初クエストは近くの森で。
◇◇◇
森の入口で、俺は買ってきたアーマーを身につけてポーズを決めた。短刀と弓もアーマーに取り付けた。
強くなった気がする。これで俺も見た目だけは立派な冒険者だ。
「かっこいい」
「ありがとうございます」
サーシャさんが誉めた。なんか照れるな。
昨日もらった銀貨はほとんど無くなったけど、また稼げばいい。
この衣装を自分好みにどんどんカスタマイズしていこう。楽しそうだ。
目的地の森は街のすぐ近くにあって、昨日泊まった宿屋も小さく確認できた。温泉からは雑木林に見えたけど、森だったんだな。
「行く?」
「ええ」
さくっさくっ、と二人分の足音が響く。変わった形の木々が立ち並んでいる。日は優しく森を照らし、緑の光景を描いた。かさかさと草むらが動くと、小鳥がどこかへ飛んでいく。その後を追う獣がいる。美しい自然の原風景を歩いていると広場のような場所に出た。4~5人くらいの子供が遊んでいる姿がある。
「あぶなくないんですか」
「この森の魔物は、大人しい子ばかりだから、へいきだよ」
サーシャさんが微笑んだ。子供たちを見送って森の奥を進む。途中、野性の変わった動物を見かけたけど、あまりこちらを意識していないようだった。人に慣れてるのかな。
木々が鬱蒼としてきて、深緑が日を遮る。サーシャさんの足が止まった。
注意深く立派な大樹の根元を調べて、
「たぶん、この辺りに……あ、あったよ。ルドの探し物」
俺に何束か、緑色の草をまとめて手渡した。乾いた土がついていて、日の香りがする。
「こういう、えっと。太い樹、の根元に生えてることが多いの。樹の影でよく見えないこともあるから、すこし掘ってみたほうがいいよ」
これが『薬草』なのか。そう教えてくれた彼女の手は泥だらけだった。
「ありがとうございます」
「うん」
薬草を教えてもらったので、探してみる。これと同じもの、これと同じ……見つけた。樹の根元に先端部分が見えていた。
結構、生えてるな。土を払って採取していく。俺も泥だらけになった。
サーシャさんも何か探しているのか、樹を見渡していた。確か、木の実だっけ。
「木の実って、どういう特徴がありますか?」
「紫色の小さな木の実だよ。甘くておいしいの。上の枝の方に、実が生ってるんだけど……。あ」
樹を見上げていて、何かを見つけたらしい。
「サーシャさん?」
「……行ってくる」
言うが早いか、サーシャさんはするすると太い樹を登っていった。小さな影があっという間に遠くなる。
木の実を見つけたのかな? と思ったら、違うようだった。
目をこらすと、枝のところに誰かがいる。
身動きをしていないが、人であることがわかった。見上げないと気づかなかったぞ。
樹は20メートルくらいありそうな立派なもので、太い枝は人が乗っていても、まったく揺れたりはしていなかった。
しばらくして。
サーシャさんが誰かを背負って、器用に降りてくる。……子供だ。子供はくぅくぅと眠っていた。
誰だろ、この子。さっきの子供たちの友達かな? 木登りしてて降りられなくなったとか? ベタすぎるか。
「大変でしたね」
「ううん。寝てたから」
子供を背負って樹を降りる。言うのは簡単だが、難しいと思うぞ。
……俺も登るくらいならできるかな? とりあえず木に手をかけて、右、左。
がっ。
がっ。
ずるずると滑って、地面に足がつく。サーシャさんがそんな俺を不思議そうに見守っていた。
「個人的なプライドの問題でして。深い意味はありませんよ?」
うん。コレ、無理だ。……地に足がついた俺。嬉しくない。
白い羽根が空から落ちてくる。そのままふわりと地に落ちて、浮力を失った。




