表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第三章 影に射さぐ。
34/96

仲直りは、ダチョウ式で

 ◇◇◇


 帰りの路を急いで、自然と足が早くなる。


 行きはよいよい、帰りは怖い。なにが起こるか、わからない。

 狼に連れ去られたフランさんは、どうなってしまったのだろう。

 無事であって欲しいと思ったが、今の俺たちに確かめる術はない。


 マアトと手を繋いで、前を歩くサーシャさんに遅れないようについていく。

 俺もサーシャさんも、言葉数が少なくなっていた。


「ねぇ。まだ仲直りしてない、の?」

「したよ」


 様子がおかしいと察したマアトが尋ねて来たので答えてあげた。

 彼女も同じ言葉を返している。

 ついさっきのことを、サーシャさんがまったく気にしてないことはないと思う。

 けど、これから挽回すればいい。


「でも、ヘン」

「そう?」

「いつもどおりだよ」


 納得できないマアトが、


「……おとーさん、おかーさん。ちゅー、して見せて?」

「ぶっ!?」

「えっ!?」


 衝撃的な言葉を投げかけてきた。


「仲直りしたんだよね? だったら、ちゅー、できるよね?」


 面食らってしまった俺たちが、互いに顔を見合わせる。

 どうしよ。


「あ、あのね。マアト。ちゅー、って言うのはね。その……大事なときにしか、しないものなの」


 できるだけ穏やかに、努めて冷静に対処しようとしていたサーシャさんだったが、


「仲直りって、大事なときだよ?」

「うっ。そ、そう、だね」


 マアトが正論で論破した。


「まだケンカしてるから、やっぱりできないの?」

「あの、ね。その、もうケンカはしてないの、ほんとだよ。でも」

「じゃあ、おとーさんのこと、きらいになったから、できないんだ……」

「ち、ちがう……きらい、とかじゃ、なくて」


 マアトの連続攻撃を前に、どんどんしどろもどろになっていく。


「おとーさんのこと、すき?」

「……」


 サーシャさんが黙った。


「すき?」

「……」


 答えない。マアトは悲しそうに、もう一度尋ねた。


「すき、だよね?」

「う、うん。好きだよ。ル、、おとうさんのことは」

「じゃあ。ちゅー、して。おとーさんと」

 

 サーシャさん、正直すぎるなぁ。

 困り果てた彼女が、ついに、こちらを向いた。顔が赤い。


「……ごめん。わたしじゃ嫌かもしれないけど、すこしだけ、我慢してくれる?」


 もはやこれまでと観念したサーシャさんは、やる気だ。

 ゆっくりと近づいてくる。


「ま、待ってくださいよ。いいんですか、それで」

「わたしは、いい……あの子が泣くところ、見たくない」


 彼女の甘い息がかかる。いい匂いがしてクラクラする。


「けど! ダメですよ、こんなの!」


 俺は、鋼の精神力で、彼女を、ぐっと押し退けた。

 拒絶されたサーシャさんは、呆気に取られていた。


「どうして」

「あなたが、言ったんじゃないですか。こういうことは、大切なときにするものだって」

「……そう、だね。ルドにとって、今は、大切なときじゃない」

「違いますよ。そういうことでは」


 曖昧な俺の態度に、彼女が別の意味で顔を真っ赤にした。


「違わない! ルドのバカ! わたしは、こんなに、ルドのこと――」

「バッ、また、バカって言いました!?」

「ルドがバカだからバカっていって何がわるいのバカ!」

「バカって言う方が、バカなんですよ!」

「ふにゅううううう!!」

「ふかーーー!」


 お互いに にらみ合って威嚇した。

 マアトはおろおろして泣き出しそうだった。

 サーシャさんの唇に目を向ける。もう、どうにでもなれ。


「じゃあ、しますよ! 後になって返してって言われても、返せませんよ!?」

「そんなこと言わない! 好きにすればいい!」


 売り言葉に、買い言葉。お互いの唇が触れ合った。

 やけくそ気味の、キス。ロマンの欠片も無い口付け。

 小鳥が挨拶をするような、触れるだけのキスをした。柔らかかった。

 途端に今まで猛っていた気持ちが落ち着いてくる。


 サーシャさんに対する愛しさが胸にこみ上げてくる。

 同時に、今までの自分はとてつもないバカなことをしていたんじゃないか、という後悔が怒涛のように押し寄せた。


「す、すいません」

「う、うん。……わたしも、ごめんなさい」


 そっと離れると、お互いに、顔を背けてしまった。想像以上に、恥ずかしいぞ、これ。


「よかった! これで、仲直り!」


 マアトは俺たちが仲直りしたことを、無邪気に喜んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ