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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第四章 戦いは唐突に
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薬草は誰が為に


 ◇◇◇

 

 騒がしい街も静けさを保っている。

 ギルドにつくと、受付のおねえさんがクエストを貼っていた。


「おはようございます」

「あら、おはよう。イモちゃんと……ゆかいな仲間たち」


 声を掛けた俺たちに気づくと、仕事を放り出して、歓迎してくれた。


「なんですか、ゆかいな仲間たちって」

「そっちは新顔でしょ。なに、イモちゃんもついにパーティー組むんだ?」

「ううん、違うよ」

「あたしは、心に決めてる人がいるもので」

「あらそうなの。ま、いいや。それよりも~」


 おねえさんが、目にも止まらぬ素早さで、


「マアトちゃーーーん!」


 がばっとマアトに抱きついた。

 突然の行動に困惑するマアトだが、それがおねえさんに油を注いでいることに気づいていない。


「はぁはぁ可愛い……持って帰りたい」


 頬擦りしていた。

 昨日、3人でギルドを訪れたときに、すっかりマアトに骨抜きにされたようだった。


「だめ」

「けちー。じゃあ、イモちゃんでいいや。持って帰らせて?」

「やだ」

「ちっ」


 それでいいのか、おねえさんは。


 おっと目的を忘れるところだった。

 サーシャさんが掲示板に貼られたリストを見て、何枚か手に取っている。


 俺にも、できそうな仕事がないかと目を通してみた。いくつか良さそうなのがあったので、そのうちのひとつを選んだ。


 フランさんは「マルドゥークという男の行方を知らないか」と聞いていた。


 ギルドを出ようとした俺たちに「またねー」とおねえさんが手を振って、愛想よく送り出してくれた。


 ぱらぱらと増え始める冒険者たちを尻目に、俺たちは石の建物を出た。

 今日の仕事をする前に、やることがある。

 依頼人の元に向かう途中、フランさんに尋ねた。


「……あの。フランさんまでついてくることはないんじゃないですか?」

「面白そうだもん」

「マルドゥークさんは、いいんですか」

「だって行方わかんなかったし。しばらく おにいさんたちと一緒に居たいなー、なんて」

「いいですけど。サーシャさん達は構わないですか?」

「いいよ」

「うん! 獣人のおねーちゃん、おもしろい!」

「おもしろ? ま、まあ、あたしの尻尾は白いけど。それ、なにか関係ある?」


 なにか違うと思いながら街を歩いた。


 仕事の達成報告には2種類の方法がある。


 ひとつは受付で すべて済ませてしまう方法。

 この場合だと、依頼人に会う事はない。

 採集クエストで、なにかを集めた場合も、預けておけば依頼人が取りにくる。

 ただし手数料として、多少、成功報酬から引かれてしまう。

 

 もうひとつは、依頼人に直接会って品物を渡したり、達成報告をしたりする方法。

 こちらは仲介料しか掛からない。

 依頼人からこの方法を指定されるときもあるが、どちらにも、手間がかかるので基本、受付ですべて済ませる方法が主流のようだ。


 今回、サーシャさんが受けた【光ゴケ】を集める仕事と、俺が受けた薬草の報告には、この方法が指定されていた。

 直接、依頼人の元に報告に行かなければならない。


 まずは薬草の報告から。

 道中けっこう歩いた。途中でマアトがへばりそうになっていたので、おぶってあげた。

 それを見ていたサーシャさんが微笑ましそうにしていたが、フランさんは「うらやましい?」と茶化したので、大騒ぎになった。


 長い田舎道が続く。

 麦畑に金の穂が、ゆらゆらと風にそよいで揺れていた。

 大きい街でも、こういう風景があるんだな。


 畑仕事をしていたおじさんが遠くから「おーい」と呼んでいた。

 あのおじさんが依頼人だろうか。


「いや、悪いな、こんなところまで来てもらって。あんたたちが薬草を集めてくれた冒険者だろ?」

「はい」


 背中におぶったマアトをそっと降ろし、薬草を渡す。

 おじさんは、怪我をした子供のために薬草が必要だったらしい。


「ごくろうさん。こいつが代金だよ」

「どうも」


 銀貨を10枚ほど入った袋を、ずしっ、と手渡される。


「いや、助かったよ。子供の看病もあるし、農家の仕事もあるしな。こうやって届けてくれる冒険者がいてくれると本当にありがたい」


 豪快に笑うおじさんと別れて、サーシャさんのクエストの報告に向かった。



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