仲直りは、ダチョウ式で
◇◇◇
帰りの路を急いで、自然と足が早くなる。
行きはよいよい、帰りは怖い。なにが起こるか、わからない。
狼に連れ去られたフランさんは、どうなってしまったのだろう。
無事であって欲しいと思ったが、今の俺たちに確かめる術はない。
マアトと手を繋いで、前を歩くサーシャさんに遅れないようについていく。
俺もサーシャさんも、言葉数が少なくなっていた。
「ねぇ。まだ仲直りしてない、の?」
「したよ」
様子がおかしいと察したマアトが尋ねて来たので答えてあげた。
彼女も同じ言葉を返している。
ついさっきのことを、サーシャさんがまったく気にしてないことはないと思う。
けど、これから挽回すればいい。
「でも、ヘン」
「そう?」
「いつもどおりだよ」
納得できないマアトが、
「……おとーさん、おかーさん。ちゅー、して見せて?」
「ぶっ!?」
「えっ!?」
衝撃的な言葉を投げかけてきた。
「仲直りしたんだよね? だったら、ちゅー、できるよね?」
面食らってしまった俺たちが、互いに顔を見合わせる。
どうしよ。
「あ、あのね。マアト。ちゅー、って言うのはね。その……大事なときにしか、しないものなの」
できるだけ穏やかに、努めて冷静に対処しようとしていたサーシャさんだったが、
「仲直りって、大事なときだよ?」
「うっ。そ、そう、だね」
マアトが正論で論破した。
「まだケンカしてるから、やっぱりできないの?」
「あの、ね。その、もうケンカはしてないの、ほんとだよ。でも」
「じゃあ、おとーさんのこと、きらいになったから、できないんだ……」
「ち、ちがう……きらい、とかじゃ、なくて」
マアトの連続攻撃を前に、どんどんしどろもどろになっていく。
「おとーさんのこと、すき?」
「……」
サーシャさんが黙った。
「すき?」
「……」
答えない。マアトは悲しそうに、もう一度尋ねた。
「すき、だよね?」
「う、うん。好きだよ。ル、、おとうさんのことは」
「じゃあ。ちゅー、して。おとーさんと」
サーシャさん、正直すぎるなぁ。
困り果てた彼女が、ついに、こちらを向いた。顔が赤い。
「……ごめん。わたしじゃ嫌かもしれないけど、すこしだけ、我慢してくれる?」
もはやこれまでと観念したサーシャさんは、やる気だ。
ゆっくりと近づいてくる。
「ま、待ってくださいよ。いいんですか、それで」
「わたしは、いい……あの子が泣くところ、見たくない」
彼女の甘い息がかかる。いい匂いがしてクラクラする。
「けど! ダメですよ、こんなの!」
俺は、鋼の精神力で、彼女を、ぐっと押し退けた。
拒絶されたサーシャさんは、呆気に取られていた。
「どうして」
「あなたが、言ったんじゃないですか。こういうことは、大切なときにするものだって」
「……そう、だね。ルドにとって、今は、大切なときじゃない」
「違いますよ。そういうことでは」
曖昧な俺の態度に、彼女が別の意味で顔を真っ赤にした。
「違わない! ルドのバカ! わたしは、こんなに、ルドのこと――」
「バッ、また、バカって言いました!?」
「ルドがバカだからバカっていって何がわるいのバカ!」
「バカって言う方が、バカなんですよ!」
「ふにゅううううう!!」
「ふかーーー!」
お互いに にらみ合って威嚇した。
マアトはおろおろして泣き出しそうだった。
サーシャさんの唇に目を向ける。もう、どうにでもなれ。
「じゃあ、しますよ! 後になって返してって言われても、返せませんよ!?」
「そんなこと言わない! 好きにすればいい!」
売り言葉に、買い言葉。お互いの唇が触れ合った。
やけくそ気味の、キス。ロマンの欠片も無い口付け。
小鳥が挨拶をするような、触れるだけのキスをした。柔らかかった。
途端に今まで猛っていた気持ちが落ち着いてくる。
サーシャさんに対する愛しさが胸にこみ上げてくる。
同時に、今までの自分はとてつもないバカなことをしていたんじゃないか、という後悔が怒涛のように押し寄せた。
「す、すいません」
「う、うん。……わたしも、ごめんなさい」
そっと離れると、お互いに、顔を背けてしまった。想像以上に、恥ずかしいぞ、これ。
「よかった! これで、仲直り!」
マアトは俺たちが仲直りしたことを、無邪気に喜んでいた。




