じゃがいものG
◇◇◇
「そっちに行ったよ!」
草の匂いが香り、走り抜けていく風が気持ちいい。
はぁはぁ、とすぐに息が上がる。
駆け足なんて、普段まったくしていないから、すごい苦しい。
サーシャさんの声が遠くからする。
ターゲットの近くには、フランさん。
「もらった! ……はにゃ?」
ダイブして飛びかかったようだけど、逃げられた模様。
そのフランさんのいる方向から、草むらをがさがさと揺らして、小さい気配が走ってくる。
……こっちに、きた!
「今だ!」
タイミングよく飛び出してきたウサギを、捕まえる。
やったぞ!
ぐさり。
いてぇっ!?
こいつ、突付いてきたぞ!
じたばたじたばたと、ウサギがさらに足掻きまくる。
鍛え上げられた両足でキックを連発。俺はサンドバックになった。
「ああっ」
つい手を離してしまった。
ぴょん、と俺をバカにするように着地し、逃げ出そうとする。
「あんまり暴れないの」
サーシャさんが、すくい上げるように、ウサギを抱き上げた。
ウサギは、そこが自分の居場所だったみたいに、まったく抵抗しない。
あのやろう、くつろいでいやがる。ぜったい、オスだな。
「いやー見事見事。さっすがだね」
ぱちぱち、とフランさんが拍手した。
俺の受けた仕事。
いなくなったペットを捜す、という簡単そうな仕事だと思ったが、これが大変だった。
飼い主さんの家の周りは、草原やら畑やらの密集地帯。
捜索範囲が異常に広くて、もうリタイアしてもいいよね、と思っていたところでフランさんが、くんくんと鼻を鳴らして。
「……んー、あっちのほう?」
あさっての方向を指差した。
めちゃくちゃテキトーぽかったので、まったく信じていなかったけど、見事、ターゲットを見つけてくれた。
「フランさんが居場所を見つけてくれたお陰で助かりましたよ」
「にゃはは。いいってことよー」
さすがは人間の嗅覚100倍の獣人と言ったところか。
彼女が首に下げているギルド証が、首輪みたいにきらりと自慢気に光った。
ネコって、ああいうの良くしてるよね。
「フランさん、冒険者だったんですね」
「そだよー。Eランク冒険者」
「E? ランク?? なんですかそれ」
「知らんの? サっちんは?」
サっちんってのは何だ。
サーシャさんのことか?
マアトお嬢に、サっちんに、変態と書いておにいさん。
どんな面白メンツだ。
「興味ない」
「自分のランクくらいは知ってるっしょ?」
「たぶん、G」
「初期じゃん……」
まるで成長していない……とでも言いそうだった。
「ランクは、ギルドでクエストをこなしていくと、上がっていく。
危険度の高い討伐クエストを達成すると、ランクがひとつ上がるんだ。
Sが一番高いけど、こうなると、もう、伝説の英雄クラスだね。
ちなみに、あたしの『竜喰らい』様は、Aランクの冒険者だと思われる。
名前を聞いたことはあったけど……あんな格好いい人だったなんて知らなかったなぁ」
またフランさんが、妄想に走り始めた。いかん、止めないと。
「ランクが低いと何か、問題があるんですか?」
「大有りだよ、冒険者の沽券に係わるからね。できるだけ高い方がいいんさ」
「そうなんだ」
サーシャさんは気にして無さそうだったが、フランさんは気にしてるのかな。
「え、じゃあ、このなかだと、あたしが一番ランク高いの? あたし、リーダー?」
「そうですかね」
「うん、リーダーだと思うよ」
「リーダー……えへへ……やろうどもぉ、あたしについてくるにゃー!」
張り切った獣人が浮ついて、スッ転んだ。
心配して駆け寄ると、膝から血が出ていた。
「いたた」
「だいじょうぶですか」
「うー、すりむいたー」
フランさんが涙目になっている。
「ケガしたの?! マアトがたすける!!」
マアト、嬉しそうだな。
魔法が使えるのがそんなに嬉しいのかな。嬉しいんでしょうね。あの極上の笑顔を見ればわかるよ。
「聖癒……」
「こーら。擦りキズに、そんなの使わないの」
呪文詠唱をサーシャさんに遮られて、ふくれていた。
サーシャさんが手当てをしていた。
フランさんはそれにいたく感激したようだ。
「魔術は、真似するだけでできるんだ。マアト嬢にもできたんだ。あたしにもできる! むーん、ファイヤー」
フランさんが、破ァーとか言って、妙なポーズを取っていた。
構えだけはしっかりして見える。
当たり前だが、なにも起こらなかった。
「……MP切れかにゃ?」
首を傾げていた。
それは、ない。
ランクについてですか?
こんな感じですよ。
G:じゃがいも
F:じゃがいもに芽がでた程度
E:育ってきたんじゃない?
D:土に埋めよう
C:立派に根を張った
B:収穫!
A:すごいじゃがいも
S:まぼろしのじゃがいも
わからない?
そうですか、そうですよね……。
ときに、牛肉と馬鈴薯って話、ご存知?




