薬草は誰が為に
◇◇◇
騒がしい街も静けさを保っている。
ギルドにつくと、受付のおねえさんがクエストを貼っていた。
「おはようございます」
「あら、おはよう。イモちゃんと……ゆかいな仲間たち」
声を掛けた俺たちに気づくと、仕事を放り出して、歓迎してくれた。
「なんですか、ゆかいな仲間たちって」
「そっちは新顔でしょ。なに、イモちゃんもついにパーティー組むんだ?」
「ううん、違うよ」
「あたしは、心に決めてる人がいるもので」
「あらそうなの。ま、いいや。それよりも~」
おねえさんが、目にも止まらぬ素早さで、
「マアトちゃーーーん!」
がばっとマアトに抱きついた。
突然の行動に困惑するマアトだが、それがおねえさんに油を注いでいることに気づいていない。
「はぁはぁ可愛い……持って帰りたい」
頬擦りしていた。
昨日、3人でギルドを訪れたときに、すっかりマアトに骨抜きにされたようだった。
「だめ」
「けちー。じゃあ、イモちゃんでいいや。持って帰らせて?」
「やだ」
「ちっ」
それでいいのか、おねえさんは。
おっと目的を忘れるところだった。
サーシャさんが掲示板に貼られたリストを見て、何枚か手に取っている。
俺にも、できそうな仕事がないかと目を通してみた。いくつか良さそうなのがあったので、そのうちのひとつを選んだ。
フランさんは「マルドゥークという男の行方を知らないか」と聞いていた。
ギルドを出ようとした俺たちに「またねー」とおねえさんが手を振って、愛想よく送り出してくれた。
ぱらぱらと増え始める冒険者たちを尻目に、俺たちは石の建物を出た。
今日の仕事をする前に、やることがある。
依頼人の元に向かう途中、フランさんに尋ねた。
「……あの。フランさんまでついてくることはないんじゃないですか?」
「面白そうだもん」
「マルドゥークさんは、いいんですか」
「だって行方わかんなかったし。しばらく おにいさんたちと一緒に居たいなー、なんて」
「いいですけど。サーシャさん達は構わないですか?」
「いいよ」
「うん! 獣人のおねーちゃん、おもしろい!」
「おもしろ? ま、まあ、あたしの尻尾は白いけど。それ、なにか関係ある?」
なにか違うと思いながら街を歩いた。
仕事の達成報告には2種類の方法がある。
ひとつは受付で すべて済ませてしまう方法。
この場合だと、依頼人に会う事はない。
採集クエストで、なにかを集めた場合も、預けておけば依頼人が取りにくる。
ただし手数料として、多少、成功報酬から引かれてしまう。
もうひとつは、依頼人に直接会って品物を渡したり、達成報告をしたりする方法。
こちらは仲介料しか掛からない。
依頼人からこの方法を指定されるときもあるが、どちらにも、手間がかかるので基本、受付ですべて済ませる方法が主流のようだ。
今回、サーシャさんが受けた【光ゴケ】を集める仕事と、俺が受けた薬草の報告には、この方法が指定されていた。
直接、依頼人の元に報告に行かなければならない。
まずは薬草の報告から。
道中けっこう歩いた。途中でマアトがへばりそうになっていたので、おぶってあげた。
それを見ていたサーシャさんが微笑ましそうにしていたが、フランさんは「うらやましい?」と茶化したので、大騒ぎになった。
長い田舎道が続く。
麦畑に金の穂が、ゆらゆらと風にそよいで揺れていた。
大きい街でも、こういう風景があるんだな。
畑仕事をしていたおじさんが遠くから「おーい」と呼んでいた。
あのおじさんが依頼人だろうか。
「いや、悪いな、こんなところまで来てもらって。あんたたちが薬草を集めてくれた冒険者だろ?」
「はい」
背中におぶったマアトをそっと降ろし、薬草を渡す。
おじさんは、怪我をした子供のために薬草が必要だったらしい。
「ごくろうさん。こいつが代金だよ」
「どうも」
銀貨を10枚ほど入った袋を、ずしっ、と手渡される。
「いや、助かったよ。子供の看病もあるし、農家の仕事もあるしな。こうやって届けてくれる冒険者がいてくれると本当にありがたい」
豪快に笑うおじさんと別れて、サーシャさんのクエストの報告に向かった。




