ニートは少女と初めての夜を迎える。①
◇◇◇
閑散とした木造の家がぱらぱらと見えてくる。想像以上に自然が多い、のどかな村だ。
こんなときでなければ、いつかゆっくり観光したいな。
早く歩いたせいか、足が棒のようだ。どこかで休みたい。
女性は入り口についたところで、
「…それじゃあ」
俺を置いてどこかに行こうとする。
ちょっと待って、という意思を暗に態度で訴えてみた。
「まだ、なにかあるの」
うっ。なんか、ちょっと視線が冷たい?
気のせいだ、気のせい。
「あの、これからどこに行けばいいですかね」
「…家に、帰らないの?」
「いや、交通手段が欲しいんですけど。最寄の駅とか、できれば都市部に出られるルート、夜間運行のバスなんて、ありませんかね?」
「? よくわからないけど…ギルドに行きたかったの?」
またギルドか。ファンタジーっぽく徹底してるなぁ。
トラブルがあったときのために本部を置いてるんだろう。
「ギルドって、総合受付みたいなものですか? このツアーの」
「…そんな感じ、たぶん」
「なら、そのギルドに連れて行ってください」
「今日はもう遅いから宿を取って休んだほうがいいよ。宿は、あっちにあるから」
あっちか。明かりを頼りに歩いていけば、迷う事も無いだろうな。
「ありがとうございます」
「ねぇ。お金は、ある?」
宿の料金か。そりゃそうだ何をするにしても、お金がいる。
少しヒヤッとしたが、ポケットを探ると、くしゃりと曲がった紙幣。1万円。
両親がエサ代として俺にくれたものだ。
サンキュー、オカン!
「これで足りますかね」
「…なに、それ」
1万円札を見た女性は怪訝な表情をした。
「宿に泊まるなら銀貨じゃないと、だめだよ。ほら、これ」
ちゃりちゃり。女性は懐から数枚の硬貨を取り出して見せてくれた。
夜の月に銀貨が光る。
あんな硬貨、見たことが無い。
「…」
「……」
嫌な沈黙が続いた。そして、
「お金、持ってない、の?」
「……」
「うそ、銅貨くらいは」
俺は力なく首を振った。身体の震えが止まらない。
足元がぐらつく。俺はなにか決定的な思い違いをしているんじゃ、
いや待て。そうか。換金所だ。換金所があるんだ。
「銀貨は、どこで手に入るんですか」
「どこって…働いたり、ギルドで貰ったり、いろいろ…」
「つまり、ギルドで交換してもらえるんですね」
「うん…そう、なのかな…」
「だったらなおさら明日ギルドに行く必要がありますね」
さすがはファンタジーツアー。よく考えられている。
考えてみれば、ファンタジー世界で日本円を使って取引してたら、雰囲気ブチ壊しだ。
専用のメダルなり、コインなりと交換できる換金所があって当然だ。
ちょっとゾッとしてしまった。
俺がひとり納得する中、女性は妙に難しい顔をしていた。