お昼はオビ。
◇◇◇
たくさんの人で賑わっている地面が細く長い影で染まる。小麦を焼く香ばしい匂いがどこかからする。
昼前の太陽と熱気が街を包む。俺たちが3人で街まで戻ってくると、街は活気に溢れていた。
この辺りは3食がパンなのかもしれない。若い冒険者が屋台の露店でパンを買っていた。
俺たちは顔を見合わせた。
「この後、どうしましょう」
サーシャさんが、背負っていたマアトを起こさないように抱きかかえた。そのまま「はい」と言って、そっと俺に渡した。
「えっ?」
「ルドは、その子を連れて宿に戻ってて。わたしはギルドに行ってくる。この子のこと、知らせてあげないと。誰か探してるかもしれないし」
「俺一人で宿に戻るんですか?」
「お願い」
サーシャさんは真摯に俺の目を見た。俺も彼女の目を見つめる。どこかでこの目を見たことがあると思った。……誰かを心から案ずる目。こんなときでも、彼女は可愛かった。
「わかりました。昨日の宿ですよね」
「うん。すぐ戻る」
サーシャさんが駆けていく。俺と離れた彼女の姿は、人に埋もれて、すぐに見えなくなった。
その場にぼうっと立ち尽くして喧騒を聞いていた。両腕に重みを感じる。マアトの柔らかさと暖かさが伝わってくる。羽が生えてるみたいに軽かった。子供って、こんなに軽いのか。
(はやく、帰ろう)
俺は、心持ち不安に襲われた。マアトを抱えて、暖かい木造の宿に戻る。何もなかった。
部屋についた俺は一息ついて、ベッドに、マアトを寝かせる。すこし手が疲れた。ブンブンと手を振っていると、
「おや、帰ってたのかい」
手に2人分の料理を持ったおばさんが部屋に訪れた。昼食かな? おいしそうだ。
「ええ」
「ちょうど良かったよ。今、並べるからね。冷めないうちに食べておくれ」
おばさんは食卓に料理を並べていく。牛肉っぽい肉を豪快に焼いたもの。オビル、という肉らしい。これに葉野菜と、果実が彩りを添える。
あと、スクランブルエッグとパン。やっぱり基本パン食なんだな。おばさんに話し掛ける。
「温泉のこと聞きました?」
「大きな穴が開いてたことかい。妙な男がロクに事情も説明しないで、自分がやったと言って、山盛りの銀貨を置いていったけども」
「妙ですね」
「妙だろ。宿泊客でもないやつがさ。さ、冷めないうちに……」
笑いながら話していたおばさんの視線がベッドの上でぴたりと止まる。
「……あんたたちの子かい?」
おばさんが不審な顔をした。俺は適当にごまかす。
「そうですよ」
「今朝までいなかっただろ。まさか。誘拐とかしてきたんじゃないだろうね?」
「違います」
「……なら、いいけどね。あまりトラブルを起こさないでおくれよ」
昼食を並べておばさんは帰っていった。
ベッドの上で眠るマアトを見る。とても愛らしい寝顔をしていた。頬をつつく。ぷにぷにと弾力があって跳ね返される。夢でも見ているのか、ときおり、可愛い声をあげる。
ぼうっと、ただ眺めていると、
「おとー、さん?」
マアトが起きた。眠そうにしている。まだ意識がはっきりしていないようだ。
「おはよう」
「ここ、どこ?」
「宿だよ」
「おかーさんは?」
「すぐに帰るよ」
「……おとーさん。おなか、すいた」
くぅ、とお腹が鳴った。部屋は料理のいいニオイでいっぱい。しょうがないね。
「おいで」
「うん」
マアトの手を引いて、二人羽織のような状態で抱きかかえて座らせる。
まだ眠いのか、俺に身体を預けてくれる。
「どれから食べたい?」
「くだもの」
「はい、あーん」
可愛い口を開けてくれる。
「おいしい」
「よかったね」
「う、ん」
もぐもぐ、とマアトが果物を食べる。
ついで葉野菜、肉、パン、と食べさせていくうちに、段々マアトの様子がおかしくなってくる。
初めは素直に口を開けてくれたが、今は「じ、自分で食べれるから」と言ってちっちゃい手で食器を握って、一生懸命食べ物を口に運んでいるし、チラチラと後ろの俺を恥ずかしそうに気にしている。なぜに?
そんなことがあって、昼食をのんびり食べ終えて、二人でジャンケンだとかの簡単な遊びをして遊んでいると、サーシャさんが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「おかーさん」
出迎えた俺とマアトを交互に見て、
「仲、いいね」
と、嬉しそうに言った。
「一緒にお昼を食べてました。サーシャさんもどうです?」
「うん。食べる」
サーシャさんも席につく。
「マアトのこと、なにかわかりましたか」
「聞いてみたけど、何もわからなかった。この子を探してるクエストもないみたい」
もぐもぐと、彼女が料理を口に運ぶ。
「おいしい」
「一番おいしいと思ったのは、パンですよね?」
「……すごい。どうしてわかるの?」
驚くサーシャさん。一通り食べ終わったところで、聞いてみるとズバリだったようだ。彼女の好みがわかるようになってきたのが嬉しかった。




