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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第三章 影に射さぐ。
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武器を買おう。


  ◇◇◇


 盛んに呼び込みの声が聞こえる。ざわざわと人々が行き交い、色とりどりの商品が並んでいる。

 ギルドから出て、俺たちは街の中心部にある市場に来ていた。目的は俺の武具を買うため。おねえさんとサーシャさんに、冒険者として活動するなら身を守る準備はしたほうがいい、と勧められた為だ。

 要は『あんたもコスプレせぇや』ということだろう。


 市場の一角にあるお店の中に入ると、いろんな武具が並んでいた。イガイガのついた棒、すらりと格好いい長剣、無骨な大槌、細工の凝った短刀、壁に何本も掛けてある槍。すげぇ。みやげ物屋で木刀を目にした気分だ。なんか少年の心をくすぐられるわ。

 店主らしき元気のいいおっちゃんの声が聞こえてくる。客に武器を売っているようだ。


『この店いいよな。掘り出し物も結構あるし』

『せっかくだから仲間のぶんも買ってく? クエスト報酬、少しなら余裕あるし』


 どこかで見たような冒険者風のお客さん二人にぶつからないよう、店内を回る。

 値札らしきものが貼ってあって、どの武器も銀貨10枚ぐらいらしい。安いのかな。中古品だろうか。言われてみれば、ちょっと使用感がある気もするが、どれも良さそうに見えた。

 目移りしているとサーシャさんが一本の武器を持ってきてくれた。


「……ね。この剣とか どう? ルドに似合いそう」

「どれどれ」


 鈍く光る剣で、見た目は刀に近い。やや薄刃だが、受け取ってみるとしっかりとした重さがある。本物みたいだ。悪くない。


 ぶんっ。

 ぶんっ。


 軽く振ってみたが、なんだか俺が剣に振り回される感じ。俺の腕のせいかな?

 刀剣をうまく扱うためには対象を上手に断ち斬る必要がある。技量が未熟だと力が一点にかからず引き千切ってしまうそうだが、剣術なんて学校の剣道の授業でくらいしかやったことないからよくわからない。


「うーん」

「だめ?」

「すいません」


 コレクション用なら買ってもいいけど、実際に持って歩いて使う、ということを考えると俺には不相応だ。見た目は好みなんだけど。


「この弓。面白そうですね」


 近くにあった木製の小型弓を手に取って、試しに弦を引いてみる。ぴんっ、と跳ね返ってくる。小さいのにしっかりと造ってあるな。これなら実際に撃つこともできるだろう。良さそうだ。俺が弓を番えた姿をイメージする。


「……弓、使ったことあるの?」

「いえ。面白そうだなと」


 結局、俺は弓矢、短剣、プレートがついた革のアーマー、の3点を買う事にした。

 サーシャさんも何か買っているようだった。先に用事を済ませた俺は、すこしだけサーシャさんと離れ、店の外で待つ。


 そのスキにそいつは現れた。

 風が吹いた。気づけば首筋に冷たいものがある。刃が当てられている、と認識した瞬間、ぶるりと、背筋が凍えてきた。


「よう」

「あんたは」

「昨夜はどーも」


 軽い口調で背後から男が答えた。あいつだ。温泉でサーシャさんと戦った男。

 黒衣を着ていないが、その笑い声には覚えがある。

 男はその凶刃を、身動きができない俺に振り下ろすことなく、すぐに離れた。


「オマエら、俺のことをギルドに喋らなかっただろう。なぜだ?」

「なぜって……」


 なぜだろう。「わからない」と答えると、


「聞いてみただけさ。どうせただの気まぐれだろうがな」


 いろいろな要因があっただろうけど、事実、俺たちはしゃべらなかった。


「……強いて言えば成り行きかな」

「なんだそりゃ?」

「そういう性質なんだよ、俺は」

「なあ危機感が無さ過ぎねえか。オマエ、命を狙われたんだぜ? あの嬢ちゃんも相当なもんだが、オマエはその上を行くな。考え方が箱入りの貴族に近い。命を奪い奪われることがない世界に住んでるやつみたいだ」

「そうかな」

「そうさ。今、話してる最中だって、俺がその気だったら。8回は死んでるぜ、オマエ」


 ぞっとしたけど、俺は言い返す。


「でも、そうしなかっただろ、あんたは」

「……借りがふたつもできちまったからな。せいぜい死んでくれるなよ。あの嬢ちゃんを悲しませるな」


 言いたいだけ言って男は去った。買い物を終えたサーシャさんが戻ってくる。


「……? なにか、あった?」

「いえ、何も」 


 顔色の悪い俺を心配してくれる。

 そうさ。あんなのはツアーの演出だ。なにも、心配することはない。日が翳って、薄暗くなった市場を俺たちは後にした。



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