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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第三章 影に射さぐ。
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初クエストは近くの森で。


 ◇◇◇


 森の入口で、俺は買ってきたアーマーを身につけてポーズを決めた。短刀と弓もアーマーに取り付けた。

 強くなった気がする。これで俺も見た目だけは立派なコスプレイヤーだ。


「かっこいい」

「ありがとうございます」


 サーシャさんが誉めた。なんか照れるな。

 昨日もらった銀貨はほとんど無くなったけど、また稼げばいい。

 このを自分好みにどんどんカスタマイズしていこう。楽しそうだ。


 目的地の森は街のすぐ近くにあって、昨日泊まった宿屋も小さく確認できた。温泉からは雑木林に見えたけど、森だったんだな。


「行く?」

「ええ」


 さくっさくっ、と二人分の足音が響く。変わった形の木々が立ち並んでいる。日は優しく森を照らし、緑の光景を描いた。かさかさと草むらが動くと、小鳥がどこかへ飛んでいく。その後を追う獣がいる。美しい自然の原風景を歩いていると広場のような場所に出た。4~5人くらいの子供が遊んでいる姿がある。


「あぶなくないんですか」

「この森の魔物は、大人しい子ばかりだから、へいきだよ」


 サーシャさんが微笑んだ。子供たちを見送って森の奥を進む。途中、野性の変わった動物を見かけたけど、あまりこちらを意識していないようだった。人に慣れてるのかな。

 木々が鬱蒼としてきて、深緑が日を遮る。サーシャさんの足が止まった。

 注意深く立派な大樹の根元を調べて、


「たぶん、この辺りに……あ、あったよ。ルドの探し物」


 俺に何束か、緑色の草をまとめて手渡した。乾いた土がついていて、日の香りがする。


「こういう、えっと。太い樹、の根元に生えてることが多いの。樹の影でよく見えないこともあるから、すこし掘ってみたほうがいいよ」


 これが『薬草』なのか。そう教えてくれた彼女の手は泥だらけだった。


「ありがとうございます」

「うん」


 薬草を教えてもらったので、探してみる。これと同じもの、これと同じ……見つけた。樹の根元に先端部分が見えていた。

 結構、生えてるな。土を払って採取していく。俺も泥だらけになった。

 サーシャさんも何か探しているのか、樹を見渡していた。確か、木の実だっけ。


「木の実って、どういう特徴がありますか?」

「紫色の小さな木の実だよ。甘くておいしいの。上の枝の方に、実が生ってるんだけど……。あ」


 樹を見上げていて、何かを見つけたらしい。


「サーシャさん?」

「……行ってくる」


 言うが早いか、サーシャさんはするすると太い樹を登っていった。小さな影があっという間に遠くなる。

 木の実を見つけたのかな? と思ったら、違うようだった。


 目をこらすと、枝のところに誰かがいる。

 身動きをしていないが、人であることがわかった。見上げないと気づかなかったぞ。

 樹は20メートルくらいありそうな立派なもので、太い枝は人が乗っていても、まったく揺れたりはしていなかった。

 しばらくして。


 サーシャさんが誰かを背負って、器用に降りてくる。……子供だ。子供はくぅくぅと眠っていた。

 誰だろ、この子。さっきの子供たちの友達かな? 木登りしてて降りられなくなったとか? ベタすぎるか。


「大変でしたね」

「ううん。寝てたから」


 子供を背負って樹を降りる。言うのは簡単だが、難しいと思うぞ。

 ……俺も登るくらいならできるかな? とりあえず木に手をかけて、右、左。


 がっ。

 がっ。


 ずるずると滑って、地面に足がつく。サーシャさんがそんな俺を不思議そうに見守っていた。


「個人的なプライドの問題でして。深い意味はありませんよ?」


 うん。コレ、無理だ。……地に足がついた俺。嬉しくない。

 白い羽根が空から落ちてくる。そのままふわりと地に落ちて、浮力を失った。



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