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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第三章 影に射さぐ。
30/96

やっぱり、おやくそくの展開。


 ◇◇◇


 湿り気を帯びた薄暗い通路を抜けると、広間があった。ごつごつした石が転がっており、奥には右と左に通路が分かれている。

 ずいぶんと見通しが良い。ここなら落ち着けるだろう。疲れた俺たちは適当なところで、くつろぐ。

 マアトは、さっき泣きじゃくったせいか、すっかり大人しくなってしまった。何も言わないけど、動きが重たい。


「マアトの服、着替えさせてあげたほうが良くありませんか」

「うん。スライムの粘液に害はないけど、服が濡れたままだと、すごく重たい。あの子にはつらいと思う」


 2人でマアトを見る。戸惑っているように見えた。


「ふく、脱いだほうがいいの? ……でも、」


 ちらちらと俺を気にする様子を見せるマアト。察したサーシャさんがマアトに尋ねた。


「おとうさんでも、恥ずかしい?」

「……恥ずかしい」

「だいじょうぶ。誰も、あなたのことを笑ったりしないよ。あなたのおとうさんは優しい人でしょ?」


 本当に小さく、こくり、とマアトは頷いた。サーシャさんが近づいて、そっとマアトに触れた。

 

「服、脱がすね?」

「……うん」


 サーシャさんが彼女の服を脱がせていく。おとなしい人形のようだった。

 しゅる、という衣擦れの代わりに、ぐちょり、と言う粘り気のある音が聞こえてくる。


「うぇぇ、べとべとするぅ」

 

 サーシャさんは持っていた布きれで、スライムの粘液に塗れた彼女を、丁寧に拭いてあげていた。

 マアトはくすぐったそうにしていた。


 ほんのりと実った赤い果実。これから色付いていくだろう果実。この子は、未だ芽すら出ていない。

 それが可愛らしくもあり、美しくもある。男性とも女性とも取れる中世的な身体。

 サーシャさんをニンとするならば、マアトはフェリーと言うところだろう。


「んっ、しょ」


 なにを思ったか、サーシャさんもアーマーを外して上着を脱いだ。薄いシャツ一枚になる。

 俺は赤面した。


「ごめんね。しばらく、これで我慢して」

「え、おかーさんは?」

「わたしにはアーマーがあるから」


 どうやら自分の上着を服の代わりに着せてあげるようだ。

 マアトが首を通すと、するっと、入る。


「おおきくて、あったかい」

「そう? あ……下着もぐしょぐしょだね。脱いだ方が、いいかも」

「え。脱ぐの? ぱんつも? おとーさんの、前で……?」


 恥ずかしそうにマアトがこちらを見た。

 どうやら、彼女が着けている白い下着も、べとべとらしく早急に脱がしたほうがいいらしい。

 なんというか……いけない感情がうずまいてきそう。


 俺の心中の葛藤を察知したのか。

 サーシャさんが、ふいにマアトの元を離れて、俺の方に近よってくる。

 

「なんですか?」

「……【つぶし】」


 ぷす。

 サーシャさんが遠慮なく俺の両目を塞いだ。


「ぐぁぁぁぁぁあああ!!?」

「ルドは、見ちゃ、ダメ」


 目が!! 俺の目がぁ!!

 ちかちか光る赤い星が、ブラック一色に染まった視界に浮かんだ。

 俺は、もんどりうって、ダンジョンを転がる。でこぼこしていて、冷たかった。

 どこぞの大佐の気分を味合わった。


 マアトとサーシャさんの声が遠くから聞こえた。


「おかーさん! おとーさんが、おとーさんが、床、ごろごろって、してる!」

「ダンジョンが汚れてるから、おとうさんは、ちょっとお掃除しないといけないんだって」

「……おとーさん、大変なんだね」

「うん。おとうさんは大変なの。だから、一緒に向こうに行って、着替えようね」

「はーい!」


 サーシャさんはマアトを、俺の視界に入らない場所で着替えさせるようだった。

 アオオォー、と不気味な声がダンジョンの奥から木霊した。

 ぼんやりとしか見えないが、不思議ともう目は痛くなかった。



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