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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第三章 影に射さぐ。
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そうだ、ダンジョンに行こう!


 ◇◇◇


「ダンジョン?」


 昼食を食べ終わると、サーシャさんは【光ゴケ】とやらを採るクエストのために、これからダンジョンに向かわないといけないらしい。

 ギルドでマアトのことを聞いた際に、頼まれてしまったそうだ。


「病気の人がいるから、急いで欲しい、って。ダンジョンに生えた【光ゴケ】はエルフの作る秘薬の材料になるんだよ」

「少しくらい休んでもいいんじゃないですか。せっかく戻ってきたんですし」

「ううん。ふたりの顔を確認したかっただけなの。すぐに行かないと」


 当のマアトは俺の膝の上に座って、遠慮がちに俺たちの話を聞いていた。少しは慣れたのかな? マアアトが俺を見上げて聞いてくる。


「どこかにいくの?」

「ダンジョンに行くんだって」

「おとーさん、ダンジョン、ってなぁに?」


 そんな疑問をぶつけてくる。ダンジョンって何、か。そんなの俺もわからないよ。子供って、ときどき大人でもわからない質問をしてくるよな。


「暗くってジメジメした場所かな」

「……おかーさん、どうしてそんなところに行くの?」

「そうだなぁ。ゲームとかだと、ダンジョンには宝があって、ドラゴンとかの魔物がそれを守ってる。冒険者は、そのお宝を目当てにダンジョンに挑むんだけど」

「おたから!?」


 好奇心をそそられたマアトが、


「いっしょに行きたい!」


 と、席を立ったサーシャさんに飛びつく。


「あのね。遊びに行くんじゃないの。お仕事なの。ここでルド……えっと……お、おとーさん、と、待っててくれる?」 


 困った彼女はマアトの頭をそっと撫でて、たしなめたが、


「やだ……マアト、おかーさんとおとーさんといっしょにいたい」

「すぐに帰ってくるよ」

「やぁ! いっしょがいい! おいていかないで!」


 マアトは聞き分けなかった。

 まずい。目が潤んでる。すぐにでも、爆発しそうだ。

 なんとなくマアトの気持ちがわかった。この子は俺と同じだ。何も知らされず、途方もない状況に放り込まれた俺と。


 俺は、大人だから。都合のいい解釈をつけて、どうしようも無いストレスにだって耐えられる。

 でも、この子は違う。状況を受け止めるには、あまりにも幼く、弱い。


「……行ってくれませんか? 一緒に。俺が彼女の側についてますから」


 その言葉を聞いて、マアトの目から涙が一筋こぼれた。つぅ、と彼女の頬を伝う。ようやく笑ってくれた。


「もう。ルドまで、なにを言ってるの」

「採取クエストですよね? だったら人手はあっても いいんじゃないですか」

「それは、そう、だけど」

「迷惑かけません」


 サーシャさんはしばらく考え込んでいたが最後には「……しょうがないね」と笑って、了承してくれた。


「でもわたしの言ったことは必ず守って。約束してくれる?」

「うん!」

「もちろんですよ」


 ダンジョンか。こういうと不謹慎だが、ちょっとだけわくわくする。ギルドで【ギルドダンジョン】とか、呼び込みの人が言ってたが……それのことかな?

 俺とサーシャさんは、マアトの小さな手をしっかりと握って、宿を後にした。街は、いまだ活気に満ちていた。



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