる。
風化しているのか、刻まれている文字も、かすれてほとんど見えなかった。
ざらざらとこすると、石のような、金属のような、不思議な触感。
昔、100年経っても読みとれるとかいう謳い文句のDISKを買ったことがあるけど……あれに似てる感じがする。
「読めますか?」
「読めると思うかい」
えへん、といばる獣人さん。
そうでしょうね。
「ま、こんなの読めたとしても、大したこと書いてないよ。誰々にヤリで刺された、ぶっころ! とかそんなとこでしょ」
「物騒すぎませんか」
「これ、ずいぶん昔の石版みたいだね」
サーシャさんが石版を見て、つぶやくように読んでいく。
「『かつて……おおわれ……とけ……このち……ほろびし……とき。
……子ども……の……つかいが、つかわされ?』」
「サっちん。読めるの?」
「……ちょっとだけなら」
わくわくしてるフランさん。
こういうの好きなのかな。俺も、割と好き。
「なんだか予言みたいに聞こえますね」
「そう? たぶん、歴史を残そうとしたんだと思うよ。
旧時代の文字にすこし似てる、けど……形態が違うから、もう少し前の……かな」
「ただ文字が並んでるだけじゃないの?」
3人で悩みながら、あれやこれや考察していたら、
「うう、おとーさん! マアトも、混ぜてよ!」
と覗き込んでくる。
「おもしろいものじゃないよ?」
「みたい!」
駄々をこねるマアト。
ああ、もう、ちょっとだけだよ。
場所を譲って、彼女を石版の前に立たせると、
「おとーさん、なんて書いてあるのー?」
「わかるなら教えてほしいかな」
しばらく興味津々で見ていた彼女の目が、ふいに光を失う。石版を一点に見つめ、
「『……おうの仔どもらは やみより出でて遣わされる。
6つのわざわいが 世界を7度 ほろぼすだろう。
第二、第三の仔は水と風で 世界を青く沈め、削り取る。
第四、第五の仔は光と時間で 世界を白く染め、朽ちさせる。
第六、第七の仔は雷と炎で 世界を赤く砕き、焼き尽くす。
仔らは呼ばれる、終末の、使徒と……』」
普段とはまるで違う口ぶりで、淡々と読み上げていった。
「マアト?」
「え?」
軽く揺すってあげると、はっとしたようにマアトは正気に戻る。
「マアト、なんで、これ読めるの?」
みんなして、顔を見合わせる。
マアトが読めたことは、何を意味するのか。
他に誰も読めないから、合ってるかどうか、わからない。
意味なんてないかもしれない。
間違っているかもしれない。
もし正しいとして、どんな意味があるのだろう。
昔のガラクタ。俺たちには、関わりの無いことのはずだ。
なにか不気味な、漠然とした不安を抱えながら、俺たちは街に戻った。




