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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第四章 戦いは唐突に
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石版のあと


 ◇◇◇


 かつん。


 足元に石でできた、硬い何かがあった。

 とてて、と目ざとく見つけたマアトが覗き込む。


「おとーさん、それ、なーに?」

「なにかな、掘り起こしてみようか」


 草むらに隠れるように何かがボコッと半分だけ埋められている。

 石版だ。

 古ぼけた石版が、まるで、見つけないでくれ、と言わんばかりに、ひっそりとあった。


「フィルヒナーは街自体も歴史が古いからにゃー。こういうの、あちこちにあるんだよね。特にこの辺りは、遺跡も多いし」


 フランさんが教えてくれる。

 風化しているのか、刻まれている文字も、かすれてほとんど見えなかった。

 ざらざらとこすると、石のような、金属のような、不思議な触感。

 昔、100年経っても読みとれるとかいう謳い文句のDISKを買ったことがあるけど……あれに似てる感じがする。


「読めますか?」

「読めると思うかい」 


 えへん、といばるさん。

 そうでしょうね。

 

「ま、こんなの読めたとしても、大したこと書いてないよ。誰々にヤリで刺された、ぶっころ! とかそんなとこでしょ」

「物騒すぎませんか」

「これ、ずいぶん昔の石版みたいだね」


 サーシャさんが石版を見て、つぶやくように読んでいく。


「『かつて……おおわれ……とけ……このち……ほろびし……とき。

……子ども……の……つかいが、つかわされ?』」


「サっちん。読めるの?」

「……ちょっとだけなら」


 わくわくしてるフランさん。

 こういうの好きなのかな。俺も、割と好き。


「なんだか予言みたいに聞こえますね」

「そう? たぶん、歴史を残そうとしたんだと思うよ。

旧時代の文字にすこし似てる、けど……形態が違うから、もう少し前の……かな」

「ただ文字が並んでるだけじゃないの?」


 3人で悩みながら、あれやこれや考察していたら、


「うう、おとーさん! マアトも、混ぜてよ!」


 と覗き込んでくる。


「おもしろいものじゃないよ?」

「みたい!」


 駄々をこねるマアト。

 ああ、もう、ちょっとだけだよ。

 場所を譲って、彼女を石版の前に立たせると、


「おとーさん、なんて書いてあるのー?」

「わかるなら教えてほしいかな」


 しばらく興味津々で見ていた彼女の目が、ふいに光を失う。石版を一点に見つめ、

 

「『……おうの仔どもらは やみより出でて遣わされる。

6つのわざわいが 世界を7度 ほろぼすだろう。

第二、第三の仔は水と風で 世界を青く沈め、削り取る。

第四、第五の仔は光と時間で 世界を白く染め、朽ちさせる。

第六、第七の仔は雷と炎で 世界を赤く砕き、焼き尽くす。

仔らは呼ばれる、終末の、使徒と……』」


 普段とはまるで違う口ぶりで、淡々と読み上げていった。


「マアト?」

「え?」


 軽く揺すってあげると、はっとしたようにマアトは正気に戻る。


「マアト、なんで、これ読めるの?」


 みんなして、顔を見合わせる。

 マアトが読めたことは、何を意味するのか。

 他に誰も読めないから、合ってるかどうか、わからない。


 意味なんてないかもしれない。

 間違っているかもしれない。

 もし正しいとして、どんな意味があるのだろう。

 昔のガラクタ。俺たちには、関わりの無いことのはずだ。


 なにか不気味な、漠然とした不安を抱えながら、俺たちは街に戻った。



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